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お肉が提供される時は網焼きの状態で塊が運ばれ、その場で切り分けて盛り付け、提供される。
加えて肉料理を食べる前には、複数ある種類の中からナイフを選ぶ事ができ、私は尊さんの家にあるペルスヴァル9.47を選んだ。
他の物も使ってみたかったけれど、やっぱり慣れている物を使うのが一番だ。
恵も私と同じ物を使うと言って、切れ味の良さに感動していた。
「マジか……。うちはシャトー・ラギオールなんだけど、ペルスヴァルも買うか……」
「張り合うなよ」
項垂れた涼さんを、尊さんが慰めている。
肉料理に合わせてみんな赤ワインを飲み始めたので、私もちょびっとだけもらう事にした。
本当は恵が飲んでいるのを一口もらえたら……と思うけれど、高級な店でそんな事できない。
お肉料理はロティ――焼いた物が出て終わりでなく、先ほどの塊肉の残りでちょっとした一皿を作ってくれた。
メインを食べ終えたあとは、プレ・デセールだ。
プレ・デセールは二種類あり、私と恵はブルーチーズのスフレに、青トマトのコンフィチュールが添えられた物を頼んだ。
小さな丸いケーキにはとろりとしたチーズがかけられ、ブルーチーズのしょっぱい風味がありながらも、ちゃんと甘いデザートになっている。
それを食べ終えたあと、個室の照明が落ちて蝋燭の火がついたケーキが運ばれてきた。
しかも二台だ。
きっと尊さんの事だから、私にも特別感を味わわせてくれようと思ったのだろう。
「わ……、わ……」
ギャルソンさんが『ハッピーバースデー』の歌を歌い、私たちもそれに合わせて控えめに歌う。
こういうサプライズに慣れていない恵は、あばばば……と動揺したあと、歌が終わったあとにフッと蝋燭の火を消した。
私も「尊さん、ありがとう!」と言って同様にし、全員で拍手をする。
ホールケーキはとても美しく、中央にスライスされた苺が花びらみたいに並び、周りを生クリームが美しく飾っている。
ケーキの側面はシュッと一筆走らせたようなホワイトチョコレートが、花びらのように縦に並び、半分を覆っていた。
それに加えて――。
「おめでとうございます」
恵には赤い薔薇を基調とした花束が渡され、私は猛烈な勢いで拍手する。
サプライズ慣れしていない恵は挙動不審になり、涼さんはそんな彼女を見てニッコニコだ。
「……あ、ありがとうございます……」
レストランを出るまで一旦ケーキと花束を預かってもらったあと、恵はぎこちなく涼さんにお礼を言う。
「うん! もうちょっと笑顔が見たかったけど、可愛いからよし!」
私は一生懸命な涼さんを応援したくて、コソッと援護した。
「恵はどっちかというと、キャンプしながら夕焼けや朝焼けを見て、美味しいキャンプ飯やコーヒーで感動するタイプですよ」
それを聞いた涼さんは、ピコーン! という効果音でも聞こえそうな表情をし、「ありがとう!」と満面の笑みを浮かべた。
そのあと運ばれてきたメインのデザートは、無花果のミルフィーユとバニラアイスだ。
最後にコーヒーと小菓子が出てくるのだけれど、コーヒーは目の前でドリップしてくれるし、小菓子は正方形の木製の箱に、お宝みたいに綺麗に並べられているので、気分爆上げだ。
この頃になると恵はお腹一杯になっていたみたいだけど、「可愛いものは可愛い」と真顔で頷いていた。
すべての食事を終える頃には、二十一時半過ぎになっていた。
「今日は仕事だったし、明日もあるから早めに休もうか」
尊さんに言われ、私は「そうですね」と頷く。
「……ケーキどうしましょうか? 本当はケーキって当日に食べるものでしょう? 明日も家を空けて、明後日に帰るなら……。お花も……」
恵が腕組みをして悩んだけれど、涼さんがサラッと言った。
「泊まるのは同じホテルだし、チェックアウトまでゆっくり食べればいいんじゃない? 花は秘書に家まで持っていかせて、北原さんに飾ってもらう予定だから」
「計画的犯行」
「いやいや、恵ちゃん、犯行じゃないから」
涼さんは恵に突っ込んだあと、尋ねてくる。
「朝食はどうしたい? 部屋で食べる事も可能だし、ラウンジでもいいし」
「朱里は?」
尊さんに尋ねられ、私は挙手して答える。