それから時々辛辣な言葉を浴びせられたが、今まで以上にいい嫁を演じていたため、彼から離婚を切り出されるような場面には遭遇しなかった。義母とも良好で月曜日と木曜日は彼女の送迎を行っていた。
暫くは大人しくしていた美晴だったが、再びダンス教室への見学を和子に申し入れ、目を盗んでTAKAYAへ接触した。
「先生、お疲れ様です。義母のことで相談がありますので、レッスン後、お時間を作っていただけますか?」
「わかりました。僕も相談があったので、ちょうど良かったです」
その日は義母を送り届けた後、とんぼ帰りでダンス教室へ戻った。
「お待たせしてすみません。先生、単刀直入に言いますが、義母からセクハラを受けていませんか?」
TAKAYAは顔をひきつらせた。
「私、見ちゃったんです。先生が義母にセクハラを受けているところを……本当はもっと早くに助けを呼びたかったのですが、非常ベルを鳴らすのがせいいっぱいでした。先生をすぐに助けられなくて申し訳ございません」
「あなたが僕を助けてくれたのですね。本当に助かりました。ありがとうございます。あのままだと大変なことになっていたかもしれませんから」
TAKAYAに礼を言われたので、美晴はそのまま先日撮影した証拠動画を見せた。
「お辛いと思いますが、ご確認ください」
TAKAYAは頷き、美晴からスマートフォンを受け取った。すぐに動画の確認に入る。それは、美晴が撮影した和子からセクハラを受けるシーンだった。
「証拠の動画、見せてくださってありがとうございました。あの、実は僕の相談というのは…松本さん――あなたのお義母さんのことです」
彼は神妙な顔で話し始めた。
「最近松本さんが僕にすごく触ってきます。非力な女性ですから無下に扱えなくて困っていたんです。実は今日のレッスン中にも松本さんが過度に触れてきました」
「先生…大丈夫でしたか?」
「物理的なダメージはないのですが、かなり…精神的に参っています」
今日は執拗に下半身を触ろうとしてきたらしい。気持ち悪いのでできる限り近寄らないようにしたが、どんどん化粧も濃くなり香水の匂いもきつく、正直この講師を辞退しようかと考えているほどだと聞かされた。
素人の美晴が見る限りでも、TAKAYAのダンスはとても上手く、生徒がうまくなって欲しいという純粋な気持ちで講師をしているように見える。
ダンスが好きで堪らないのだ。
その彼が、好きなダンスを辞めようと思うほどに追い詰められている――
「高齢の女性に触られただけでなにを、と思われていることでしょう。ご好意を持っていただくのはありがたいのですし、触られるというのも、ただこちらの勘違いかもしれない、と思いながら耐えていましたが、でも…最近は本当に辛くて…」
TAKAYAはやりきれない顔で告げた。
自分の祖母くらいの年齢の女性から執拗に触られたり、気持ち悪い視線を送られることが、どれほど辛いことだろうかと美晴は想像しただけで背筋が寒くなった。ぞっとする。
会社でも上司に迫られたり、いいように触られたり、本人が辛いと感じていることを言い出せない雰囲気がおかしいのだ。
特に男性へのセクハラや性的被害というのは、女性が受けるセクハラ以上に声を上げにくいのが現状だ。そこに義母は付け込んでいる。許せない!!
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