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「どうせだから、みんなで食べたいです」
「よし決まり」
そのように朝食の事が決定したあと、明日も行動日なのでゆっくり休む事にした。
お会計はルームチャージになるようで、レストランでは支払わず、部屋番号と名前の確認、サインのみで出てしまった。
スイートルームに泊まって三桁万円の宿泊なのに、さらにこんな高級な食事を……と考えてしまったけれど、値段の事を考えるのは無粋だ。
(美味しいご馳走いただいて幸せな時間だったけど、身につけてる服の総額を考えると、『汚しちゃ駄目だ』とか色々考えて、ちょっと疲れちゃった)
廊下を歩きながら小さく欠伸をすると、尊さんがトンと背中を叩いてくる。
「疲れたか? あとはゆっくり休むだけだから」
「はい」
彼はヒールを履いた私を気遣ってか、お嬢様みたいに腕に掴まらせてエスコートしてくれている。
恵も涼さんに「手繋ごうか」と言われていたけど、「いや、いいです」と断ってシュンとさせていた。
「あ……、朱里……。こっちの部屋こない?」
ソワソワした恵は、私の手を握って尋ねてくる。
その瞬間、涼さんが面白いほど目を見開いてこちらを振り返った。
「や、恵。大人しくイケニエになりたまえ」
「裏切り者……!」
恵は絶望した顔で言い、私の手をギュッと握ってくる。
「だってこんなに色々と用意してもらったなら……、ねぇ?」
親友のベッド事情を想像するのはアレだけれど、さすがに三桁万円のホテルに、全身ブランドのプレゼント、高級フレンチまでご馳走になって、何もなしは男性にとってつらすぎるのは分かる。
「朱里は?」
恵はそれ以上何も言わなかったけど、「するの?」と言っているのは伝わってくる。
矛先を向けられた私は、チラッと尊さんの顔を窺った。
「まぁ、確かにデートのために色々用意したけど、一緒に住んでるし〝お礼〟はいつでもいい。慣れない場所で泊まる上に、明日も明後日も行動予定があるなら、絶対に疲れるだろ? 二人きりの旅行とかなら別かもしれんが、俺は今回は控えるよ」
尊さんの言葉を聞き、恵はあからさまに安心した表情をする。
すると、立ち止まった涼さんは恵の顔を覗き込んで言った。
「俺は狼じゃないからね? 恵ちゃんが望まないならしないよ」
「……でも……、こんなにしてもらって……。できる事がなくて……」
恵は真っ赤になって、ボソボソと答える。
涼さんはニコッと笑い、彼女を抱き締めた。
「俺は恵ちゃんがこの二泊三日で『最高の誕生日だった』って思ってくれたら、それで十分だよ。むしろ『金出したんだから抱かせろ』みたいな男に思わないでほしいな。俺、そんなせこい男じゃないから」
「ごっ……、ごめんなさい……」
恵が謝ると、涼さんはパチッとウインクをして言った。
「俺は金の力に頼らなくても、恵ちゃんをメロメロにできる自信あるし! 自信過剰って思われるかもしれないけど、恵ちゃん、俺の顔好きでしょ? ついでに『いい体』って思ってるでしょ? うんと優しくしてるし、愛情表現がしつこい以外に、特に性格的にも文句はないと思ってる」
「そ、そうですけど……」
生まれながらの陽キャを前に、恵はタジタジだ。
思ってみれば涼さんは生粋のポジティブ男で、残る三人はどっちかというと陰の者だ。
(涼さんが全力で光属性発揮したら、私も尊さんも消え去りそう……)
私は生温かく二人の様子を見守りながら思う。
やがて私たちはエレベーターの前で二人と別れた。
「おやすみ、恵。涼さんもありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ」
恵は何か言いたそうな目で私を見て、小さく手を振る。
「朱里ちゃん、尊、おやすみ。また明日ね」
涼さんはニコニコ笑顔で手を振ると、機嫌良さそうにエレベーターのボタンを押した。
「んー、疲れた……!」
部屋に着いた私は、壁に片手をついてヒールを脱ごうとする。
「ほれ」
すると尊さんは私を姫抱っこし、リビングのソファまで連れて行くと座らせた。
「履かせたなら、脱がせるのも俺の役目」
「ムレムレですよ。鼻が曲がりますよ」
ちょっと足を引きつつ言うけれど、尊さんは私の前に跪いてパンプスを脱がせる。
そしてあろう事か、私の足を握って本当に嗅いできた。
「ぎゃっ!」
「なんも臭くねーだろ。誇張しすぎだ」