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ボロアパートの一室。

カタカタと古い型の扇風機が健気に風を送り続けている。


それでも湿度は、高く……。汗を拭いながら問題とにらめっこを続けていた。そんな俺を、氷のような目で見下ろす鞭を持った女家庭教師。


「こーーんな簡単な問題も分からないの? 少しはそのヒヨコ脳を使いなさい!」


「さっきから、ずっと使ってますよっ!!」


ビシッィ!


「ギャアァあ!! ぁ、痛っつつ…」


鞭が背中に当たり、激痛が走る。


「口答えしないで。あなた、何様ですか? お嬢様の頼みじゃなかったら、こんなオモチャの鞭じゃなく、本気鞭使って今頃殺してますからね」


本気鞭があるの?

この鞭でも、死ぬほど痛いのに?


「さぁ、次はこの問題です。ボケっとしないで」


「はぃ……」


自業自得。


そもそもこの状況を招いた原因は、すべて自分にある。この前あった学校の中間テストの結果が非常に悪く、追試が決定した。その後すぐ、激怒した会長に生徒会室で説教された。説教中、無性に耳が痒くなった俺は、その事を会長にアピール。………気づいたら、なぜか会長の膝枕で耳掃除をしてもらっていた。


何だかんだで、七美は俺にかなり甘い。

でも、さすがに甘えてばかりもいられない。


食費を切り詰め、バイトに入る日数を減らし、勉強する時間を増やした。さらに土日は、七美の付き人。メイド長の卯月(うづき)さんに家で勉強を教えてもらうことにした。卯月さんは、七美と俺との関係を知っている数少ない人物だった。


「こんな情けない結果では、将来お嬢様を幸せには出来ませんよ? 結婚したら、最低でもグループ企業の幹部にはなっていただかないといけませんから」


「…結婚は早いって……でもまぁ……頑張ります」


やっと昼休みに入ると、七美が温かい昼飯を配達してくれた。栄養バランスを考えた完璧な食事。量と味、申し分なかった。


「ありがとう」


「頑張ってね。でも、無理はしないで……。ずっと、そばで応援してるから」


午後のシゴキが始まる前に卯月さんに前から気になっていたことを聞いてみた。

子供の頃からの世話役。七美の事を知り尽くしてる彼女だからこそ、聞いておきたかった。


「あの……。始める前に一つ質問いいですか? えっと……七美さんって、そもそもなんで俺が好きなんですかね。ハハ……今だに良く分からなくて。俺には、特に人より優れたところもないし……生徒会に入ってすらいない。七美なら、男なんて選び放題だと思うんだけど」


「お嬢様のお心は私にも分かりません。…………ただ」


「ん? なんか言いました?」


「時間が勿体ないので、くだらない質問タイムは終了です。さぁ、目の前のテキストに集中して。またバカな間違いをしたら、叩きます。背中が痛くて痛くて、今晩眠れなくなりますよ?」


「は、はいっ! 勉強に集中するから。頑張るから。だから、叩かないで。お願い」


「……………ふぅ」



お嬢様があなたを好きな理由ーーーー。


そんな事も分からないなんて、やっぱりアナタは大馬鹿ですね。



答えは、簡単。



あなたがお嬢様の命の恩人だからですよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【昔話】


僕は、この悪魔がいる屋敷が大嫌いだった。いつもいつも弱い僕達をイジメるから。


それでも父さんは、悪魔にお金を借りる為、今日も屋敷に行く。父さんの工場が潰れそうだから仕方ない。どこの銀行も父さんには、お金を貸してくれない。


早くお金を何とかしないと、父さんと一緒に死ぬしかない。………でも、死ぬのはそこまで恐くはなかった。この前死んでしまった母さんに天国で会えるから。


家で待つように言われたけど、僕は隠れて父さんの後を追った。父さんは、門の前で土下座をしていた。


………泣いている。


そんな父さんの姿が、すごくショックだった。


「お願いしますっ! 話だけでも聞いてください!!」


父さんの丸い背中が震えていた。


門が少し開いて、中からサングラスをかけた大男が出てきた。そして、その男はサッカーボールのように思い切り父さんを蹴った。きっとコイツには、父さんが人間には見えていないんだろう。


「いつもいつも門の前で……。邪魔なんだよ、クズがっ!! 死ね!!」


思い切り蹴られた父さんが、地面に血の混じったゲロをした。

僕は我慢が出来ず、うずくまる父さんの前で、泣きながら男を睨んだ。


「へぇー、こんなガキがいたのか……。ハハ、お前に似てバカそうなガキだなぁ。おい、ガキ! そのゴミを早く持って帰れ。これやるからよ」


目の前にヒラヒラと一万円札が舞ってきた。


父さんを馬鹿にされた悔しさと怒り。


悲しみ。


「ころ…す………。お前を殺すっ!!」


………………………。

………………。

…………。


帰り道。

父さんは、男に殴られ気絶した僕をおんぶしながら、何度も何度も僕に謝った。


「ごめんな……。ほんと…ごめん………こんなダメな親父でさ……」


その温かく、大きな背中に僕の涙が染みていく。



父さんは、次の日も屋敷に行った。僕は、怒られるのを覚悟で昨日と同じように隠れてついていく。また、殴られるかもしれない……。正直、死ぬほど恐かった。


屋敷に着くといつもと違い、門が開いていた。黒い車が門の前に停まっていて、屋敷の中から僕と同じくらいの年齢の女の子が出てきた。


色のない目。生きているけど、死んでいるような……。そんな感じ。


「お嬢様、お嬢様。お願いします! お父様に会わせてくださいっ!!」


「……………」


両膝をつく父さん。女の子には、明らかに無視されている。


恐いあの大男じゃないから、殴られないだろう。僕も父さんの隣に立ち、


「お願いします。お願いします……」


自分と同じ年齢の女の子に何度も頭を下げた。



「すごく臭いわ……あなた達……」



それだけ言うと、車に乗って僕達の前から消えた。


ーーーーやっぱり、この屋敷には悪魔しかいない。本気で、そう思った。


それからしばらくして、諦めていた銀行の融資を奇跡的に受けられるようになった為、父さんはこの屋敷に来なくなった。


でも僕は、毎日のように屋敷まで足を運び、遠くから観察した。また、あの女の子が出てきたら、頬っぺたを思い切り引っ叩いてやりたかった。これは、復讐。

どうやら僕は、相当根に持つタイプらしい。


その日は運が良く、この前のように高級外車が門の前に止まり、中から綺麗な服に身を包んだあの女の子が出てきた。相変わらず、無表情で何を考えているか分からない。僕は慌てて、女の子まで走った。


その時ーーーー。


鼓膜が破れるような爆音がした。


一瞬で大破した車は、今も黒煙を吐き続け、燃えている。女の子を守ろうとした黒服が誰かに撃たれ、血を流して倒れていた。


あの女の子は…………怯えながら、泣いていた。


強引に女の子の手を引っ張り、後からきた白い車に押し込む男二人。


素人でも分かる、典型的な誘拐だった。


女の子を誘拐した車が、物凄い勢いで僕の方に向かってくる。


「いい様………天罰だ……」


屋敷にいるのは、悪魔だけだと思っていたのにーーー。


ほんの一瞬、僕のことを見た女の子の目。僕と同じ悲しい色をしていた。



だからっ!!


落ちていたレンガを拾い、僕は道路に飛び出した。

思い切り車の窓ガラスに当ててやった。


砕け散るガラス。宙に舞う体。驚いた運転手がハンドルを切り、壁に激突した。


ほんとバカなことをしたよ。


僕は、それから数日間。生死の境を彷徨うことになる。


冷やし上手な彼女

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