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その日の夜。幹雄が帰宅したので早速美晴は旅行券が当たったことを話した。
「幹雄さん、聞いてください。野ばらリゾートホテルのスイートルームのペア宿泊チケットが当たったんです。辛いことがあったので、きっと幹雄さんと一緒にもう一度頑張れって、神様からのプレゼントじゃないかと思うんです! お休みを取っていただけませんか?」
にこにこ笑って宿泊券を見せてくる美晴を一瞥し、幹雄は言った。
「せっかくだけど仕事が忙しいんだ。会計事務所も繁忙期だからね」
どの口が言うのだろうか。今までは騙されてきたが、昼間から堂々とさぼってこずえとホテルでお楽しみ赤ちゃんプレイをしていることを知っているだけに、もっともらしい言い訳をする夫を見て笑いがこみ上げる。
「そうなのですか。でも、これは有効期限が短いので、せっかく当たったので、少しでも時間を作っていただけたら…」
美晴の声は少し期待を含ませたようにわざと言った。
幹雄はしばらく考えた後、やはり無理だ、と無情に答えた。
「……とても残念です」
残念がる演技も楽じゃない。今すぐ証拠を投げつけて離婚してやりたい。この男に媚を売るのも嫌になってきたところだ。早く松本家から解放され、自由を手に入れたい。そして亡くなった子供の復讐を遂げなければ。
結局流産した後、水子供養に行ったのも美晴だけだった。そもそも温度差があり、彼は自分の愚行のせいで人ひとりの命を奪い、殺人を犯したなど微塵も感じていないのだ。それならば頂点のところから地獄の底へ叩き落してやらなければ。死ぬより辛い地獄を彼の目に見させてやるのだ。
「幹雄さんが行けないなら、せっかく当たったのでこずえと二人で行ってきてもいいですか?」
「はあ? なにを言っているんだ!」
ギロリと睨まれた。美晴は肩を震わせて怯えるそぶりを見せた。おしゃぶり男が凄んでも、もう怖くない。ペン型ボイスレコーダーをポケットに忍ばせているので、音声のチェックを後でやろうと思った。うまく取れているかな、と楽しみになる。
「僕が忙しくしているのに、家のことをサボって遊び歩くなんて許可できない。美晴の仕事はなんだ? この家の家事を放棄して行くなんて許さないぞ! このチケットは僕が売ってお金にしておくから」
アプリの言う通りチケットは幹雄に取り上げられた。こずえがなんとしても取り上げろ、とでも言ったのだろう。その証拠はアプリから届くはず。
ああ、早くこの男を制裁したい。相原久次郎の証拠集めは着々と進んでいるため、あと300Pで1000Pに達成する。1000Pを貯めたら絶対に幹雄への復讐計画の情報開示をしてやる!!
「なんだその顔は! 僕に不満があるのか!?」
「い、いえ……ただ、幹雄さんと一緒に旅行へ行きたかったので……」
いい嫁キャンペーンはまだ継続しておかないといけないのが辛いところだが、それもあと少しの辛抱だ。今は耐える時。
「そんなに僕と一緒が良かったのか?」
「はい。幹雄さんはとても素敵な旦那様ですから、私はすごく尊敬しています。最近お義母さまとも仲良くできるようになりましたので、今までは私のやり方や振る舞いが良くなかったと反省していたところです。いつもお仕事を頑張る幹雄さんには、感謝しかありません」
「ま、まあな。美晴も頑張っているから、旅行については今後考えよう」
こんな風に言っておけば、嫁との仲は最悪で離婚一択しかなかったと言い訳もできないだろう。彼が用意する切り札はことごとく今から潰していく。
(今の会話はきちんと録音して証拠に残したから、言い訳しても無駄よ、おしゃぶり男さん!!)