それから、暫くは何もなく、それぞれ真剣に
練 習に取 り 組んでいた。合宿も後少しというあ
る 日、夕食 後に甲斐に花火を見ませんか?と誘
われ た。
「こんな時期に花火してるん?」
「近くで打ち上がるみたいです。 このホテルの屋
上からよく見えるみたいなので、一緒に行きまし
ょう!!」
いつもの満面の笑顔で、俺の手を引っ張ってく
る 。‥‥甲斐がいてくれて良かった。きっと一人だ
ったら、合宿中、塞ぎ込んでいたかもしれない。
屋上に着くと、チラホラと花火見物の人たちが集
まっていた。もしかしたら、祐希さんも‥なんて
思ってしまったことはもう仕方がない。
もう打ち上がるというので、甲斐が1番見えやす
いというポイントまで移動する。
「花火なんて久しぶりやわー。俺、花火大好き」
「そうなんですか?それは、良かった」
嬉しそうに笑う甲斐を見て、俺はふっと医務室の
事を思い出した。
‥あの時、祐希さんはどうだったのか‥‥
何となく聞くタイミングがないまま、過ぎてしま
っていたから、聞くなら今しかない。
「あっ、あのさ、甲斐‥‥」
ピューーーーーー、
聞こうとしたタイミングで、花火が打ち上がる。
音につられ見上げると‥夜空一面を覆い尽 くすか
のような菊型の花火が炸裂した。手を伸ばせば届
きそうな近さに感動をおぼえる。キラキラとした
火の粉が今にも顔面に降りかかってきそうな迫力
に感嘆の声が漏れる。
甲斐Side
夜空一面に輝く花火‥。ふと横を見ると、藍さん
は、瞳を大きく開いて花火に見入っていた。花火
の色が、赤や青など様々な色に変化する度、それ
を見上げる藍さんの横顔も様々な色に照らされて
いて‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「綺麗です」
「ほんまやなぁ。めっちゃ綺麗やな」
思わず出てしまった僕の一言に、キラキラした笑
顔で答える藍さん。花火じゃないんだけどなぁ
と小さく呟く僕の声は届いていないんだろう。
花火も終わり、そろそろ部屋に戻ろうと 2人で歩きだす。エレベーターまで行くと、
「あれ?藍と甲斐じゃん。そっちも花火見てたの?」
「‥‥‥‥‥」
‥小野寺さんと祐希さんがいた。僕たちを見て、
どうだった?とにこやかに聞く小野寺さんの隣で
祐希さんは僕たちをチラっと一瞥しただけで、
エレベーターの方へ目を向けていた。
‥‥藍さんは?大丈夫だろうか?と隣を
見ると、話しかけてきた小野寺さんに笑いながら
答えてはいる‥‥でも、視線が揺れているのを僕は
見 逃さ なかった‥
「‥‥それにしても、お前達最近よく一緒にいるよ
な?そんなに仲よかったっけ?」
「合宿で同部屋ですし、甲斐がめっちゃ優しいん
すよね〰」
「あっ、同部屋だったんだ!仲良くなるの
はいいことだよ!なっ、祐希?」
「‥‥あっ、うん。そうだね、チームワークは大事
だからバレーにとっても」
「お前はバレーばっかりだな笑‥‥ん?
藍?ど うした?顔色少し悪いぞ?」
小野寺さんの声に藍さんを見ると、白い顔がいつ
もより青白く見える。咄嗟に藍さんの腕を掴み‥
「藍さん、早く部屋に戻りましょう?きつい時は
僕が支えます!」
「‥大丈夫やって。ちょっと疲れただけかも‥‥って、 うわっ!!!」
僕の掴んでる腕を解こうとした藍さんの背中と
膝の下に両腕を差し込んで、グッと藍さんを引き
寄せながら持ち上げる‥要はお姫様抱っこという
やつだ。強く引き寄せたせいで、真っ赤になって
いる藍さんの顔がすぐ目の前にある。
「‥‥甲斐っ!?!!」
暴れる藍さんに、大丈夫です、僕、結構力あるんで と伝えるが、恥ずかしいのかそれとも‥祐希
さんがいるからなのか、なんとか降りようと
もがく藍さん‥。
「ぷはっ笑、藍!せっかくだから甲斐に運んでも
ら えよ。じゃないと甲斐は折れないと思うぞ」
「いや‥でも‥」
「こないだもお姫様抱っこされてたし‥藍はお姫
様みたいだな‥ってことは甲斐が王子様か!
なっ、祐希?」
「‥‥さぁ?別にどうでもいい‥‥」
小野寺さんの問いに祐希さんはただ下を向いた
まま返事をする。表情は見えない。
その時、チンという音と共にエレベーターが到着
し、扉が開く。
「‥‥俺、ちょっと忘れ物したから後で行く」
急に後ろを振り向き駆け出していく。
「えっ、祐希!?ちょっ、待てよ‥あっ、藍たち
は、先に行ってて!またな、藍‥無理するなよ」
藍さんの小さな頭をクシャッと撫でて小野寺さん
は祐希さんの後を追いかけて行った‥。
到着したエレベーターに乗り込むと‥いつの間に
か静かになった藍さんが気になり、顔をそっと
覗き込む‥。
「‥‥‥‥‥‥」
僕の腕の中で藍さんは唇をギュッと噛み締めて
ただひたすら耐えているかのようだった。
無言のまま、部屋に到着する。室内に入り、
ゆっくりと降ろすと ごめんな‥そう呟いて後ろ
を振り返り離れ ようとする藍さんの腕を掴む。
「ごめん、甲斐‥今は一人になりたい」
「‥祐希さんですか?」
「‥‥‥‥」
「藍さん!」
掴んでる腕を思わず強く引っ張ってしまい、振り
返っ た 藍さんの目は、赤く潤んでいた。
「ごめん‥見んといて‥」
「‥‥‥」
「アホらしいよな‥祐希さんはもう何とも思って
ないのに‥たったあれだけで動揺してまう‥」
「‥‥‥‥」
「祐希さんとは、付き合ってたんよ、半年ぐら
い。それが一ヶ月前に別れようって」
「‥‥‥ 」
「好き人が出来たんやって‥俺は振られたんよ」
「‥‥‥‥」
「笑っても構わへんよ?自分でもダサいなぁっ
て思う‥」
涙が溢れるのを無造作に握った拳で拭う藍さん。
言いようのない感情が僕を支配する。
気付けば、立ったまま藍さんを抱きしめていた。
「‥甲斐?もうエエよ、なぐさめんでも‥」
「違う!」
「‥ん?」
「僕が抱きしめたいんです‥‥」
「藍さん‥」
「?どうしたん?」
ずっと僕は誰にもいわないと決めた、気持ちに蓋
をして閉じ込めようとしていた想いを告げる。
「藍さん、僕、藍さんが好きです!!」
「僕じゃ‥‥‥‥ダメですか?」
そう告げ、僕の告白に驚きの色を隠せない藍さん
の唇にそっと自分の唇を重ねた‥‥‥‥。
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胸が締め付けられる… 続きが待ち遠しいです! 永久保存版です!