俺は追い詰められていた。物理的に。
トイレの個室、部活の先輩に連れ込まれ「試したいことがある」のだとか。
大変申し訳ございませんが俺は遠慮させていただきます。
謹んでお断りさせていただきます。
何を試すつもりなのかは聞いてないけどどうせろくな事じゃない。
しかしどうしたものか、扉の前には自分よりガタイのいい男が立っている。
力では敵いそうにない。
とはいえ扉は外開き。
一瞬でも隙が出来れば逃げられるかも…
部活に支障をきたすような怪我をおわせる訳にはいかないし、やむを得ない、この人の股間でもけるか。
怪我をされたら困るけどこの人の股間がどうなろうと俺には関係無…
「ひっでぇな!俺のコカンがどーなってもいいって…あれ?あっ!聞こえた!」
「は?聞こえたって何が…」
俺いつの間に声に出してたんだ?作戦を口に出したら意味が無いじゃないか。
しかし何故だが目の前の木兎さんは「聞こえた!聞こえた!」と喜びと驚きで完全に隙がうまれている。
俺は容赦なく股間を蹴りあげ、扉を開けた。
床に崩れ落ちた木兎さんを引きずり出しトイレからの脱出に成功した。
「ひどい!ひどすぎるだろぉ!赤葦!」
「あのままトイレに置いて帰っても良かったんですけどね。」
あの後俺は蹲る木兎さんを体育館まで引きずってきた。
今は体育館の隅で説教中だ。
木兎さんは未だ床に座り込んでいる。
さすがに強く蹴りすぎたかな。
「ところで木兎さん、どうして木兎さんはそんな目にあったのだと思いますか?」
「あかーしに蹴られたから」
「では、何故俺は先輩の股間を蹴らなくてはいけなかったと思いますか?」
「…ヒゴロノウラミ?」
それもあったかもしれない、でもそうじゃないんですよ。木兎さん。
「突然トイレに引きずり込まれたからでしょうが!」
「だって、試したいことがあって…」
「トイレで試したいことって一体なんなんですか。」
「えっとね〜赤葦の声が聞きたくて」
木兎さんは悪びれもせずそう言った。
そんなドヤ顔で言われても なら仕方ないですね とはならないからな。
俺は騙されないですよ。
「あっ説明が足りなかったな。赤葦の心の声!が聞きたかったの。」
「心の声?」
「そう!ちょっと待っててね…」
そう言うといつの間に回復したのか、木兎さんは立ち上がると片付け中の木葉さんの元へ行った。
「なぁ、木葉!」
「なんだよ木兎。何やらかしたかしらないけど赤葦の説教終わったなら早く片付け手伝えよ。」
「お前今日帰り本屋よるだろ?」
「え?あぁそのつもりだけど、なんでわかったの?」
「まーな!なんならお前が買おうとしてる本のタイトルも分かるぞ!」
その後見事に木葉さんが買う予定の本のタイトルを言い当てた木兎さんが戻ってきた。
「あかーし見てた?あれ全部木葉の心の声聞いてわかったんだ〜!」
にわかに信じ難いがどうやら本当に木兎さんは人の心が読めるらしい。
ということはさっきのも俺が実際に言った訳ではなく心の声とやらが聞こえていたのか。
「それは分かりました。で、何を試そうとしてたんですか。」
「俺さ、昔から人の心の声聞けるんだ。でも赤葦のだけは1回も聞こえなくて…だからもっと近づけば聞こえるかなって!」
そういうものなのか?
俺にはそんな能力ないのでわからないが何となく話は見えてきた。
「じゃあ今はもう聞こえるんですか?俺の心の声とやら」
「うーん。さっきは確かに聞こえたんだけどな〜今はまた聞こえなくなっちゃった。」
なんでかな~と唸っている木兎さんは置いておいて俺も片付け手伝いに行こう。
次の日。
俺は追い詰められていた。物理的に。
場所は前日と同じトイレの個室。
試したいことがあると言われたときに断るべきだった。
でも昨日聞いてしまった心の声が聞こえるという興味深い話が気になってついてきてしまった。
「あのさ、赤葦…キスしていい?」
俺は思いっきり脚を振り上げたが「うわ、危なッ…」と呟きながら木兎さんに躱されてしまった。
「木兎さん、説明を。」
「あ!ごめん、また説明すんの忘れてた!俺の心の声を聞くノーリョクはキスすると力が増える?大きくなる?みたいな感じで…だからキスしたら赤葦の声も聞こえるかもって…」
「意味がわかりません。そもそもそこまでして俺の心の声聞きたいんですか?」
「聞きたい!だしなんで聞こえないのかわかんないままじゃ気になる!気になってバレーに集中出来ません!」
気になるって言われても…
その力の発生源こそが最大の謎でしょう?
でもバレーに集中できないのは困るな。
エースが不調じゃチームの士気に関わる…
それに今は部活中。もうすぐ休憩も終わるから早く戻りたい。
「わかりました。…1回だけですからね」
「やった!」
目を輝かせた木兎さんが俺の体を引き寄せた。
俺がギュッと目をつぶると唇に木兎さんの唇が触れた感触がした。
「赤葦、恥ずかしかったの?」
「…..」
どうやら成功したようだ。
「さっさと戻りますよ。」
「うん!…あっ!待って!」
「なんですか?」
「原因わかってない!てか多分今のキスする前から聞こえてた!」
俺は木兎さんをトイレに残し部活に戻った。
あれから数日が経って、俺が木兎さんを避けていたら
木兎さんの方から「もうしないから!避けないで!」と言ってきた。
もうしないという約束で俺たちは今まで通りの距離感に戻ることが出来た。
「赤葦は嫌じゃないの?嫌いにならない?俺が心の声聞こえても」
ふと木兎さんがそう尋ねた。
「別に…嫌いになんてなりませんよ。」
「ホント?」
「はい。不思議な力があってもなくても木兎さんは木兎さんですから。何があっても俺の大事なエース様はあなただけですよ。」
次の瞬間、
俺の目の前に木兎さんの顔があって唇が温かくなった。
「木兎さッ…何するんですか」
「ごめんごめん。赤葦が顔真っ赤にして嬉しいこと言ってくれたからつい…そんなことより!」
約束破りと怒ってやりたかったが今は顔を見られたくないのでそのまま木兎さんの話を聞いた。
「赤葦の心の声が聞こえなかったのは情報量が多すぎたんだ。」
「情報量?」
「うん。層みたいに何重にもなってる。常に色々考えてんだろ。」
「まぁ、言われてみれば?」
「その層の一番奥にあったのが『木兎さん急にどうしたんだろう。』だったんだけど」
確かに思ったかも知れない。
急に不安そうに尋ねてきたから。
「その周りにあったのなんだったと思う?あかーしが意識せずに考えてたこと。」
「俺が考えてたこと…?」
「うん。正解はね…..ぜーんぶ俺の事だったよ。」
「ウソだ…」
「ホントだよ!俺ちゃんと聞こえたから!…ってちょっとどこ行くの!」
木兎さんに背を向けて走り出した。
今顔を見られたら顔どころか耳まで真っ赤なのがバレてしまうから。
俺、木兎さんのこと 好き…かもしれない。
果たしてこの心の声は木兎さんに聞こえていたのだろうか。
end.
コメント
4件
兎赤ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ❤尊い😇
……え、好き…(( 兎赤やっぱりてぇてぇ…( '-' ) 兎赤の日だから沢山兎赤が見れるなんて最高ですね( ◜ω◝ )ニチャア((