テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「貴仁さま、おかえりなさいませ」
現れた源治さんが、恭しく頭を垂れる。
「ああ、ただいま帰った、源じい」
朗らかな表情を向ける彼に、源治さんもやっぱりかけがえのない家族の一人でと痛感をする。
「お疲れでしょう、ただいま紅茶をお淹れしますので。お子さまたちのご機嫌も良いようなので、彩花さまもご一緒にティータイムをどうぞ」
「ありがとうございます」と返して、彼と並んでテーブルに着いた。
ティーポットから、温かな紅茶がカップに注がれると、かぐわしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「うん、源じいの淹れる紅茶は、いつもうまいな」
彼がカップに口を付ける。
「本当に、とってもおいしくて」
自分も一口を飲んで言うと、
「もったいなく」と、源治さんがにこやかに顔をほころばせた。
「こちらはアールグレイティーでして、爽やかなベルガモット(イタリア産の柑橘類)の香りが、引き立ちます」
カフェのマスターさながらに解説をしてくれる源治さんに、ふふっと笑って、
「アールグレイのフレーバーは、香水にもあるんですよ」と、頭に浮かんだことを話した。
「そうなのか?」と、カップを置いた彼から、問い返される。
「はい、落ち着いていてリラックスできる、とてもいい香りで……」と、そこまで喋って、ふと思いついたことがあった。
貴仁さんをイメージした、”オリエンタル・プリンス”のトワレに、アールグレイティーを加えてみるのもどうかな? 改良版で精製してみるのもいいかも。
そう考えると、にわかにわくわくしてくる気持ちを抑えられなくなった。
だって紅茶の薫るプリンスだなんて、まさに彼の纏うモードに、ぴったりだもの…ね?
「どうした? なんだか楽しそうにも見えるが」
紅茶の付け合わせにと源治さんが出してくれたガトーショコラをフォークで切り分けていた彼が、不思議そうに首を傾げて私を見やった。
「えーっと……、」思いついたことを言おうかどうしようかと迷って、「まだ、ないしょです」と、唇に人差し指を当てた。
上手くアールグレイをトワレにブレンドできたら、やっぱり貴仁さんに最初に付けてもらいたくて──。
「まだないしょなら、いずれは教えてもらえると言うことか。なら、それまで楽しみにしているから」
そう言って柔らかに微笑む彼に、よりふさわしく似つかわしい香水を作りたいと、改めて強く感じた。