食パン咥えてたら転生したわ。
いや、奇跡すぎるだろ。まず状況が理解できないわ。いや本当に。こんな死に方する確率、宝くじで3億当たるのと同じくらいだろ。
とりあえず、状況を整理しよう。俺の名前は田中太郎。平凡な男子高校生だ。そんな俺は今日も元気に通学する予定だった。ただ、今日は少し寝坊をしてしまい、要するな『少女漫画状態』になってしまったわけだ。「遅っ刻遅刻〜」とは言わなかったものの、もちろんの事ながら食パンは咥えていた。
そりゃもうしっかりと『咥えていた』。
世の少女達はあのような状態のものをどのようにして食べているのだろう、全力疾走中に食事をしようとしているこちらが悪いのだろうか。IQ99,999の俺は食パンが食べられない事を食パンを咥えつつ全力疾走してる最中に気づいた。だから俺は為す術も無く、ただ食パンに自分の唾液を染み込ませていた。
まぁその話は置いておいて、ここからが問題だ。もうお察しだろうが、この状態の時は一定の確率でとあるイベントが起きる。そう、衝突事故だ。これが乗用車だったなら、まだこちらの不注意のせいであるから納得できるのだが、なんと衝突した相手は空前絶後のべっぴんさんだったのだ。恋に落ちた音……と思ったら食パンの落ちた音だった。しかし、そこから事件の歯車が動き出していったのだ。
そんな事を知るはずもない俺は、俺と衝突した時の衝撃で尻もちをついた彼女に手を差し伸べてこう言った。
「すみません!急いでいたもので、大丈夫ですか?」
こんな状況でも相手を気遣える、さすが俺。そんな俺の神対応に彼女もきっとハートがドキドキしているだろう。そう浮かれていたら……なんとトラックが彼女めがけて突っ込んできたのだ! その状況下に、俺はまたしても神対応をしようとしていた。彼女を助けるため、彼女の手を掴んでこちら側に引っ張ろうとしたのだ。
そして、見事にからぶった。そのせいで体勢を崩した俺は変なところに足をつけてしまった。先ほど落とした食パンの上である。それからは、滑って転んで頭をコンクリに強打して、打ちどころが悪くてお陀仏ですわ。最後に見た光景はトラックがしっかりと急ブレーキをかけて彼女の目の前で止まっていたところだった。
無駄死にですが何か? だって年頃だったんだもん、仕方ないじゃん。男ってのは、女の子にちょっとカッコいいとこ見せたくなるもんじゃん。……というのは建前で、カッコよく助けたら惚れてくれんじゃないかなという僅かな希望(下心)が起こした行動です、僕正直者なんで。
さて、状況整理はこんなところでいいか。結局死んだって事しかわからなかったな、当たり前だけど。さすがにこれ以上は自分の足で稼ぐしかないか。いつまでもここにいるわけにはいかないしな。
どこまでも続いているような先の見えない真っ白な空間を、俺は歩き始めた。
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