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顔を覆っていた手を外して、
「どうしてでしょうね…」
信じられないような面持ちで一言を呟いた。
「どうしてあなたには、人前では見せたことのない涙を、見せてしまうのか……」
自分でも何故なのか困惑が隠せずにいた。
「あなたの前では、自分が、自分でいられなくなってしまう……」
ひと息を吐いて、彼女にじっと瞳を合わせた。
「……他者を寄せ付けずにいることで保ってきた、完璧に取り繕ってきたはずの自分が、あなたの前ではいつも無意味になる……」
話しながら彼女の手をそっと包むように握って、
「……どうしてなのでしょうね…」
自分自身に問い返すように、もう一度同じ言葉をくり返した……。
気持ちを切り替えようと淹れた温かなコーヒーを飲みながら、「……永瀬さん」と、彼女に呼びかけた。
びくっと顔を上げるのに、ふっ…と小さく笑みがこぼれて、
こんな和やかな気持ちで、女性を見つめたこともないと感じた。
「……あなたには、初めは興味があっただけでした……。……私を避けるのならと、興味本位で誘惑をして、落としてしまいたいと思っていました……」
──こんな気持ちはついぞ感じたことはなかったからこそ、この人にだけは、自分の本心を伝えなくてはならないと、ソーサーからカップを持ち上げて立ち上る湯気にゆっくりと息を吹きかけた。
吹いた湯気の中に一瞬父の顔が浮かんで、(それでいいんだよ…)と、笑ったようにも見えた。
「落ちてしまえば、いくら初めは避けるような素振りを見せようとあなたも他の誰とも変わらないのだと、そう自分にも納得が付けられるようで……けれど、あなたは容易には落ちなくて、ただ責めるようなことしかできずに、私は……」
コーヒーの一口を含んで、渇く喉を潤して、
「……自信を、失くしていたんです。……私に落ちない女性などいなかったので、もう本当にあれで終わりにしてもいいかと、そう思っていました……」
誰にも晒け出したことのない本当の自分の弱さを、初めて語った──。