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「…ん…んん”…?」
ぶるっと震えるような寒さを感じる。布団に埋まって暖をとろうとするが、4月になって羽毛布団をお母さんに取り上げられたからか、ちっとも暖かくない。でも起き上がるのはとても気が引けるから、そのまま布団の中でもぞもぞとしていると、「たつや〜!!そろそろ起きてこ〜い!!」と一階から大きな声がした。もう春休みなんやからええやろ。え、まさか卒業式は夢やったとかないよな?日付を確認すると、ちゃんと卒業式より後だった。
「そうよなー…良かったわ…」
ふと窓の外を見ると、しんしんと雪が降り積もっていた。
「たつや〜!!」
「あ、はいはい!起きてる、起きてんでー、!」
冷え切った廊下の床をつま先立ちで進み、リビングに入る。
「寝過ぎやで、!とりあえず顔洗ってきいや」
「はいはい…」
顔を洗い、クローゼットルームに入る。ここはお父さんとお母さんの服も掛けられてあり、服で溢れかえっている。見るだけで目が回りそうだ。お母さんのこだわりが詰まったこの部屋、いや、この家は、廊下の幅やドアの高さなど、ほぼほぼお母さんの要望に沿ったものだ。
そういえば前うりが家に来た時、オシャレやってゆうてたっけな。俺やって、この家は綺麗で好きや。この部屋を除いて。服が多すぎるのもあるけど、一番の理由は、お前はこの世界に見合わない、と拒絶されているような気がしてならないこと。というか、世界が俺に見合ってないんや、と思っている。急いでいつもの服(トレーニングウェアに黄色のLサイズのTシャツを重ね、トレーニングパンツを穿いたものだ。)に着替え、逃げるように部屋から出る。
リビングに入ると、トーストとハムエッグが丁度机に置かれたところだった。
「飲み物なにがええ?ホットミルクか?それともココアとかか?」
「あー…っと、じゃあ、ホットミルク」
少し驚いたような顔をして「へー、分かったわ」とお母さんは呟いた。
「まだ母さんはたつやの好み把握できてへんなぁ」
別に、どっちでもええんやけどなぁ。
しばらくすると、お母さんがココアと数種類のジャムを持ってきてくれた。
ジャムを選ぶときは、必ず左のものを取るようにしている。 今日はイチゴジャムやった。
「悪いんやけど、今日クリーニングに出してた制服取りに行ってくれへん、?」
仕事が立て込んでもうてな、とお母さんは付け足した。
「は…え、明日じゃだめなん…?」
「今日の朝電話あって、今日中にとりにこいーって言われてしもてな」
え、めっちゃ面倒臭いんやけど。でも、申し訳なさそうにしているお母さんを見ると、断れない。
「…分かったわ、行ってくる」
「ほんまかっ!ありがとな〜っ!」
まあ、どうせまだ春休みはあるんやから、ええか。
重い…重すぎるやろこれ…
お母さんにお小遣いを貰ったから帰りに近くにあるコンビニにでも寄ろかと思たけど、制服
が重すぎてそんな気にならへんかった。
とりあえずひと休みしようと紙袋を置いて、橋に寄りかかった。ぼーっと海を見つめる。たまにはこんな時間があっても悪くないかもしらんな。
ふと、誰かが歩いてきていることに気づいた。めっちゃかっこええ人やな。この町噂とかめっちゃ広がりやすいのに、こんな人の噂は聞いたことがない。まあ、お母さんが噂話は好きじゃあらへんのもあるけど。それにしてもイケメンやな。爽やかになびいた髪には、誰でも見惚れてしまうと思う。
「たっつんくん?」
急に話かけられて体がびくっと跳ねたのが分かった。でも、そんなにびっくりしてしまったのはそれだけが原因ではない。だって、その声には聞き覚えがあるから。
「…えと、さん…?」