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──欧州で勃発している大戦により、確かに日本は物不足となったかの地へ輸出することで、いわゆる、軍需景気に沸いていた。


しかし、日英同盟を理由に、連合国側へ付いた日本は、ドイツへ宣戦布告をし参戦する。


そして、連合国の圧力から、同時に起こったロシア革命による、社会主義の脅威、はたまた威力を防ぐ為の協力を強要される。


革命軍によって囚われたチェコ軍団を救出する名目で、シベリアへ共同出兵、つまり、派兵することになったのだ。


そこに、目をつけた商売人達は、軍への供給で米が必要になると先き読みし、米が、高値で売れるだろうと米の買い占めを行い始める。


それは、巡り巡って、物価高騰となり庶民は日々の暮らしにあえいでいた。


「……このままでは、どこまで物価高になるかわからない。暮らしぶりだけなら、節約すれば良いけれど……商いにも影響がでるのではないかしら……」


だから、と、佐紀子は、声をあらげた。


「月子さん、あなたへお渡しするお金は、西条家で、一時的に預からせていただきます!」


それは、つまり。


月子親子は、西条家から籍を抜き、そして、無一文で放り出される、ということか……。


ては、母の病は?!


「お、お姉様!私は、構いません!どうか、母を!母の事を!」


出された条件は全て飲む。ただ、最低限で構わない。ひとまず、母親を病院へかけてくれと、月子は、声を張り上げ、佐紀子へ懇願した。


必死の形相を浮かべる月子に、佐紀子は、けむたそうに、つっと眉をしかめる。


「もちろん、西条家の面子がありますもの。あの方は、ひとまず、かかりつけの、佐久間先生の所でお世話して頂きます。仮にも、お父様の妻、だった方ですからね。世間に、余計なことは言わせないわ。ただ……あなたは、連れ子でしょ?」


連れ子、という響きに、野口のおばが、ふっと鼻で笑った。


さっきまで、月子へ金を渡すのかと、食ってかかっていたのに……。


どうあれ、一時的な事かもしれないが、母は、蔵での生活から、病院で治療を受けられるようだ。


とはいえ、月子へ金を渡さないと言い切った佐紀子のこと、母の治療費も出すはずがない。


そのことは、男爵家と相談させて頂こうと、月子は思うが、相手は、勘当された身……らしい事を思い出す。


やはり、自分が働くしかないのだろうが、果たして、相手の許しが降りるのだろうか。


佐紀子と、身の振り方を話せば話すほど、月子の不安は高まるばかりだった。


「月子さん、手配は、全てこちらで行います。あなたは、何も心配することはありません」


実に、事務的な口調で、佐紀子は、話を終わらせた。


「でも、おばさま?私の縁談も、ですけど、月子さんの縁談も、まとまらなくては、西条の家はめちゃくちゃになりますわ」


一見、独り言のように佐紀子は、呟く。


野口のおばは、そうだ、確かに、と、慌て、


「佐紀子!これで、失礼するよ。うちの人に、報告しなきゃあねぇ。諸々をまとめないと!」


転がるかのように、勢い立ち上がる。


月子は、思う。


おばは、当然、月子親子が邪魔だと思っているが、佐紀子が、月子達が手にするはずである金を、預り金として手元に置くと言ったことが気に入ったのだろう。


少しでも、今まで通り、野口家への資金援助を期待して。そのためには、余計な出費などない方が良いのだ……。


いそいそと、客間から出ていく、おばの姿に、別段、頭を下げることもなく、佐紀子は、平然としていた。


そして、野口のおばの姿が見えなくなったとたん、更に、その表情を強ばらせると、床の脇、部屋の隅に備わる、豪奢な仏壇へ目をやった。


「月子さん。私は、婿を貰っても、結局、西条家をまもらないといけないの。何故だかわかる?全ては、この家をここまでにした、ご先祖様の為。佐紀子が、女だから、婿を貰ったから、この家は、めちゃくちゃになった。そう思われたくないのよ。なんて事を言っても、うどん屋風情の娘に、分かる訳ないと思うけれど……」


そこまで言うと、佐紀子は、立ち上がり、仏壇の前へ座ると、ろうそくと線香に火をつけて、数珠を取り手を会わせ、念仏を唱え始めた。


月子は、ここまでだと、理解して、佐紀子の祈りを邪魔しないよう、そっと障子を開けると、縁側へ出た。


母の病以来、月子は、屋敷の中を移動することを許されていなかったのだ。


縁側づたい、庭づたい、つまり、人とすれ違わない方法で、移動させられていた。


もっとも、母がいる蔵は、裏庭の隅にあるから、どのみち、自然、庭づたいに移動することになった。


月子は、縁側から、一度、庭へ降りると、裏方、台所のお勝手を目指す。


太陽は、随分高く昇っている。もう、昼が、来ているのだろう。母へ食事を用意しなければ。


ふと、月子が見上げた空は、雲一つなく晴れ渡り、植わっている木々の葉も、赤く色づきはじめていた。


もう、そんな季節なのかと思いつつ、月子の心の中では、先が見えない不安から、心地よい秋風ではなく、吹きすさぶ、吹雪のようなものが渦巻いていた。

麗しの君に。大正イノセント・ストーリー

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