テラーノベル
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風が澄んでいる。清らかで真っ直ぐで優しい風が、眼前に広がるそこそこ美しい夕焼けの光と共に身体を押し戻す。
後ろに倒れ込み、硬いコンクリの上で仰向けになる。
もう一度立ち上がってみて、歩みを阻む鉄柵の前に立つ。まあそれでも、乗り越えれば向こう側に行けそうだ。
真下を見る。ここは屋上で、あそこは地上。校庭とも言える。
踏み鳴らされたその砂の海に、小さな人だかりができていた。それらは、だいたいが此処の先生か用務員か生徒で、あとはちらほら私服を着た家族か親族のようだ。
ところで、何故皆大手を振ってこちらに向かって叫び散らかしているのだろう。
なぜか、皆皆が一人のあまりも無く真上を、こちらを向いて何かを呼びかけているのだ。
一体何がしたいのか。と一瞬考えるふりをした。すべての人が自分に何かを思ったり示したりするわけじゃあ無いというこの考え方は、最早クセである。
なんせ、そんな勘違いをしてしまうと、ナルシストだとか被害妄想だとかいう薄い中傷を、実際のところも知らない奴らに騒がれるからだ。
だけど、流石この状況で、被害妄想も何も無いと思いたい。だって、目の前で人が死のうとしてるんだもの。止めるのが普通だ。
また一瞬、ある考えがよぎった。もしここで、今の行動は全て嘘で、皆を騙すための狂言動だったと言ってみれば、どうなるだろう。
今どき自殺なんて珍しくもない。皆僕がほんとに飛び降りる気だと思っているだろう。その思考の穴をちょんと突くのだ。
泣いて安心する母親の顔や、泣きながら拳骨を打ってくる親父の姿を想像してみたが、実際僕の態度によるだろう。
泣いて謝りながらここを降りればそうなるかもしれないが、ヘラヘラと鼻につく態度で嘘と言えばそうはならない。きっと砂利の上で土下座やもっと妥当でひどいことをされるに違いない。
実に勝手で何の因果もないそんな妄想が、より、もっと力強く背中を押す。嗚呼、とも言えない。言葉が出ない。出そうとしても、というか、気力がない。すべて諦めた。だから俺は僕は私は自分は今、とても気楽だ。
初めて人生が楽しい。それでいいさ、それで終わろう。
至って普通の家庭だった。中学までは馴染めてた。僕が変だったのだろうか。あるいは変になってしまったのだろうか。
さぁ、エンディングだ。
風が一気に強くなり、身体が浮遊感に包まれる。最後の最後まで、無駄なことしか考えてなかった。もっと合理的に、事態の改善に重きを置いて行動すれば、こうなることはなかっただろうか。僕の死も、統計と広報と安く薄い日常の悲しみの一片に成り果てる事は分かりきっている。
さぁ、終えよう。いつから始まったのかも分からない。この人生を。
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