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翌日、 四人は、仁人に何も聞かなかった。 最後の日のことも、 昨日、何を思い出したのかも。 ただ、いつも通りに話した。
「仁ちゃん、これ食う?」
舜太が自分の弁当からおかずを差し出す。
「いらない」
「ええから食べ。俺もう腹いっぱいやねん」
「……じゃあ、もらう」
「最初からそう言えばええのに」
舜太が笑う。 仁人も、ほんの少しだけ笑った。 その様子を見て、太智が柔らかく笑う。
「なんか懐かしいな」
「何が?」
「こういうの」
太智は四人を見回した。
「五人でおるの」
「……うん」
仁人は小さく頷いた。 その顔を見て、勇斗は思った。 ――今は、これでいい。 無理に聞かなくてもいい。 仁人が自分から話してくれるまで待とう。 そう決めた。
けれど、 昼休みが終わる頃。 柔太朗が一人で廊下を歩いていると、階段の踊り場に仁人がいるのを見つけた。
「仁ちゃん?」
「……柔太朗」
仁人は窓の外を見ていた。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「そっか」
柔太朗は隣に立った。 何も聞かなかった。 ただ、一緒に外を見る。
しばらくして。
「……ねえ」
仁人が呟いた。
「ん?」
「もしさ」
「うん」
「大切な人が、自分のことを忘れてほしいって言ったら……どうする?」
柔太朗は少し考えた。
「たぶん、忘れない」
「どうして?」
「忘れてほしいって言うくらいなら、きっとその人には理由があるから」
仁人が黙る。
「だから、理由を聞く」
「……もし、その理由を教えてくれなかったら?」
「それでも待つよ」
柔太朗は笑った。
「その人が話したくなるまで」
仁人は俯いた。
「……優しいね」
「仁ちゃんが昔、俺たちにしてくれてたことだよ」
その言葉に、 仁人は何も言えなくなった。
*
放課後、 四人はいつもの場所に集まった。 仁人はいない。
「……今日、仁ちゃん来てへんな」
舜太がスマートフォンを見る。
「連絡もない」
太智が心配そうに言った。
「探す?」
勇斗が立ち上がる。 その瞬間、
「待って」
柔太朗が止めた。
「今日は、探さない方がいいかもしれない」
「どうして?」
「仁ちゃんが一人になりたい日もあると思う」
勇斗は少し迷った。 けれど、頷いた。
「……そうだな」
その夜、 仁人は一人で、古い神社にいた。 小さな境内。 誰もいない。
仁人は賽銭箱の前に立つ。 そして、目を閉じた。
「……神様」
小さく呟く。
「もし、まだ俺の願いが残ってるなら」
風が吹く。
「もう一度だけ、叶えてください」
手を合わせる。
「四人が、俺のことを忘れますように」
けれど。
「……」
言葉にした瞬間、 胸が痛くなった。 忘れてほしいなんて、 本当は思っていない。 ただ、 四人が自分のせいで苦しむくらいなら。 自分だけが寂しい方がいい。 そう思っているだけだった。
「……俺がいなくなれば」
仁人は目を開けた。
「みんなは幸せになれるから」
そのとき。
「――それ、本気で言ってる?」
背後から声がした。
「……っ」
振り返る。 そこにいたのは―― 勇斗だった。
「……なんで」
「仁人が心配だったから」
「来ないでって言ったのに」
「ごめん」
勇斗は少し離れた場所で立ち止まった。
「でも、今日は追いかけに来たんじゃない」
「じゃあ、何しに?」
「聞きに来た」
勇斗はまっすぐ仁人を見る。
「俺たちが知らないことを」
仁人の顔から血の気が引いた。
「……何もないよ」
「ある」
「ない」
「じゃあ、どうして神様に『忘れてほしい』なんてお願いしてるの?」
仁人は答えられなかった。 勇斗は一歩も近づかない。 ただ、静かに言った。
「仁人」
「……」
「俺たちは、お前を忘れたくない」
仁人の目から涙が落ちる。
「でも」
勇斗は続けた。
「お前が俺たちに隠してることを、無理やり聞き出したくもない」
「……じゃあ」
「だから、待つ」
仁人が顔を上げる。
「お前が全部話せる日まで」
「……勇斗」
「その日まで、俺たちは五人でいる」
仁人は唇を噛んだ。
「……怖いよ」
「うん」
「本当に、怖い」
「うん」
「また失ったら……」
勇斗は静かに答えた。
「そのときは、五人で泣けばいい」
仁人の涙が止まらなくなる。
「……そんなの」
震える声。
「ずるいよ」
「何が?」
「そんなこと言われたら……」
仁人は顔を覆った。
「俺、もう……一人でいる理由なくなるじゃん」
勇斗は何も言わなかった。 ただ、そこにいた。
仁人が泣き止むまで。
そしてその夜。 仁人は初めて―― 「帰りたい」と思った。 四人のところへ。 五人でいられる場所へ。
けれど、 まだ一つだけ。 四人には伝えていない記憶があった。
――最後の日。
自分が「会わない」と願うことになった、本当の理由。 そしてその記憶は、 仁人自身が、誰よりも思い出すことを恐れているものだった。
コメント
1件
うわあ、この回、泣きました……。神社で「四人が俺のことを忘れますように」って願う仁人の胸の痛みがひしひしと伝わってきました。でも勇斗の「五人で泣けばいい」は本当にずるい台詞ですよね。仁人が「一人でいる理由なくなるじゃん」って言ったところ、読んでるこっちもぐっときました。まだ本当の理由が隠されてるのが気になる……続きが待ちきれないです。