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──それから数週間。
それぞれの階層ボスを撃破し、全て私たちの配下に従えることに成功した。
ダンジョンの各フロアボスは、みんな「正面」を向いて待ち構えている。
でも、私たちは”深部”から地上を目指して進んでいる。
そのため、なんと──!
ボスの「背後」からいくらでも奇襲できる!
『天の声:まぁ理屈はそうなるな』
だから、ボスたちは全く予想外の方向から登場した私たちに次々とやられていったのだった。
──私の脳にムダ様の言葉が蘇る。
『敵の背後を取ったら、まず一礼しろ。攻撃の後にも一礼だ。
そうすれば正々堂々になる。これがノブレス・オブリージュ。
貴族の嗜みだ。優雅か?』
「さすがムダ様……ジェントルメン……」
感涙。
以下、雑にダイジェストで解説しよう。
◇◇◇
──90階層ボス:サタン
一礼。
背後から突然辰夫を投げつけてみた。
キョロキョロとビックリしてたところを、
背後からドロップキック。
逆水平連打。
ドラゴン・スクリュー。
逆エビ固め。
勝利。
一礼。
*便利だったので【辰夫ロケット】と命名
「急に投げないでください!?」
地面を転がりながら、辰夫が悲鳴を上げる。
「手頃だった」
私は一礼しながら即答した。
「ドラゴンが手頃なお姉ちゃんの筋肉」
エスト様は楽しそうに拍手している。
*
──80階層ボス:ワイト
一礼。
辰夫をけしかけて攻撃を引きつける。
背後から後頭部をドロップキック。
倒れたところを執拗にストンピングして勝利。
一礼。
*便利だったので【辰夫シールド】と命名
「……」
辰夫が、何か言いたげに私を見つめてくる。
「なに?」
私は首を傾げた。
「辰夫どうした?」
エスト様は空気を読まずに笑顔だ。
*
──70階層ボス:サイクロプス
一礼。
「いけ辰夫! 辰夫ロケットォォォ!!!」
外した。
辰夫がズレた角度で天井に突っ込み、めり込む。
「……ふむ。私は文明を使いこなせない女だった」
めり込んだ辰夫を見上げながら、私は反省した。
「我は文明!?」
天井から、辰夫の魂の叫びが返ってきた。
結局、辰夫を引き抜いてから”辰夫ハンマー”で勝利。
一礼。
*【新技:辰夫ハンマー】辰夫を逆さまに持って叩きつける技。
「帰って良いですか?」
辰夫のタンコブが痛そうだ。
「なんで? ダメよ?」
私は爪の形を整えながら言った。
「辰夫! がんば」
エスト様がニコニコしてた。
羨ましいのかな。
じゃあエスト様も使ってあげよう。
*
──60階層ボス:グリフォン
一礼。
新技:エスト☆マジックスティック爆誕!
エスト様の両足を持って振り翳すと、
エスト様がビーム魔法を連発して勝利。
一礼。
「振れば振るほど魔法出るのすごい!」
私はエスト様を武器のように構えた。
「酔うううううう! やめてぇええ!」
エスト様の目が漫画みたいに回っている。
「遠心力で威力アップ……謎理論ですが効果抜群」
辰夫は一歩、距離を取った。
*
──50階層ボス:ワイバーン
一礼。
新技:エスト☆フルチャージ爆誕!
エスト様のツノをギュッと掴む!
ギュッ!!
「そこはダメぇ!!」
エスト様の魔力が一気にチャージされ、
大魔法をぶっぱなし、勝利。
一礼。
「これぞ最強合体技!」
私の目が輝く。
「もう限界……ストレスマックス……」
エスト様がうつ伏せのまま地面と会話している。
「ツノにそんな仕様が……」
辰夫は震えていた。
*
──途中のヴァンパイアの集落ボス:ヴァンパイアロード
自己紹介の“名前”のところで辰夫ロケット
ワンパンで沈黙。
*「ふはは!よくぞ来た!我輩こそは──」の途中で吹き飛んだ
「労災の手続きを……」
辰夫の目が死んでた。
「そんなもんないよ?」
私は辰夫に向かって微笑んだ。
「辰夫! お疲れ!」
エスト様が安堵しながら言った。
*
──40階層ボス:フェンリル
一礼。
この辺から辰夫の目が死んでいることに気づいた。
仕方ないので連携技「エスト☆マジックスティック」再び。
エスト様を振り翳すと遠心力で魔法威力アップ。
フェンリルワンパン。
一礼。
「私たち、確実に強くなってる……!
世界征服、本気でできそうな気がしてきた……!」
私はうんうんと頷いた。
「ぐるぐる〜目が回る〜……」
エスト様は、目が回っている。
「めちゃくちゃすぎる……」
辰夫が遠い目で呟いた。
*
──30階層ボス:キマイラ
一礼。
エスト☆マジックスティックを回避されて大混乱!
ピンチがチームを強くする!
新技:エスト☆マジックドリル爆誕!
エスト様の両足を持って錐揉み回転!
「絶対回しすぎ! ちょ、魔法暴発するぅ!!」
超回転のまま敵に魔法を放つ。
なんと!
魔法に貫通効果を付与することに成功! 無事に撃破!
一礼。
「威力すごない!?」
私は手応えに目を輝かせた。
「ちょっと泣いてくる……」
エスト様がその場にしゃがみ込む。
「物理と魔法の新時代がここに……!」
辰夫は笑ってない笑顔で頷いた。
「辰夫ゥァーッ!!次は!!お姉ちゃんで
サクラ・キャノンボールをするよッ!!
ふんがーーーーーッ!!」
エスト様が完全にキレた。
「殺されますぞ……?」
そして、遠い目の辰夫。
なんと!! 魔王軍に仲間割れの危機が!?
*
──20階層ボス:ゴーレム
一礼。
サクラ・キャノンボールをしようとエスト様と辰夫が奮起。
あっさりと避けられカウンター辰夫ロケットされる。
ゴーレムに弾かれ、辰夫撃沈。
逃げ回るエスト様を捕まえ、エスト☆フルチャージ。
「だからそこはダメえ!?」
効かない。クソ硬い。
「よく見たらオデコに”E”って書いてあるぞ?」
“E”を指でこすって消したら爆発四散。
一礼。
「ん? エスト様と辰夫の目から光が失われてるな?」
私は二人の顔を見比べた。
「「……」」
二人は同時に視線を逸らした。
「どうしたの二人とも!
連携技は二人を信頼してなきゃできないんだよ?
二人は最高の仲間だよ!?」
「「……」」
二人から返事は無かった。
*
──10階層ボス:ミノタウロス
一礼。
「……あれ? 二人がいない」
仕方なく自分でワンパン。
一礼。
「誰もいないって、私の扱いどうなってんのよ!」
と、後日会議。
◇◇◇
途中で覚えたエスト様のスキルで、
いつでも配下を召喚する事ができるようになった。
それぞれの階層ボスはその場でとどまる事とさせた。
数週間にわたるダンジョン攻略の果てに、
私たちは確かに強くなっていた。
*
──そして私たちは、ついにダンジョンの出口にたどり着いた。
長い暗闇を抜けると、眩しい光が私たちを出迎えた。
「光だ……!」
思わず漏れた声が喜びと安堵に震える。
「うわぁ……」
エスト様の声には、純粋な感動が溢れていた。
「ふむ……何百年ぶりか……」
辰夫の呟きには、深い感慨が滲んでいた。
目の前に広がっていたのは、
思わず立ち止まるような世界だった。
緑。とにかく緑。
地面が元気すぎて、踏んだら怒られそうなくらい。
遠くには山が連なっていて、
空はやけに広くて、逃げ場がないくらい碧い。
そよ風が頬を撫で、甘ったるい花の匂いが鼻に突き刺さる。
……地上、情報量多すぎ。
ここは、ただの地上じゃない。
目を逸らせない自由と、
まだ何も壊れていない未来が、
これでもかと並べられている場所だった。
……思わず、息を呑んだ。
……ムダ様……見えますか?……私たち、ついに……
かつてムダ様が言っていた、あの言葉が胸に蘇る。
『今まで何度も転んだ。
だが、転んだ数だけドラゴンスクリューの回転数が増えた』
そう……意味は分からない。
でもきっと意味はある。
だから私も…何度でも立ち上がる。
起きあがれる。
……そして、その先には──
私たちの征服すべき世界が広がっていた。
「行きますよ。エスト様、辰夫」
私は地上の光を背にして、二人を振り返った。
「うん! 世界征服だよ! お姉ちゃん!」
エスト様が辰夫の尻尾を掴んでぶんぶん振った。
「ねっ、辰夫も!」
「……ちょ、尻尾は……
ふ。まぁいい。うむ!楽しくなりそうですな!」
そう言って、辰夫は肩をすくめた。
口元だけが、わずかに緩む。
「よーし! 元気いっぱい!
ニッコニコで近くの街を火の海にして支配するわよー♪」
「「……」」
ドン引きする二人。
「やだなぁ……冗談だってば!
まずはパン屋を支配して、焼きそばパンを作る」
私たちは、この世界の”全て”を取りに行く。
ポンコツとヘタレを従えて──!
(つづく)
◇◇◇
──おまけ──
《天の声》
──以下はダンジョン攻略中でのエスト覚醒のログである。
*
「あ、レベル上がった!
なんかまた……頭に変な声が……」
エスト様が困惑した表情で頭を抱える。
『天の声:魔王認証確認』
『──《百鬼夜行》スキル、強制解放』
『──【補足】:このスキルは、倒した配下を問答無用で召喚します。拒否権もありません。ご了承ください』
「え!?私、配下を召喚出来るみたい!」
「……え?」
「ちょっとやってみるね!
百鬼夜行! サタン!」
「ん……?サタン?マジで?」
私と辰夫は興味津々だ。
──ズゴォォォォン!!!
地面を割って現れたのは──
昼寝をしているサタンだった。
サタンは召喚に気づかずに寝ている。
「お昼寝サタン来た!?」
「あはははははは!!」
私はお腹を抱えて笑った。
「さ、サタン、起きろ……」
辰夫がサタンをツンツンする。
「……ん? ん? んなー!?
リンドヴルム? あれ!? サクラ様!? エスト様!?」
「やっほー!!」
手を振るエスト様。
「あはは!もう用は済んだから帰っていいよ!」
私は笑いながらサタンの背中を叩いた。
「えっ何これ? ここどこ?
強制的に呼んどいて徒歩で帰るやつ!?」
「俺、なんで呼ばれたんだろ……」
サタン、泣きながら徒歩で90階層へ帰還。
「サタン! ごめんね! また困ったら呼ぶねー!」
「ヤメロー!」
サタンの悲壮な声が響く。
「うむ。あれはアレで良い……
歩いて帰るサタン……風情がある……」
私は腕を組みサタンの背中を見つめた。
「わ、我も召喚対象なのか…?」
辰夫がガクブルしている。
「なにこのスキル……便利すぎない?」
エスト様がキョロキョロしている。
「百鬼夜行……最高に魔王っぽいね」
──そのとき。
『天の声:ついでにもうひとつ』
『──スキル《パンドラの筺》、強制開放』
「あれ! また頭に声!」
──パァァァァァン!!!
エスト様の目の前に、
”ゴツくて無駄にカッコいい黒い宝箱”が出現した。
『──【補足】:
・これは異空間倉庫です。
・中身の出し入れ自由ですが、仕組みは自分で理解してください。
・魔王の間と繋がってます。出し入れは魔王の間にあるもの限定です。』
「この筺が魔王の間と繋がってるみたい……!?」
エスト様は箱を開け、
中から味付け海苔を出して私に手渡してきた。
「何これ!?チートすぎない?」
私は味付け海苔を食べながら答えた。
「……これってさ?
この筺に入れば魔王の間にワープできるんじゃ?
収納とワープ両方可能ってバグってない?」
こ、これが……魔王の力……!?
あれ? 小娘はポンコツだと思ってたけど天才系?
私はエスト様を見直──
その時エスト様の目の前に小さな蜘蛛が降りてきた。
「きゃッ!? 蜘蛛! 蜘蛛怖いよお姉ちゃん!」
エスト様が私に抱きついてきた。
──見直さなかった。
……この子、ポンコツだけど時々本物の魔王だよな……
その後、蜘蛛が怖くてサタンを呼んでた。
「んなー!? またー!?」
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『敵の背後を取ったら、まず一礼しろ。攻撃の後にも一礼だ。
そうすれば正々堂々になる。これがノブレス・オブリージュ。
貴族の嗜みだ。優雅か?』
解説:
ムダ様は、戦いの瞬間すら
”舞踏会の一幕”として捉えていた。
彼にとって戦闘とは無秩序ではなく、
形式美を伴う社交だったのだ。
まず一礼。次に暴力。最後に一礼。
礼儀があるから、卑怯じゃない。
彼の哲学は、“角度よりもマナーを重んじる暴力”。
卑怯とは呼ばれない。むしろ”教育を受けた暴力”だ。