テラーノベル
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ライブが終わったあと、照明の余韻がまだ体に残っていた。
ステージの光、ファンの歓声、
全力でやり切った高揚感と冷めきらない興奮で体の内側から熱いものが溢れるみたいだった 。
楽屋の奥から、ふっかの声が聞こえる。
電話の相手に向ける、柔らかく落ち着いた声。
「……うん、ちゃんと言うよ。
伝えなきゃわかんないもんな。
……だから、好きだよ、って」
その瞬間、 胸の奥が、音を立てて沈んだ。
一気に熱かった心はひゅぅ、と温度を下げて身体が強張った。
(……誰に、言ってるの?)
思考が追いつかないまま、 佐久間はその場に立ち尽くした。
ふっかの声はいつもと同じなのに、 今はどうしても遠く感じた。
いつもと同じ軽やかで優しくてとろりとした甘さを含んだ声。
俺にだけ向けられていると思いたいくらい、愛おしい声。
(そうだよな……ふっかが誰かを好きになってもおかしくない)
(俺なんかが、勝手に特別だなんて思ってたのが間違いだったんだ)
昨日の夜の優しさも、 「一緒に寝よ」って笑ってくれた声も、 全部、自分だけのものだなんて思っちゃいけなかったんだ。
――でも、痛い。
喉の奥が詰まって、 笑顔を作る余裕なんてなかった。
ふっかが電話を終えて出てくる音がして、 佐久間は慌てて背を向けた。
「おー、さく!探してたよ!早くホテル戻ろう、良かったらマッサージとかも···」
「……あ、ふっか。ちょっと、自販機行ってくるね」
ふっかの言葉を遮るように、けどいつも通りの声で返したつもりだった。
でも、胸の奥では別の声が響いていた。
(やっぱり、俺の“好き”は、届かないんだ。俺じゃだめなんだ···!)
自販機の前で缶コーヒーを握りしめる。
飲めないのに敢えて選んだ温かい缶からじわじわと熱が伝わって血の気が引いていた手が温もって ようやく少し落ち着いた。
(平気。平気だよ。俺は仲間だから。ふっかの側にいていつも支えて、笑って、あいつが望む距離感にいるから···!)
そう言い聞かせながら、 佐久間はまた、笑う準備をした。
仲間としての、友達としての自分である為に。
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