テラーノベル
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地下牢は、その日を境に沈黙した。
大天使ミカリスは二度と姿を見せなかった。
そして――少年も、来なくなった。
足音が近づくたび、サリエルは顔を上げた。
だが現れるのは看守だけ。無言で水を置き、鎖を確認し、去っていく。
…来ない。
それが数日でなく、数週間だと悟った頃、 サリエルは初めて笑わなかった。
「…やっぱり、そうなるよね…。」
独り言は湿った壁に吸い込まれる。
少年の迷い、揺れる瞳、叫び声―― あれほど鮮明だったものが、時間と共に薄れていく。
天使と悪魔。
同じ場所に立てるはずがない。
サリエルは目を閉じた。
期待していた自分を、心の奥で嘲った。
――――
処刑の通達は、あまりにも事務的だった。
「悪魔。 三日後、黎明の刻。 光槍による浄化刑を執行する。」
羊皮紙を読み上げた天使の声には、感情がない。
それが” 正義”なのだろう。
「…へえ。」
サリエルはかすれた声で笑った。
「思ったより早いね。タイミング良すぎじゃない?」
看守は答えない。
扉が閉まり、重い錠の音が響く。
三日。
サリエルは天井を見上げた。
そこには光も、希望もない。
(アゼリア…)
名前を思い浮かべた瞬間、胸の奥が軋んだ。
会いに来なかったのか。
来られなかったのか。
それとも――来ないと、選んだのか。
「…どれも、同じか。」
サリエルは自嘲気味に呟いた。
――――
処刑決定の報告を受けた瞬間、少年 の手から書類が滑り落ちた。
「…処刑…?」
「当然だ。」
ミカリスは冷淡に言い放つ。
「情に流されなかったのは評価する。 お前が牢へ近づかなかったのも、正しい判断だ。」
少年は何も答えられなかった。
夜ごと、夢に見る。
鎖に繋がれたサリエルの目。
争いを終わらせたいと言った、あの声。
――三日後。
それが、彼の命の期限。
「…本当に、それで…終わるんですか。」
小さな声。
だが、確かに発せられた疑問。 ミカリスは振り返らない。
「終わる。 悪魔が一体減る。ただそれだけだ。」
少年は拳を握りしめた。
爪が食い込み、痛みが走る。
「…」
少年は、思考を完全に停止した。
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