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翌朝、 仁人が教室に入ると、四人はいつも通りそこにいた。
「おはよ」
勇斗が笑う。
「……おはよう」
仁人も小さく返した。 それだけ。 でも、それだけで昨日までとは少し違った。 もう、逃げなかった。
「仁ちゃん、今日一緒に帰ろうや」
舜太が声をかける。
「……うん」
「よっしゃ」
嬉しそうに笑う舜太を見て、太智が笑った。
「舜ちゃん、そんな喜ばんでもええやろ」
「だって、久しぶりやん」
「昨日も一緒に帰ったやん」
「そうやったわ」
くだらない会話。 何でもない時間。 なのに仁人は、胸の奥が少しずつ温かくなるのを感じていた。
――やっぱり、 この四人が好きだ。 そう思ってしまった。
*
放課後、 五人で歩く。 誰かが笑って。 誰かがふざけて。 誰かがそれに突っ込む。 昔と何も変わらない。
「……ねえ」
仁人が口を開いた。
「ん?」
勇斗が振り返る。
「前世の俺って、どんな人だった?」
「急にどうした?」
「知りたくなった」
柔太朗が笑う。
「優しかったよ」
「優しい?」
「うん。自分より人のことばっかり考えてた」
舜太が頷く。
「せやな。あと、めっちゃ頑固やった」
「それは今もじゃない?」
太智が笑う。
「お前ら……」
仁人も笑った。
その瞬間、 頭の奥に、また記憶が浮かんだ。 ――五人で笑っている。 同じ道。 同じ声。 そして、その後。
雨。 誰かの泣き声。 仁人は足を止めた。
「……仁人?」
「大丈夫?」
四人が振り返る。
「……うん」
仁人は笑った。
「ちょっと、思い出しただけ」
「何を?」
「……まだ分からない」
そう答えた。 本当は、 少しだけ分かっていた。 あの日。 最初に泣いたのは、自分だった。 でも、 その理由が思い出せない。
*
その夜、 仁人は夢を見た。 前世の記憶。 五人で暮らしていた頃。 いつものように笑っている。 そして、 ある日。 四人が突然、仁人の家に集まっていた。
『仁人』
勇斗が真剣な顔をしている。
『俺たち、決めた』
『……何を?』
仁人は笑っていた。 まだ何も知らない。 四人は顔を見合わせた。 そして。
『次の人生では、五人で会わない』
「……え?」
仁人の顔から笑顔が消える。
『俺たちが何度生まれ変わっても、また同じことになる』
『だから、今度こそ終わりにしよう』
『待って……』
仁人は四人を見た。 誰も笑っていない。
『嫌だ』
仁人は首を振った。
『そんなの嫌だよ』
『仁人……』
『俺は、みんなといたい』
泣きながら訴える。 けれど、 四人は静かに首を横に振った。
『ごめん』
その言葉が、 何度も何度も響いた。
「……やめて」
夢の中で、仁人は叫んだ。
「行かないで……!」
そこで目が覚めた。
「……っ」
仁人は息を切らしながら起き上がった。 身体が震えている。
「……思い出した」
今度こそ、 はっきりと 思い出した。
あの日、 「来世では会わない」と言ったのは―― 仁人だけじゃなかった。四 人も同じことを願っていた。 五人が何度も出会い続けること。 そして、そのたびに誰かが苦しむこと。 それを終わらせるために、 五人で決めた約束だった。
なのに。
「……なんで」
仁人は涙を流した。
「どうして、俺を探したの……?」
四人は忘れていた。 自分たちで決めた約束を。 でも仁人だけは覚えていた。 だから一人で離れようとした。 四人を傷つけないために。 それなのに、 四人は今世でも、仁人を探し出した。
「……約束、したのに」
仁人は枕元に置いてあった古い写真を見つめる。 そこには五人。 笑っている。 今世と同じように。 まるで何も知らないみたいに。 仁人は写真を胸に抱えた。
「……俺だけ覚えてたんだ」
だから怖かった。 四人がまた忘れてしまうことが。 また同じことになることが。 そして何より―― 今度こそ本当に、四人を失うことが。
*
翌日、 仁人は四人の前に立った。
「話したいことがある」
四人が顔を上げる。
「……前世のこと」
勇斗が静かに頷いた。
「分かった」
仁人は深く息を吸った。
「俺たちが、どうして別れたのか」
そして。
「全部、話す」
今度こそ、 一人で抱えないために。
コメント
1件
「約束を破ったのは俺の方じゃなかった」って、最後の仁人の問いかけに全部持っていかれましたね。四人が忘れてるからこそ、仁人だけがその重みを背負って一人で離れようとした——その構造が本当に切ない。最後の「全部、話す」で初めて、この物語が“一人で抱えない”方向に動き出したんだなって感じました。続きがすごく気になります。