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「若井、昨日あの子とデート行ったんじゃなかったっけ?」
「うん!そう!よく覚えてたね。」
「そりゃ、あれだけ毎日可愛いだの、デート楽しみだの話されたら嫌でも覚えるわ。」
「え?おれ、そんなに話してた?」
若井は、最近好きな子が出来たらしく、昨日のオフ日にデートをしに行くと前から話をしていた。
『無意識だったわー』と照れるように笑う若井の様子を見る限り、昨日のデートはきっと成功だったのだろう。
「どこ行ったの?」
「えっとねー…」
若井の昨日のデートコースを聞く限り、若井が行きたい所と言うより、相手が行きたい所で組んだデートコースに思えた。
…ぼくなら、もっと若井も楽しめるところに行くのに。
そんな考えが浮かび、胸がギュッと痛くなった。
「ーでさ、その時の反応がめちゃくちゃ可愛くてさ!」
「へぇー。 」
自分から話を振ったくせに、若井の口から出てくる言葉は聞きたくない言葉ばかりで、ぼくの心の中はどんどん負の感情で埋まっていく。
「てかさ、そのデートコースって若井っぽくないよね。」
こんな感じの悪い事、本当は言いたくないのに、さっき思ってしまった本音がつい口から出てしまった。
それでも若井は、 ぼくが捻くれた事を言うのに慣れているのか特に気にする様子もなく、言葉を返した。
「まあね、その子が前に行きたいって言ってたとこで組んだコースだし。でも、好きな子と一緒だとどこに行っても楽しいし、好きな子が嬉しそうだとおれも嬉しくなるんだよねー!」
そう言って、照れくさそうにへへっと笑う若井に、さっきギュッと痛くなった胸が更に縮んで苦しくなる。
「…ふーん、じゃあ楽しかったんだ?」
「もちろん!楽しかったよ!」
ぼくの気持ちなんて知る由もなく、無邪気にそう言う若井。
結局ぼくは、聞きたかった言葉を聞ける事はなく、ただ自分を苦しめただけだった。
「あーでも、欲を言うなら夕飯は和食が食べたかったなー。」
「…そうなの?」
「昼はハンバーガーで、夜はイタリアンだったからさー…お米が食べたい!」
心の中に居る悪魔がニヤリと笑う。
ぼくは、その悪魔が『そいつは若井の事、何も分かってないんだね。』とぼくの口に言わせようとしてくるのをグッと飲み込んだ。
「ふーん、じゃあ今日仕事終わったら和食食べに行こうよ。」
「え!まじ?!いいの?元貴はいつもイタリアン一択なのに? 」
「ま、たまには和食も良いかなって。」
「やったー!嬉しい!おれ、行ってみたい店あるんだよねー。」
きっとぼくがその子だったなら、若井は喜ぶ顔が見たいが為に『いや、やっぱりイタリアンにしようよ。』って言うんだろうな、なんて思ったりもしてしまうけど、ぼくはその立ち位置に行くことが出来ない事も分かっている。
いつか、若井がその子と居て『楽しかった』と思わない日が来るのを、ぼくは側に居て待つ事しか出来ないから…
-fin-