──彼女に別れを切り出した、かつての夜のことが思い出されると、
「……あの時、あなたにこだわる理由を聞かれて……自分でも、それがどうしてなのかよくわからなくて……」
コーヒーを口にして、ふぅ…っとひと息を吐いた。
「……ですが、今ならば、なんとなくわかる気がします……」
それから顔を上げ、じっと彼女を見つめて、
「……私は、あなたのことが、好きなのかもしれませんね……」
ずっと抱えてきた想いを、ようやく自らの言葉で告げた──。
「えっ……?」
ふいの告白に、驚いている彼女へ、
「正直、自分でも本当のところは、まだよくわからないのです……私は、自分から誰かを好きになったことなどがないので……」
ありのままの本心を伝えた。もう、隠し立てをするような気持ちは、何もないと感じていた。
そうだ、私は初めからずっと……彼女のことが気になっていて、
落としたくて仕方がなくて、手に入れたくて……
それは全て、彼女のことが好きだったからなのだと……
初めて気づいた感情に、胸が詰まるのを感じながら、
私には、まだ愛することのできる存在があるのかもしれないと……
『これからは、愛する人に助けられて行くんだよ』
父の言葉を、改めて思い出していた──
……自分がそうであったように、彼女からも戸惑いがひしひしと伝わってくるようで、
「無理に答えてくれなくてもいいのです。わかっていますから、あなたの気持ちは……。 ……私は、君に好かれるようなことを、これまで何もしてこなかったのですから」
そう話すと、「ですがこれからは、あなたを好きになっていきたいんです……。その中であなたがもし私を好きになるなら、それに応えてくれればいい……」自らの精一杯の思いを告げて、彼女の瞳へ正面から視線を合わせた。
「はい……」と頷くだけの返事に、今はそれでいいと感じた。この先どうなって行くのかは、流れに任せられれば構わなかった。
彼女のお腹の鳴る音が微かに聞こえて空腹が知れると、そう言えば長い間喋っていて、何も食事を摂っていなかったことに今さらのように気づいた。
「……私と、食事でもしますか? 嫌でなければ」
そう声をかけて、
「作りますよ、私が」
と、一言を添えた。
まだ誰にも振る舞ったことのない料理を、
彼女に、初めて食べてほしいと感じていた……。
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