最近、梅雨前だと言うのに雨続きだった天気も、今日は久しぶりに朝から雲ひとつない晴天で、そのまま夜も雲に隠れる事無く、お月様が夜の街を照らしていた。
お風呂上がり、少し暑かったぼくは、リビングの窓を開けて外に出た。
火照った身体に夜風が当たり、とても気持ちがいい。
ベランダのフェンスに持たれながら、ぼーっと夜空に輝くお月様を眺めてみる。
少しも掛けていない真ん丸で綺麗なお月様に少し感動しながらも、こんなお月様の日は、どうしても古い愛の告白の台詞が頭を過ぎってしまう。
そんな臭い台詞を言う人が本当に居るのかと思ってしまうけど、言われたら言われたで嬉しいんだろうな…なんて思うぼくは、だいぶロマンチストなんだろう。
まあ、自分が言う事は絶対ないのだけど。
「ここに居たんだ。」
ぼくの後にお風呂に入った若井が、頭をバスタオルで拭きながらリビングからベランダに出てきた。
「わー、気持ちいー。」
若井をチラッと見ると、肌にあたる夜風に、気持ち良さそうに目を細めながらぼくの隣に並び、同じようにフェンスに持たれながら夜空を見上げた。
お互い何も言わずに、ただ夜空を眺める。
無言のこの時間を居心地悪く感じる人も居るだろうけど、長年一緒に居てお互いを分かり合っている安心感からだろうか、ぼくはこの時間がすごく落ち着くし、結構好きだ。
何分くらいそうしていたのだろうか。
若井が夜空からぼくに視線を移したのを感じ、ぼくも若井に視線を合わせた。
「月が綺麗ですね。」
何を言うのかと思ったら、若井はそう言って、ニコッと笑った。
夜風に冷やされた顔が、身体が、一気に熱くなるのを感じる。
臭い台詞を言う人が居るのかと、さっきまで思っていたのに、まさか隣に居たとは。
そういえば、若井は急に臭い台詞を言う奴だったなと思い返してみる。
前に、LIVEでいつも笑顔でいる涼ちゃんの事を〝ステージに咲く一輪の花〟と例えた事もあった。
一見、クールに見える若井は意外とこういう事をさらっと言えてしまうタイプなのだ。
言われたら嬉しいんだろうな、なんて思っていたけど、予想以上に嬉しくて、想像以上に恥ずかしくて、ぼくは何も返せずにまた夜空を見上げた。
今なら若井にあてられてぼくも臭い台詞を言えるだろうか。
若井の様に目を見て言うのは、恥ずかしくて無理だけど、この綺麗な月を見ながらなら言えるかも…
「ずっと前から月は綺麗です。」
…言っちゃった!
若井はこの台詞の意味を知っているだろうか。
やっぱりキャラじゃない事をするもんじゃないな…
心臓が口から出てしまいそうなくらいドキドキしている。
1分は絶対に経ったはず。
たった1分だけど、さっきとは違い、この沈黙の時間はもの凄く気まずい時間で、何も反応しない若井をぼくはそっと横目で伺った。
「え。」
チラッと、視界に入った若井の表情に、思わず2度見してしまう。
「もー、それはズルいって。」
きっと、若井はぼくが言った意味が分かっているのだろう。
ぼくの隣には恥ずかしそうに口元を抑え、真っ赤な顔を月明かりに照らされた若井が居た。
「ふふっ。」
前言撤回。
たまには、キャラじゃない事をするのもいいかもしれない。
-fin-
コメント
6件
尊い…すき…
うん、好き(安定)
素敵すぎる…!2980さんの甘いのも大好きです♡