テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#嫌われから愛され
処刑までの三日間。少年は、考えることをやめた。
夜明け前、鐘が鳴るより早く訓練場へ向かう。
まだ冷えきった空気が肺を刺し、白い息が細く伸びる。
剣を握る。
ただ、それだけに集中する。
ーー振る。
ーー踏み込む。
ーー斬る。
金属が空を裂く音が、何度も何度も響いた。
型は完璧だった。師匠に仕込まれた、正確で無駄のない動き。
考える必要などない。身体が勝手に動く。
汗が額を伝い、目に入っても拭わない。
止まれば、思考が戻ってくるから。
「…っ!」
剣を振るたび、心の奥で何かが疼く。
だが少年はそれを無理やり押し殺し、さらに速く、さらに強く踏み込んだ。
昼になってもやめない。
天使たちが休憩に入っても、訓練場には剣戟の音だけが残る。
「おい、アゼリア…少し休め。」
同僚の天使が声をかけても、聞こえないふりをした。
返事をすれば、余計な感情が溢れてしまう。
腕が震え始める。
握力が落ち、剣先がわずかにぶれる。
それでも、やめない。
「…まだだ。」
誰に言うでもなく呟き、再び剣を振り上げる。
夕暮れ。
空が茜色に染まる頃、ようやく膝が落ちた。
息が荒い。
喉が焼けるように痛む。
だが、頭の中は不思議なほど静かだった。
ーー考えなければ、楽だ。
ーー感じなければ、苦しくない。
その夜も、少年は眠らなかった。
翼の手入れをし、刃を磨き、再び訓練場へ戻る。
剣の重さ。
筋肉の痛み。
呼吸のリズム。
それだけが、現実だった。
(サリエル…)
ふと、名前が浮かびかける。
少年は歯を食いしばり、地面を蹴った。
思考が戻る前に、身体を動かす。
剣が夜の闇を切り裂く。
火花が散り、腕に痺れが走る。
それでも、止まらない。
止まってしまえば、サリエルの処刑の日が、確実に近づいていることを 認めてしまうから。
少年は、ひたすら訓練を続けた。
何も考えないために。
そして、考えてしまわないようにするために。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!