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日比野カフカは自己肯定感が低い。
いや、殆どないの方が正しいだろう。
日比野カフカ。彼女は高く伸びた背丈、女子と言うには逞しい身体付き。モンスタースイーパー社で培った怪獣の知識。
それら全てを戦闘へと費やす。解放戦力が低いが為、他の全てを武器にして闘う。
その上、自身のその身がどれだけ傷付いていようと骨が折れていようと、助けを求める声が聞こえたら手を取る為に立ち上がる。
そんな彼女に助けられた人はどんな気持ちだろうか。
擦り傷程度で腰が竦み、助けを求め叫ぶ。それを聞いて駆けつけたのが自分よりもボロボロで、至る所に血がついている彼女だったら。
カフカに大丈夫かと心配される。自身よりも遥かに大丈夫ではない彼女に、
民間人にはその傷がどんなに痛いのかわかる人なんて極僅かだろう。普通の日々を送っている奴には理解が及ばない。
自分よりも何倍も大きい怪獣。銃や刀を使おうと、こちら側が生身で戦っている以上少なからず不利な事に変わりはない。
「3番隊日比野カフカです。失礼します」
そう言って救護室のドアを開くも誰もいなかった。仕方なしと上着を捲り右肩を露出させる。
上着を歯で噛み締めたまま、乾ききった血と砂埃が付いている腕を水で洗い流した。
「ーーっ」
イッテェと叫ぶとこだった、歯を食いじばり叫びが上着に吸い込まれる。痛い…自然と眉間に皺がよる。傷が増えてようとも痛みに慣れることは人間にとって無理難題だろう。
水分を拭きながら、消毒液をぶっ掛ける。傷口に沁みる消毒液は下へと垂れてズボンに染みを作った。
口で上着を掴んだまま、自らの腕に包帯を巻いていた。だが片手じゃどうにも上手く巻けない。利き手じゃないから尚更だ。
「カフカ、また怪我したんか…」
後ろから不意に聞こえたその声に肩が跳ねた。恐る恐る背後を向くと見知った顔が俺を覗き込んでいた。
「ほ、ほひなふふはいひょー!?(保科副隊長!?)」
はい、保科副隊長ですよーと言いながら隣に座ってきた。怪我でもしたのかと聞こうと思ったがその前に手に持っていた包帯が奪われた。
「ふぇ?ほひなふふはいひょう?」
包帯ならあの箱に入っているぞと言おうとしたのも束の間、その包帯を俺の腕に巻いてきた。俺が巻くよりも随分と綺麗に腕に巻かれている包帯。
スゲェな…と言葉が溢れそうだったけど、上着が邪魔をした。
「保科副隊長。あの、ありがとうございました。包帯」
「…ええよ」
悲しそうに眉を下げて呟いた副隊長。
何か悲しかったのだろうか?もしくは俺が何かをしでかしたか…
「カフカは、もうちょっとだけでええから自分にこと大切にしぃ」
俺の手を握ってそう言った。普段とは打って変わってふざけていない、真面目腐った顔で言った。
シンとした空間に言葉が解けて言った。その空気を開けるように『ガチャ』とドアが開けられた。
驚きなどを見せぬように手を退かして、入ってきた保健師の女性に事情を話してた。
にしても、可愛いなぁ。
保健師の女の子達の髪は後ろでお団子にしているものの、明るめの優しい茶色だったり艶のある藍色だった。
伸びた指は細く薄くネイルが施されていた。紫色とピンク。片方の色は今目の前で話している相手の色だろう。
保科副隊長は顔ファンがいるほどカッコいいし、メディアにもよく取り上げられてるし。まぁ女性人気はダントツだ。
その為か保健師達の頬は薄く染め上がり、浮き足だっているのが窺える。仕事中なんだからそう言うのはどうなんだろうか、とカフカは思うものの自身が誰かを思うことがなかったから、実際のほどはわかってはいない。
恋でもできたらなんか変わってたのかねぇ…
ふと自分の手を見ながら思った。
手入れをされてるとは言い難く、武器を握る為にマメはできるし切り傷だって多い。爪は短く削られて手も大きい。
キコルや他の女性隊員も自分よりは綺麗な手をしていた。
まぁ、それでも構わないカフカの夢は亜白隊長の隣に立つこと。世界を救うこと。
決して女の子らしくなりたいわけではない。
だからそれでいいのだ。体付きがゴツかろうと討伐隊としては有利だし、怪獣を一匹でも多く討伐できるのならそれで十分。
カフカはそう考えている。
「保科副隊長すみません、お気遣いありがとうございました。自分はもう大丈夫なので失礼します。」
この救護室に自分はいらない物なので早々と退出しようと立ち上がる。
その瞬間に見えた彼女達の視線。
『なんでアンタが』
『勘違いしない方が身のため』
『身の丈を考えないさいよ』
小さい頃に見た自分を非難し嘲るような目付き。あぁ、やはり自分は生まれてくる性別を些か間違えたようだ。
背筋が一気に凍る程に冷えた。防衛隊でも時々感じたその目は、言葉と同じように刃物となり内部を切り裂く。
やっぱり痛いなぁ…
でも、彼女達が向けるその視線がキコルやミナに対して向かわないのならそれで良いのかもしれない。
自分が多少傷付けば済むだけなんだから。
そう割り切ったまま、部屋を後にした。
保科副隊長には悪いことさせちゃったなぁ、あんな時に1人残させるのは苦痛だろう。
今度、モンブランでも差し入れてみようかと思いはしたもののどうせ彼女達のようなファンに憎まれて終わるだけだし、何もしないのが1番だろう…
それで良いのだ。
久方ぶりの休日
討伐隊と言えど人間だ。休みは勿論ある
やることもないけれど今日ぐらいは怪獣の勉強も休むことにした。
あんなことがあった直後だから自分をとことんと甘やかしたくなってしまった。休日だし誰にも咎められる必要はない。
そうして外出届をミナに提出した翌日、カフカは自分を労る為にキコルに相談しながら普段はしない格好に身を包んだ。
黒いタンクトップに白いパンツ上に薄い水色のワンピースシャツを羽織っていた。靴がキコルに勧められた低めのヒールを履いている。
緩く後ろでまとめた髪には紫色のシンプルなバレッタ。耳にも同色の揺れるイアリングをしていた。
紫にする理由を聞いてみたけど、無視された。それでもキコルやレノに太鼓判をもらったからこそ少し嬉しかった。
何をするか計画も立てていなかったから、取り敢えずとショッピングモールに入って行った。
可愛い雑貨屋でアクセサリーを眺めたり、自身が着ないような所謂ロリータ系の服に触れてみたり。
俺には似合わないけど、可愛いものを見ていれば心が癒された。可愛いものは昔から好きだったけど、それが似合うのはいつも一緒にいて仲の良かったミナだった。
確かにミナは同性であろうが異性であろうが、綺麗と認めざるを得ない。それでいてどこか感じられる可愛さもあるのだ。
同じ隊員で言えばキコルも、そう言う分類に入るだろう。黄色い髪は下ろせば長く、トレードマークの黒いリボンもよく似合っている。
反してカフカは、可愛いとは言えないだろう。
わかっている。
「あぁ…またやった」
せっかく嫌なこと忘れようとしてたのに思い出してしまった…
全く、何をそんな落ち込むことがあるそんなには昔から知っていたことだ。
「やめよやめよ」
頭を振るい雑念を取り払う。頭を空っぽのする為に本屋へと足を向けた。
見るのは勿論怪獣関係の本。だがどれも既に持っている本だらけだった。その中で唯一あった新刊を手に取る。発売されて数日しか経っていなかったからか、防衛隊に図書室にはなかった。
カフカはこうして色々な怪獣の本を集めて、自室で本に付箋を貼りマーカーで線を引く。
そのせいかカフカの部屋の本棚にはボロボロになった怪獣の本が並んでいる。
閑話休題
レジに本を持っていく途中、フラっと雑誌コーナーを見た。意味があるわけじゃなかったけど、なんとなく入った。
そこに陳列していた雑誌の一つに見知った顔が載ってた。外交用の笑みをうっすらと浮かべた保科副隊長。
俺に対して笑う時はこんな顔してないよな…そう思いながら自分が少し特別な立場であることを喜んだ。
そのまま小説棚をみようとした時にとある背中を見た。さっき雑誌で載ってた。
昨日も見たその人。保科副隊長。
休日被ってたのか…と驚きながらも邪魔をしちゃ悪いとそーっと通り過ぎた。
と思ったけど…
「カフカ?」
嘘でしょ!?バレた?いや気のせいって事でそのまま進もう、うん。
そう思ったのも束の間覗きに混むように首を少し傾げた保科副隊長が目の前にいた。
「やっぱ、カフカや」
「お、はようございます。保科副隊長…」
気のせいか少しテンションが上がったように子供のように保科副隊長が名前を呼んだように聞こえた。
「おはよう、って言うよりもうこんにちはの方が正しいよと思うけどな」
「では、これで自分は失礼します。」
逃走しようと挨拶をしたのについてくる保科副隊長
「…何か買うものでもあるんですか」
「いや、なんもないで」
「じゃあなんで…」
「カフカの隣におりたいからやけど、ダメやった?この後誰かと出かける予定やったんか」
語尾になるに連れて徐々に保科副隊長の声が低くなっていった。いや、恐怖マジで。
「なんもないです。保科副隊長といれて嬉しいです。とっても、はい」
取ってつけたのかと思うほど棒読みの声が自分から聞こえた。
無事に本も買えたから解散というなの逃走を図ろうと思ったけど、有無を言わさない程の圧が後ろからかかってきた。
「なぁ、カフカ良かったらこれから僕とアフヌンせん?」
「アフ、ぬん??えっとーすみません、なんです?それ」
「えっ、カフカ知らんの!?ならやった方がええわ。ほな行こか。」
心底驚いたように言った後急いで俺の手を引いて駐車場へと向かっていった。
保科副隊長は当たり前かのように扉は開けて座らせるし、降りる時も手を差し出してきた。要するにエスコートというやつだ。
なんで俺に?と思いもしたけど口を挟んだら後々面倒なことになりそうなので黙っておいた。
そんでついたのが白と紫を基調とした滅茶苦茶綺麗な店だった。
俺、場違いが過ぎないか!?
保科副隊長は確かに今日の私服もスラっとした背丈に合っていてカッコいいけれど、隣にいるのが俺なのが随分とアウトな気がしてきてならない。
こういうのはミナとか綺麗な人と来るべきでしょ!?俺だけ場違い感半端ねーよ…
そう悶々としていたらいつのまにか席に座ってたし、紅茶が置かれてた。保科副隊長は少し肩を震わせてた。
「カフカ、お前…青くなったり赤くなったり、どっちかにせぇよ…フフッ」
と堪えきれていない笑いが溢れている。
何はともあれ目の前の紅茶をゆっくり喉に流し込んだ。
甘くて美味しい。甘過ぎないくて、ほんのり香る桜の匂いに感嘆を落とした。
手のひらにじんわりと伝わる紅茶の温かさは心地がいい物で、ふんわり香る桜と焼き菓子の匂いが甘く溶けていく。
「…よぉやくカフカが笑顔になった」
眉を下げて困ったように笑った保科副隊長。
「え?」
「カフカ一昨日からずっと顔が強張ってたんよ?」
「気付かなかったん?」
そう笑った。
あぁ、本当に人を見る目に長けている。俺が落ち込んでたのを知っていたから声をかけたんだろう。
『きっと、他の人がそうでも、こうしてここに来るのだろう。』
自分の中で思い浮かんだ言葉に胸が痛んだ。いつの間にか自分だけだと勘違いしていたようで。苦しくなった。
喉に鉛がつっかえたように…
「あんなぁ、ここカフカと一緒に来たかったんよ。」心底嬉しそうな顔で微笑んでいる。
向けられた笑顔が自分だけのものだったら…そう思った。思ってしまった。
そこで初めて自覚した。
俺は保科副隊長が好きなんだなぁ…
飄々としたとこも、討伐している時の真剣な表情も、ふとした時に見える笑顔も。
見開いたその紅玉のような綺麗な瞳も。
全部好きなんだな。これが好きってことなんだ。
彼女たちはこんな思いをしていたのか…いや俺よりも軽いかもしれないけど…
「カフカ?どないした?急に黙っt…」
「なんでも、ない。です」
気付いた時には涙が溢れてた。叶うはずもないならば、どうせならば気付きたくなかった。
尊敬する上司と思っていたかった。なんで、気づいたんだよ…
止めたくても止まらない涙は落ち続けて、保科副隊長はずっとオロオロしている。そりゃあそうだろう。
こんな年増の可愛いくもないおばさんが急に泣き出したんだ、困惑以外の何者でもないだろ。
「すみません。大丈夫、です。もう、ほんと」
持ってたハンカチで涙を拭き終えた後、気まずくて気まずくて逃げようとした。
「誰かがカフカにしたんか?」
「えっ…」
「カフカ泣かせたんは誰や、僕が絶対しばき倒したる。やから教えてぇな」
「頼むから泣かんといて…カフカ」
「なんで、そんなこと言うんです…」
「ただの平の隊員ですよ、他の人だったら勘違いしますよ…」
個室の部屋にその声がゆっくりと響いた。
「カフカは、勘違いしてくれへんの?」
「俺はカフカが好きなんよ。日比野カフカが」
「う、そだ」
なんで今そんな冗談を言うかもわかんないし意図もわかんないし。
でも、本当なら
「嘘やないで、俺はほんまに日比野カフカが好きなんよ。」
やから泣かんといて、そう言いながら俺の頬を優しく撫でてきた。
「俺は、可愛くないです」
「かわええよ」
「ミナみたいに綺麗じゃない」
「今日の服滅茶苦茶似合うとる、綺麗や」
「なんで、俺なんですか…」
「カフカの隣は居心地がええ、あったかくて優しくて、面白い。
「フ…、変な感性ですね、本当」
さっきまで溢れてた涙は嘘のように乾いたし、いつの間にか俺は笑ってた。
「俺も、保科副隊長の隣が好きです。」
「僕を選んでほしい、ええか?」
紅玉よりも綺麗な赤の瞳で真っ直ぐ見てくる。
「勿論ですよ。俺でよければ」
どうしようか、また涙が溢れてきた。
席を立った保科副隊長は、俺を強く抱きしめたい。
「保科副隊長、俺を選んでくれますか?」
フワッと香る香水の匂いに溺れながら、俺を抱きしめてくる人に聞いた。
「当たり前や、もう離さへんよ」
「嬉しい」
溢れた涙を保科副隊長は拭いてくれる。
「…大好きです。保科副隊長」
抱きつく手に力を込めた
「………副隊長じゃなくて、宗四郎がええんやけど?」
「フハッ、しょうがないですね。」
「大好きですよ、宗四郎さん」
紅玉の瞳に緑が映った。
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救護室の前で軽くノックをする
今さっき、カフカと帰ってきたばっかやから、私服のまんまやった。
「3番隊副隊長の保科ですー」
そう言うと中から猫撫で声の返事が聞こえた。辟易する。
隣で困ったように眉を下げる可愛い可愛いカフカの声は聞いてて心地良いもんなのに全くもって、好きになれない声。
ドアを開けながらカフカに手を引いて中に入る。前回とおんなじ保健師がおった。
取り敢えず、湿布と喉に効く薬を貰いにきたと軽く説明する。後ろのカフカは手をギュッと握って来て可愛ええ。
あの後に、カフカ連れて速攻ホテル行ったのは割愛する。アフヌンしてたのが10:25分ごろやったけど、防衛隊に帰ったのが門限ギリギリの22:45分やったわ〜、あれは焦ったわ。
まぁ、まだ救護室が開いてる時間帯で良かったわ。ほんまに。
ついつい、カフカと両思いになれたんが嬉しくてタガが外れてしもたわ〜。
「ありがとう」
湿布と薬を受け取って、感謝を言って退散しよーよと思っとたんに保健師の奴ら
「なんかあったんですかー」
って背筋凍ってまうわ。まぁ、笑って
「カフカに無理させ過ぎたんよ、堪忍なカフカ〜」
って言ったら、固まってたんよ。オモロかったわ。そのまんま、カフカ連れてさっさと退散したけどな。