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彼との二度目の出会いも、こんな感じだったな……とか、彼、ラヴァインがフッと笑ったのを見てぼんやりと思い出していた。
初めての出会いは、城下町だったけど、二度目は、トワイライトが式典に出ている夜だった気がする。いや、今日みたいな夜だった。
(此の男、わざとやってるんじゃないの?)
そう、思ってしまうほどに、全く同じシチュエーションでやるものだから、私は飽きれを通り越して、ラヴァインとはこういう奴なんだと思うことにした。そう飲み込んでしまった方が早い。
記憶があろうがなかろうが、きっと、ラヴァインってこういう奴なんだと。
ストン、とベランダに降りたって、ラヴァインは落ちてきていたくすんだ髪の毛を耳にかける。こういう仕草は、攻略キャラだから絵になるというか、何というか。
「はあ……」
「悲しいなあ。会いに来たのに、溜息なんて」
「普通、夜に尋ねてこないのよ」
「それにしては、なれている感じしたけど?まさか、他の人もこうやって呼び込んでいるんじゃ」
と、あらぬことを考えるラヴァインを前にして何も言えなかった。いったところで意味ないと思ったのもそうなのだが、ラヴァインの煽りというか、彼を楽しませえることはしたくない。面倒くさいから。
「そうじゃないわよ。ただ、アンタが面倒くさい男だからっていう理由で」
「それで、溜息か。俺、嫌われてる?」
「ご想像にお任せします」
ベランダから声が漏れるのが怖くて、私はすぐさま窓を閉めた。普通、ベランダから人は入ってこないのよ。とは、此奴に通用しないのだ。
ラヴァインは私の部屋に入ってくると、辺りを見渡し、椅子をずるずると持ってくると私の前に座った。私は座る気もないし、お喋りをしようという気持ちもなかった。早く帰って欲しいが、出入り口から此奴を出すのはリスクがある。これを、巡回しているメイドや、従者に見られたら、リースに何か言われるんじゃないかと思ったからだ。
だったら、初めから中に入れなければ良いという話なのだが、それが通用するなら、困っていないという言い訳をしたい。
(はあ……まあ、入れなかったら入れなかったで、入れてくれるまで粘るつもりだったんだろうけど)
ラヴァインってそういう奴だし。
そう思うと、また溜息が漏れた。幸せが逃げると頭の中でリュシオルが言うのが聞える。でも、仕方ないって、今回は許してよと、私は心の中でかえす。一人でそんなことをしているものだから、ラヴァインに「頭でもぶった?」と、失礼なことを言われる。
「アンタのせいで」
「俺のせい?」
「はあ……もう、良いわよ。で、会いに来たってそれだけなら、私に会えたんだし帰ってよ。私も眠いの」
「さっきまで、起きてたでしょ?」
「ストーキングしてるの?変態。最低。矢っ張り、記憶が戻る云々関係なしに、追い出すべきだった」
そういえば、ラヴァインは酷いなあ。なんて笑っていた。こっちは、半分本気で言っているのに、全く通用していないのだ。どれだけ図太いのか。
と言うか、マジで起きていたの知っていたのか。部屋は極力離した……いや、かなり離れた位置にしてあったはずなんだけど。と、彼のストーキングとしかいいようのないそれに、私はゾッと身体を震わせた。でも、まあ、ラヴァインの兄のアルベドも似たようなことをしていたことが会ったため、兄弟似ているなあと、仕方ないから、本当に仕方ないからそういうことにしてすませた。すませてはいけないんだろうけれど。
「いつまで居座ってる気?」
「エトワールが俺と喋ってくれるまで」
「何を」
「なにをって、そりゃ、記憶が戻る手伝いをして欲しいって言ったじゃん。というか、それをして貰うために、ここに来たわけだし」
それは、正論だ。と、私はコクリと頷いた。
彼にも、記憶を戻したいっていう気持ちがあったのかと、失礼ながら思った。だって、今のままでも十分差し支えがないというか、このままでもいいんじゃないかと言うか。記憶喪失ってのは面倒だけど、本人からしたら嫌なんだろうけど、新しい自分を構築するチャンスじゃないかなあなんても思う。
記憶を失うってそんな、軽いことではないのは分かっているんだけど。
(今の方が、幸せそうに見えるというか……曇りのない笑顔を向けるというか)
別に、前がくもっていたとか、幸せそうじゃなかったというかそう言うのではないけれど。けれど、今の彼は何かが吹っ切れたように瞳が輝いているのだ。だから、このままでも良いんじゃないかと。
でも、ラヴァインは記憶を取り戻したいと思っているのだ。理由は分からない。
「何で記憶を取り戻したいの?」
「え?何でって、当たり前じゃん。記憶喪失って不便じゃない?」
「私にはアンタがそういう風には見えないんだけど」
心外だなあ……何て、肩をすくめているラヴァインを見ていると、とてもそういう風には見えない。そんな風におちゃらけているから、見間違われるんだと、私は思う。本気で、記憶喪失でヤバいとか、記憶を取り戻したいとか思っているのなら、もっと違う対応があるんじゃないかと言うか。
(此奴には、そういう風にしか自分を表せないのかも知れないけれど)
そういう問題もあるわけで、私は、取り敢えず話を聞くべくベッドに座った。
「俺もそっちいって良い?」
「言いわけないでしょ。立たないで。こっち来たら、叫ぶから」
叫んだら、巡回しているメイドや近衛隊が来るわよ。と脅せば、ラヴァインははいはい、と全く心のこもっていない返事をした。いつでも逃げれますから、見たいな余裕が顔に浮かんでいるように見えて、腹が立ったが、ここはグッと堪えることにした。
例え、彼が記憶を失っていたとしても、魔法ぐらいは使えるし、その身体能力を駆使すれば、この窓から飛び降りて逃亡することだって容易だろう。
「まあ、いいや。じゃあ、早速なんだけど、エトワールが知ってる俺の事教えてよ」
「アンタのこと、まだよく知らないのよ」
「今の俺じゃなくて、エトワールと合っていた記憶を失う前の俺っていうか?」
「だから、あんまりアンタのこと知らないっていってんの」
会話が噛み合わないなあ、何て顔をされて、こっちが責められているような感覚になった。じゃあ、早速とか、勝手に話を進めるあたり、私に配慮していないことは一目瞭然といった感じだった。
それは良いんだけれど、人から聞いて思い出せる物なのだろうか。
此奴の優先順位は、誰かの記憶、思い出したい大切な人がいるから記憶を取り戻したいとかそう言うのじゃなくて、単純に自分の記憶を取り戻したいが大きな筋なのだろう。
自分の事を思い出して、どうするのか。いや、普通はそうなのかも知れないけれど、どんな感じの記憶喪失かもよく分からないし。
(……ああ、これ、私ラヴァインから逃げてるのか)
此奴のこと、好きじゃないから、話を遠回しにしようとしているんじゃないかとすら思えてきた。最も、きっと、それはあそこで倒れていたのがアルベドじゃなかったって言う悲しさというか、寂しさから来る八つ当たり的な物なのかも知れない。それなら、ラヴァインに申し訳ないことをしているとも思えてくる。
頭は下げないけれど。
「エトワール?」
「何、顔覗き込んで」
「いや、暗い顔してたから。何かあったのかと思って……頭痛いとか?ああ、俺と話すのが嫌だ?嫌い?」
と、一番堪えにくい質問をしてくる。
嫌いかと聞かれたら、好きでは無いとこたえる。本当に嫌いなら、拒絶反応が出ているはずだろうから、私は、大概甘いのかも知れない。でも、ラヴァインとアルベドを天秤にかければ、きっとアルベドを選ぶと思う。
「大丈夫。聞くって決めたから」
「そう?それならいいけど、無理しないでね」
「誰が……」
誰のせいでこうなっているんだと叫びたかったが、周りの目もあるし夜だからという理由で叫ぶのはやめた。感情的になるのはよくない。此奴の話はしっかりと聞かないと。早く記憶を取り戻して、アルベドの事も聞きたいし。
「何も覚えてないの?」
「うん、名前も、自分の家族も。記憶を失う直前のことも」
「そりゃ、大変なこと」
「大変だよ。大切な人のこと忘れているような気がして」
そう言ったラヴァインの瞳は悲しげで、確かに、何かを探している風にも思えた。
(……それって、もしかしてアルベドなんじゃない?)
その言葉を飲み込んで、私はラヴァインを見つめていた。