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おっ。あの可愛らしい声は間違いなくいつものシーニャだ。今のおれの姿は獣化した姿なのに、耳をピンと立てて嬉しそうに駆けてくるじゃないか。
ルティの姿が見えないな。
無事なのか?
それよりも問題は、
「ウニャッ! アック、また獣になったのだ? それでもシーニャは嬉しいのだ!」
「シーニャっ!!」
「フニャン!? だ、大胆なのだ! アック、どうしたのだ?」
誰が見るわけでも無いがシーニャの装束が風の影響で破けている。彼女の全身がやや見えてしまっているだけに、咄嗟に抱きしめるしかなかった。シーニャの装備もまたガチャで出してやらなければな。
「その、目のやり場に困る事態になっているというか……何も覚えていないのか? さっきまでおれと戦っていたんだが……」
「何だか夢を見ていた気分なのだ。でも、ドワーフと戦った記憶はあるのだ」
「……夢か。意識はあったが別な意識が働いていたのかもしれないな」
それにしても嬉しそうに虎耳を立て、尻尾をぶんぶんと動かしている。思わず撫で回したくなるが、今の姿と姿勢では上手く出来そうにない。その辺は我慢するとしてシーニャにはひとまず軽めの布を羽織ってもらう。
「ところでシーニャ。ルティを見ていないか?」
「《ほへぇぇぇ~……》」
「……ん? 何か声が……」
「ドワーフならシーニャがずっと掴んでいたのだ!」
「掴んで……って――」
シーニャが掴んでいた先にひらひらなエプロンが見えている。長い赤毛、さらには疲れ果てたルティの顔。どうやら正気に戻ったついでにルティを助けたようだ。シーニャに掴まれたまま引きずられたようで、エプロンが土埃で汚れてしまっている。
「はへぇぇえ……」
風の威力は凄まじいものがあったが、二人とも怪我は負って無いようだ。
「アック様ぁ~わたしを見捨てないでください~はひぃ~」
「無事で何よりだ」
「ドワーフ、気付いたら目の前を飛んでいた。シーニャ、思わず掴んでいたのだ」
「そ、そうか。よくやったぞ、シーニャ!」
「ウニャッ!」
闇シーニャは一体何だったのだろうか。知るためには闇神の所に行くしか無いが、とりあえず獣化から人化して視線の先にある村の人々を安心させるのが先決だ。
「獣じゃなくてもアックなのだ! ウニャ」
「そうだぞ。安心した?」
「なのだ!」
壁は完全に崩壊し、風の村が露わになった。それでもラファーガは姿を見せない。だが大部分の村人の格好が碧色の軽装を身に纏っているところを見れば、ここが奴の村であることは疑いようが無いだろう。
闇神の所に行くには使いが迎えに来ると言っていたが、それは闇シーニャだった。彼女の記憶にその時のことが残っていれば行けるかもしれないが、どうだろうか?
「シーニャ。もし覚えていたら、キミがここまでどうやって来たのかを教えてくれないか?」
「そう言うだろうと思っていたのだ! シーニャ、道覚えている。案内出来るのだ」
「おっ、さすがだな! じゃあ、早速村に……」
「ウウニャ、村じゃなかったのだ」
神族ごとに村が割り当てられているとばかり思っていた。だがそう思い込んでいたのは間違いだったようだ。
「む? そうなのか」
「とにかくそこに向かうのだ! ウニャ」
「よし! まずはルティを起こすか。シーニャ、治癒《ヒール》をかけてくれ」
肉体的なダメージは無さそうだが、疲労困憊なのは見て分かる。ルティに有効なのはシーニャによる回復魔法で、ルティの回復薬の効果とはまるで違う。
「……ふわぁぁ~。あれ? アック様、それにシーニャちゃん?」
「シーニャ『ちゃん』じゃないのだ!!」
「ご、ごめんなさい。わたし、すごく眠っていましたか? 何か空に浮いたまま眠っていた気がするんですよ~」
それは間違いないな。ラファーガの風に浮かされたし、ついでにおれが起こした暴風も。
「き、気のせいだ。疲れたんだろうな。でも回復しただろ?」
「はい、それはもう!」
「シーニャ、頑張ったのだ!」
「よくやったぞ、シーニャ! その布のままで歩かせるわけにはいかないから、新しい装備を出すからな!」
「ウニャッ! 楽しみなのだ~!」
虎人であっても肌の部分を見せつけるわけにはいかない。シーニャには早急に出してやらねば。
「え~? ズルいです!!」
「エプロンじゃなくなってもいいなら出せるけど、いいのか?」
「むむむ……」
「シーニャ、アックから新しいのをもらったら案内するのだ!! ウニャッ!」