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処刑までの三日間。少年は、考えることをやめた。
夜明け前、鐘が鳴るより早く訓練場へ向かう。
まだ冷えきった空気が肺を刺し、白い息が細く伸びる。
剣を握る。
ただ、それだけに集中する。
ーー振る。
ーー踏み込む。
ーー斬る。
金属が空を裂く音が、何度も何度も響いた。
型は完璧だった。師匠に仕込まれた、正確で無駄のない動き。
考える必要などない。身体が勝手に動く。
汗が額を伝い、目に入っても拭わない。
止まれば、思考が戻ってくるから。
「…っ!」
剣を振るたび、心の奥で何かが疼く。
だが少年はそれを無理やり押し殺し、さらに速く、さらに強く踏み込んだ。
昼になってもやめない。
天使たちが休憩に入っても、訓練場には剣戟の音だけが残る。
「おい、アゼリア…少し休め。」
同僚の天使が声をかけても、聞こえないふりをした。
返事をすれば、余計な感情が溢れてしまう。
腕が震え始める。
握力が落ち、剣先がわずかにぶれる。
それでも、やめない。
「…まだだ。」
誰に言うでもなく呟き、再び剣を振り上げる。
夕暮れ。
空が茜色に染まる頃、ようやく膝が落ちた。
息が荒い。
喉が焼けるように痛む。
だが、頭の中は不思議なほど静かだった。
ーー考えなければ、楽だ。
ーー感じなければ、苦しくない。
その夜も、少年は眠らなかった。
翼の手入れをし、刃を磨き、再び訓練場へ戻る。
剣の重さ。
筋肉の痛み。
呼吸のリズム。
それだけが、現実だった。
(サリエル…)
ふと、名前が浮かびかける。
少年は歯を食いしばり、地面を蹴った。
思考が戻る前に、身体を動かす。
剣が夜の闇を切り裂く。
火花が散り、腕に痺れが走る。
それでも、止まらない。
止まってしまえば、サリエルの処刑の日が、確実に近づいていることを 認めてしまうから。
少年は、ひたすら訓練を続けた。
何も考えないために。
そして――考えてしまわないようにするために。