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初めて出逢ってからいくつかの事件で再会し、自然と覚えた好意がただのそれだけではなく笑顔を見たい、そばにいて一緒に笑っていたいと強く思うようになり、堪えきれずに付き合って欲しいと生まれて初めて男に告白したが、受けた方も初めてで、最初は見るからに胡乱げな視線で見返された。
だがこちらが本気だと気付き、何度か瞬きをした後、告げられた言葉を胸の奥に閉じ込めるように目を伏せた後、短く俺も好きだと返された。
それからはあっという間に時間が流れた気がするが、初めて彼を抱いた夜、変わった音で名を呼ばれた。
その音が思いの外自分でも気に入ってしまったのは、好きすぎて仕方がない彼だけが呼んだそれだったからだろう。
抱えた熱を放つ直前にも呼ばれ、白熱した時が過ぎた後の、満足感と気怠さが入り交じった時にも呼ばれたが、その時にふと気付いたのは、どんな状況でいつ何時に呼ばれたとしてもきっと自分は逆らえないという事だった。
「リーオ」
そう呼ばれるだけで心が穏やかになったり、逆にどこまでも飛んで行けそうな気分になったりもした。
その不可思議な高揚感をつい求めてしまい、顔を寄せてキスを強請るのと同じようにすれば、見惚れてしまうほど綺麗な笑みを浮かべて呼んでくれる。
その顔が見たくて何度も何度も強請ってしまえば、呆れながらもちゃんと返してくれる。
その優しさを求めて、背中を抱きながらであったり、同じ熱を持つ中に迎え入れられながらささやけば、分かっていると言いたげに見つめられた後、赤い舌を半開きの唇の間で震わせながら歌うように、誘うように声を上げる。
「リーオ」
と。
その声に際限なく煽られてしまい、結果、信じられないほど高い声を上げさせてしまうが、その合間ですらも呼んでくれと耳に直接流し込み、いつまでも消えることのない甘い声が耳だけではなく全身を包み込んでくれるような錯覚を抱いてしまい、今夜もそれを求めて深く深くキスを交わすのだった。
肌触りの良い最高級のリネンを使ったシーツの上、日に焼けていない白い足が皺を刻むように滑る。
「・・・リオン・・・っ」
「ん?」
小さく名を呼ばれ、先程から執拗なほど刺激を与えていた胸から顔を上げて小首を傾げるように見遣れば、悩ましげに寄せられた眉と欲が滲んだターコイズの瞳に見つめられる。
「どうした?」
「もう・・・良い・・・っ」
切れ切れに吐き出される言葉と吐息に込められた熱と欲に気付いていない訳ではないが、何が良いのかを唐突に言わせたくなる。
それを伝えるように赤く熟した果実の様な胸の突起にキスをし、そのまま口に含んで舐めれば短く息を呑む音が聞こえて肩に手が掛けられる。
「何が良いんだ?」
「・・・言わせ・・・っな・・・っ」
さすがに羞恥を感じるのか、そこから先を口にすることは無かった。
言わせてみたい気持ちはまだ存在し、その残念さを表すように立ち上がったそれに軽く歯を立てれば、白い肢体がびくりと揺れる。
女のように胸を愛撫することで快感を得るようになったのはいつからだっただろうか。
聞いてみたい気もするが、羞恥から静かに怒り狂われてしまえばせっかくの夜が台無しになる為、ぐっと堪えて名残惜しげにキスを一つ落とし、顔を上げて視線を絡める。
「オーヴェ」
「・・・っ・・・何だ・・・?」
自然と上がる息の合間に問いかけられ、伸び上がって薄く開いた唇をぺろりと舐めれば、肩に掛けられていた手が背中を撫でて首筋の上で交差したらしく、動きが取れないように絡め取られてしまう。
「気持ち良いことするか?」
「・・・しているだろう?」
今更何を言うんだとターコイズに浮かぶ呆れにも似た色に、ニヤリと笑いかけるように目を細めて口を開く。
「今気持ち良いのはオーヴェだけだろ?」
「っ!」
にぃと唇を左右に引いて問いかければ羞恥からかそれとも悔しさからか端正な顔が背けられ、先程舐めた唇が軽く噛みしめられる。
そんな顔も嫌いではないが、どちらかと言えば快感に溺れている、こちらの事しか考えられないと言った顔の方が好きだった為、即座に許しを請う。
「ごめん」
「・・・うるさい」
「うん、ごめん」
短く吐き捨てられた言葉に謝罪をもう一度繰り返し、形の良い顎に手を掛けて正面を向かせれば、微かに潤んだ双眸に真正面から見据えられる。
逸らす事を良しとしない凛とした双眸に吸い込まれるように顔を寄せ、唇にそっとキスをして許しを請えば、ゆっくりと受け入れるように開かれる。
「ん──っ・・・」
戸惑うように止まっている舌を突いて招き寄せれば、少しだけ躊躇った後自ら絡めて来た為、互いの唾液の中で舌を絡めれば溢れ出したそれが口の端を伝い落ちる。
「・・・っん・・・っふ・・・っ」
「は・・・っ」
息苦しさから一度離れれば軽く上がった息を整えるように肩で息をしているが、それが収まるか収まらないかの頃合いを狙って再度キスをすれば、今度は躊躇うことなく舌を絡めてくる。
仕事をしている時の姿からは想像も出来ない積極さに目眩を覚え、顔の横に肘をついて身体を支えつつ呼吸困難に陥りそうなキスをすれば、首筋の後ろで交差していた腕が解けて背中と腰へと回される。
その手の動きから先を強請られている事に気付き、軽く音を立てて唇にキスをした後、顎から喉の突起、浮き出た鎖骨と胸の飾りに再度キスを落としていく。
その度に小さく聞こえる息を呑むような音と微かに震える吐息が、先程感じた目眩をより強くしていくようだった。
目眩に誘発された熱が上がり、腹の奥が熱くなってくる。
「リ・・・オン・・・っ」
「オーヴェ・・・名前呼んで?」
こらえきれずにお前だけが呼べる名前を呼んでくれと強請れば、背中と腰の上にあった手がシーツの上に落ち、軽く握りしめて皺を作り出す。
うっすらと汗の浮いた薄い腹に口付ければひくりと身動ぎ、伸びていた足が軽く浮き上がる。
上がった熱を更に上げるよう、何度も名を呼ばれて自然と身体が震える。
己を示す名前など誰が呼んでも同じだと思っていた。
だがこうして肌を重ね、目には見えない心も触れ合うように身を寄せるようになってからはそんな思いが変化をした。
誰に呼ばれるのでもない、ただ一人にだけ呼ばれたいと感じ、また呼ばれることで今まで感じたことのない感情が芽生えてきたのだ。
それに気付いた夜もそうだったが、初めて抱いた時に呼ばれたのは、リオンを短くしたのかそれとも快感に舌が回らなかったのか、リーオというどこか遠い国を思わせる名前だった。
あの夜以来、こうして抱き合う時には必ず呼んでくれと強請ってしまうようになった名を呼んでくれとの思いを込めて告げ、薄くてもしっかりと筋肉の付いた腹にもう一度キスをする。
「リーオ・・・っ」
「うん」
しっかりと思いが通じていたようで、望み通りに呼ばれて背筋が粟立ち、シーツを握っている手を撫でて軽く浮いていた足を掴んで脹ら脛にキスを一つ。
先を予測したのかウーヴェが軽く身を引こうとするが、やんわりとそれを阻んで引き寄せる。
「・・・っ!!」
まだはっきりと形を得ていなかったものへ手を添え、そのまま口に含めば息を呑む音が聞こえ、程なくして震える声が小さく響く。
自分がこうして男を抱くことになるなど、ウーヴェと出逢い、付き合うまでは想像の遙か彼方の出来事だった。
幼い頃からホームのシスターやマザーを困らせる様な事ばかりをし、眉を顰められてもおかしくない付き合い方を当時の彼女や女友達としていたため、当然のように女好きだと思っていた。
だがあの日にウーヴェと出逢い再会した時に己の非を詫びて笑顔を見せてくれるようになってから時間をかけてじわじわと染み渡るように好きだという気持ちが芽生え全身へと広がっていったのだ。
男ではなくウーヴェという人が好きだと自覚後、いつも彼女らと遊びに行っていたクラブで一夜限りの関係の相手を探していたが乗り気になれず、それどころか珍しくやってきたウーヴェと再会し、その時にただ飲みに行くだけではなくその先の関係に進みたいと本気で思ったのだ。
女を前にして抱く気が起きないなど、今まで経験した事はなかった。
それもこれも総てはウーヴェ・フェリクス・バルツァーという男と出逢ったからだった。
そんな事を考えていたら白い手が頭に宛がわれ、髪をそっと握られる。
不満なのか満足なのかを知る為に舌を窄めて先を抉るように突けば、髪を掴む手に力が入り、押さえた足がびくんと跳ねる。
「────ぁ・・・っ!」
物足りなかったと気付き、感じさせた不満を解消するように集中すれば、徐々に熱の籠もった吐息が流れ出すようになる。
その声にも熱が上げられてしまう。
短く繰り返される呼気に時折震えるような声が混じり、そして何かを堪えるような音も混ざり出す。
同じ性を持つからこそ理解出来る、その瞬間。それが訪れるのを少しでも先延ばしにしようと口を離せば、すっかりと形を得たものが外気に触れて震える。
大きく肩で息をする恋人に目を細め、用意しておいたワセリンを指に塗る。
「オーヴェ、良いか?」
「・・・・・・っ────聞く・・・な・・・っ」
背けた顔に腕を宛がって表情を覆い隠そうとするウーヴェの腕を掴んで顔を寄せ、額と鼻先、唇にキスをして先を強請れば、欲に滲んだターコイズが微かに揺れる。
「ウーヴェ」
「は・・・っ────んぅ・・・っ!!」
自分だけが呼ぶ愛称ではなく、ウーヴェと呼んで意識を引き付けている間に、ワセリンを塗った指を突き立ててぐるりと円を描くように捻れば身体全体が跳ね上がる。
まだ固さのあるそこを解すように指を増やして動かし続けると耳元に寄せられた口からより大きな声がひっきりなしに流れ出し、ワセリンの助けを借りて入れた指に襞がひたりと吸い付くように絡んでくる。
悩ましげに寄せられた眉根が開くようにと口を寄せ、快感に震える瞼にもキスをすれば、少しだけ瞼が持ち上がる。
「・・・も・・・っ」
「指じゃ足りない?」
物足りないかと目を細めて問えば顔が背けられるが、指に熱い襞がまとわりついてその先を強請ってくる。
さっきは羞恥から黙ってしまった恋人だが、今度は黙っていられないと気付いたのか、半ば姿を隠したターコイズで真正面から見つめられる。
「────リーオ」
「・・・っ・・・分かった」
恋人だけが呼ぶそれが何よりも好きで、呼ばれるたびに鼓動が跳ねそうになり、今も跳ね上がりそうな鼓動を何とか宥め、もう待てないと手を伸ばして抱き寄せようとするウーヴェにキスを何度も繰り返しながらディスペンサーから一つ引っ張り出し、欲に潤んだ双眸で見つめてくる恋人にえるように口でパッケージを破り捨てて手早くスキンを着ける。
女を抱く時には相手が懇願しても着けたことなど無かったが、ウーヴェと関係を持つようになり、同性同士のセックスがもたらすリスクを知ってからは出来るだけ着けるようにしていた。
お互いが快楽に溺れ気持ちよくなりたいが、どうしても受け入れるウーヴェの身体に掛かる負担は大きくなってしまう。
愛する人に快楽だけではなく苦痛も与えてしまう関係だが、過去に付き合ってきた彼女たちには感じることのなかった思いからスキンを着ければ、快感に潤んだ目でそれを見つめられ、嫣然と笑みを浮かべられて息が止まりそうになる。
「リーオ・・・来い・・・っ」
「・・・・・・ん」
頭を抱き寄せられ、ガキの頃の遺物であるいくつかのピアス穴を埋めるようにねっとりと耳朶を舐められ、早くという言葉とともに流し込まれた甘い誘いの声に笑みを浮かべ、汗の浮く白い足を腕に抱えてすっかり解されて柔らかくなったそこに先を宛がう。
「────ん・・・っ・・・ぁ!」
「・・・っ・・・は・・ぁ」
ゆっくりとすべてを収めるように腰を進めれば抱えている足がびくりと跳ねようとするが、それを抑え込んで胸に腿が付くほど足を曲げさせれば、白にも銀にも見える髪がシーツの上で左右に振られる。
濃いグレーのシーツの上、ウーヴェの手触りの良い髪がパサリと音を立てて揺れ、時折喉が詰まったような声にならない音が顔の左右へと落とされる。
グッと腰を押しつければシーツの上を這っていた手が拳を作り、手近にある布を握り込んで皺を作り出す。
「オーヴェ」
すべて入ったことを教えるように名を呼べば、胸を喘がせながらウーヴェが小さく頷き、シーツを握っていた手が上がって背中に回される。
「は・・・っはぁっ・・・・・・んんっ・・・」
ゆっくり動けばゆっくりと、早く動けばそれにあわせるよう、艶声が遅くなったり早くなったりと、まるでウーヴェを操っている様な錯覚を覚えてしまう。
生殺与奪を己の手に握っている、そんな危険な事すら考えてしまいそうになり、頭を振って思いを霧散させれば、高い声を挙げていたウーヴェが薄く目を開き、背中に回していた手を移動させて首筋の後ろで交差させる。
「リ・・・オン・・・っぁあ・・・っ!」
「何?」
快感に紅く染まる端正な顔を見下ろす事で最も敏感な所を掠めたらしく、名を呼んだ直後に頭を仰け反らせて白い喉をさらけ出す。
何が言いたいのかを更に問いかけ、嬌声の合間に伝えられたのは、あまり口に出されることのない感情表現だった。
「・・・うん、・・・俺も・・・オーヴェが好きだ」
身体を重ね合わせて最奥で受け入れられる時、感じるのは快感とそれを遙かに上回る愛情だった。
即物的なものと恒久的なものを同時に感じられる、そんな風に心を重ね合わせられる事は何よりも幸せで、自分も好きだと告げ、頭を抱くように回されている腕をそっと掴んで顔の両脇で手を重ねてシーツに縫い止める。
一人が嫌で仕事が忙しくてもなるべく彼女と一緒にいて抱き合ったが、抱くたびに餓えていたと、今振り返ればそんな事を思ってしまう。
その餓えを満たしてくれるものなど無いと思っていたが、ウーヴェという人の形をした奇蹟が餓えを満たし、心穏やかにさせてくれるようになった。
その存在を手放せる筈などなく、重ねた手に力を込めれば同じ強さで握り返したかと思うと、口元に引き寄せられて手の甲の浮き出た骨に口づけられる。
言葉だけではなく態度でも愛していると教えてくれる恋人にキスをし、ひとときの快楽に身を委ねようと誘えば躊躇うことなく受け入れてくれる。
後はただ白熱の瞬間を二人で目指すだけだった。
ひっきりなしに上がる高い声も、繋がった場所から響く水音も、互いの奥に芽生えた熱と快感を煽ってくれる。
そうして迎え入れてくれるそこが一際きつく収縮した時、触れずにいても勃っているそれを掌で覆うようにすれば、薄い腹がひくひくと痙攣し、それに同調するように締め付けられる。
「・・・ぁあ・・・っあ・・・リーオ・・・っ!」
途切れ途切れの声の後、最愛の人からの最も望むそれに自然と笑みを浮かべ、掌で受け止めた熱と想いを舐める。
一足先に熱を出したウーヴェの身体をぐいと引き寄せ、気怠げに顔を覆った腕をそっと掴み、快感が未だに滲むターコイズにキスをするように口を寄せ、目尻にぽつんと存在するホクロにもキスを一つ。
「ウーヴェ、後ちょっと」
「・・・あぁ・・・っ」
同意なのか嬌声なのか咄嗟に判断の付かない声が返ってくるが、背中に回された腕の強さから同意だろうと判断すれば、それが間違いではない事を示す様に抱き寄せられ頬を擦り寄せられる。
自然と耳元に口が寄り、嬌声の合間に幾度もリーオと呼ばれて熱が上がる。
無意識にもっと呼んで欲しいと強請り、熱を持つ襞に擦り付けて快感を増幅させていく。
そしてその瞬間、何もかもが遮断された世界で愛する人が遠い国の名のように自分を呼ぶ甘い声だけを聞いているのだった。