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#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
やがて陽が山の向こうへ沈み始めて空が薄暗くなり始めた頃、二人は旅館へ戻っていく。
二人が泊まる離れは先程見た景色とは逆側にあり、遠くの方には街の灯りが輝いて見える。
「それじゃあ……昴さん、お風呂、お先にどうぞ」
夕ご飯まではまだ時間があるのでお風呂に入るのだが、羽衣子は昴に先にお風呂へ入るよう勧めると、昴は少し意外そうな顔をした。
「……一緒には入らないのか?」
「え!?」
思わず声が裏返り、羽衣子の頬が一気に赤くなる。
まさか昴の口からそのような言葉が出て来るとは思っていなかったからなのか、羽衣子は戸惑うばかり。
確かに二人は一夜を共にした仲で、今日も二人きりなのだからきっと夜も……。
そこまで考えたところで羽衣子は慌てて首を振った。
「い、いえ、その……!」
言葉が上手く出てこないようで焦るばかりの羽衣子を前にした昴はまるで追い討ちをかけるように、
「……希海とは、いつも一緒に入ってるのにな。やはり俺と一緒なんて嫌か」
とどこか拗ねたような声でそう口にする。
「そ、それは……希海くんは子供ですし、その、昴さんと一緒に入るのが嫌ということでは……」
いつもと違う昴を前に慌てて否定しようとした羽衣子に昴は、
「冗談だ」
フッと口角を上げると小さく笑った。
「……え?」
「俺はいいから、先に入ってこい」
そう言って昴は何事もなかったかのようにサラリと言う。
そこで羽衣子は気づいたのだ、からかわれていたということに。
「……もう……、人が悪いですよ、昴さん」
頬を赤くしたまま恨めしそうに昴を見る。
「意地悪です」
「そうか?」
「そうです」
昴は頬を膨らませて怒る羽衣子の反応を楽しむようにもう一度小さく笑った。
「まあ、羽衣子がどうしてもと言うなら一緒に入るのもアリだがな?」
「……っ、昴さんの意地悪……」
まだ少し恥ずかしそうにしながら羽衣子は露天風呂へ向かって行くと、その背中を昴は優しげな瞳で見つめていた。
湯に浸かりながら羽衣子は未だに治まらない恥ずかしさをどうにか落ち着かせようとしていた。
(さっき昴さんは冗談だって言ったけど……あれって、本当は本心だったのかな……)
一緒に入らないのかと言われた時は恥ずかしさのあまり狼狽えてしまった羽衣子だけど、今になって考えてみれば二人で温泉旅行に来ていて部屋には露天風呂まであるこの状況下、普通の恋人同士なら一緒に入ることは決して不自然なことではないのかもしれないと思い直す。
(……次は、一緒に入った方がいいのかな?)
後一度か二度くらいは温泉に入る機会があるだろう。
その時も別々に入るべきなのか、それとも――。
(でも昴さんはきっともう冗談を言ったりしないだろうし……かといって、私から誘うだなんて……)
「……出来ないよ……」
小さく呟いた羽衣子は頬を両手で覆った。
結局答えが出ないまま湯から上がることになった。
昴と入れ替わるように部屋へ戻ると浴衣を整えながら彼が出てくるのを待つ。
その間も先程のことを考えてしまっていたが昴が上がったのとほぼ同時に料理を運んでいいかという確認の連絡が来たことで、羽衣子はひとまずそのことを頭の片隅へ追いやった。
「豪華な料理……」
目の前に並べられた料理を見て、思わず瞳を輝かせる羽衣子。
「そうだな」
昴も料理へ視線を向けたけれど、すぐに羽衣子へ視線を戻して穏やかな声で言った。
「まあ俺は羽衣子が作る料理が一番好きだから、この程度じゃ喜べねぇな」
「昴さん……」
あまりにもさらりと言われて羽衣子は頬を赤くする。
「そういうの、狡いです……」
「俺は本当のことを言っただけだ」
「うう……」
嬉しいけれど、嬉し過ぎてどう反応すればいいのか分からない羽衣子。
昴はいつも、こうして羽衣子が欲しい言葉や喜ぶ言葉を惜しみなく与えてくれる一方で羽衣子はふと思うのだ。
(私……昴さんにしてもらってばかりだな……)
自分も何かを返せたらいいのに、そんなことを考えながら二人はゆっくりと食事を楽しんだ。
食事を終え暫く寛いでいると昴のスマートフォンが鳴り、確認すると乙哉から。
「どうした?」
何かあったのかと電話に出た昴が尋ねると、
『あ、すいません。希海が昴さんや羽衣子ちゃんと話したいって言うんで……代わりますね』
「ああ」
どうやら亮治の屋敷に泊まりに行っている希海が二人のことを恋しく思っているらしい。
すぐにビデオ通話へ切り替えると画面いっぱいに希海の顔が映し出された。
『パパ、ういちゃん!』
「希海」
「希海くん」
二人の顔が見えた途端、希海は嬉しそうに笑い、昴と羽衣子も自然と笑顔になり少しの間、他愛のない話を交わしていく。
楽しそうに話していた希海だったが、途中瞼が重たそうになっていき、それに気づいた昴が優しい声で告げた。
「もう眠いだろ。明日の夕方には迎えに行くから良い子にしてるんだぞ」
『うん……』
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、希海くん」
『おやすみ、パパ……ういちゃ……』
そして通話が終わると、再び二人きりの時間が戻ってきた。
コメント
1件
はい、第95話拝読しました!温泉宿での二人の距離感、すごく良かったです…。一緒にお風呂に入るかどうかのやり取り、昴さんの「冗談だ」からの笑顔、あれ絶対本心混じってますよね(笑)。羽衣子さんの「次は一緒に入った方がいいのかな」って自問するところ、すごく共感しました。そして希海くんとのビデオ通話で一気に家族の温かさが出て、昴さんのパパとしての優しい顔も見られてほっこり。昴さんに「してもらってばかり」と感じる羽衣子さんの心情も丁寧で、この先の関係の変化が気になります🌷