コメント
1件
兄バカゆういちろうかわええ
「え?調理実習?」
水曜日の夜に調理実習の準備をしていると、
弟がやってきて調理実習のことを話した。
「あぁ。」
「そんな!!僕聞いてないよ」
そうだろう。俺は無一郎と違い必要最低限
なことしか話さない。
「聞いてないも何も明日は調理実習
だから。」
「何作るの?」
「味噌汁。俺は大根とにんじんを持っ て
かないと行けない。」
「……ふーん」
「なんだよ」
「材料変えて!!」
「は???」
今更何を言っているんだ
こいつは。そんなことが出来るわけない。
「出来るわけないだろ。そもそも、今更
変えたら班のみんなに迷惑かかるだろ」
「……でも」
いつものわがままモードになった無一郎に
俺は呆れ、頭をそっと撫でた。
「仕方ないだろ。決まったことなんだから。
そもそもなんで変えなきゃいけないんだよ」
「…………はぁ、、…。やっぱもういいや」
長い沈黙を終え、無一郎は大きな溜息を
付き、諦めた。
正直、無一郎が何かを諦めるのはよほど
珍しい。双子の勘と言うやつだろうか。
いつもと違う気がする。
俺の部屋をしょんぼりと出ようとした無一郎
の手首を掴むと、無一郎は振り返る
「なに。 」
「…いや、なんか。お前が そんな素っ気なく
諦めるなんて珍しいから、何かあるんじゃ
ないかと思って」
「…………もういいって言ってるでしょ。
離して」
「なぁ…何をそんなに怒ってるんだよ」
「別に。くだらないことだからきっとまた
怒られるよ」
「聞いてないのに勝手に決めつけんな。」
「だって兄さんいつもくだらない事で
悩むなって言うじゃん。今回もどうせ
僕の悩みはくだらない事なんだし放って
おいて」
「…はぁ、いいから話せよ」
無一郎は一瞬泣きそうな顔をしたあと、
口をゆっくり開いた。
「………前世のときに、兄さんいつも味噌汁
作ってくれてたでしょ。その材料が大根と
人参だった。それが嫌なんだ。僕は、
僕だけしか知らない兄さんの味を誰にも
知られたくない…。100年前から知っている
味を、簡単に皆が食べて欲しくない。
兄さんのお味噌汁は、栄養がちゃんと
取れるようにって少し大根が多めだった。
味噌も簡単に毎日食べれるものじゃないし
味噌を薄く薄くして飲んでた。
僕と兄さんの思い出のこのお味噌汁を
他の人に知られるのは嫌なんだ。」
その理由を聞いた俺は、まさかこんなに
深い理由だとは思わなかった。
なんか、もっとこう、もう少し軽いもの
だと思っていた。…が、そうでは
無かった。
これは俺が悪い。
確かに、前世で俺は味噌汁をよく作っては
無一郎に飲ませてやっていた。
無一郎は味噌の味がするか危ういものを
文句なしにごくごくと美味しそうに
飲んでいた。もっと家が幸福だったら
無一郎に沢山もっと美味しいものを
食べさせてやれるのに、と前世の頃は
よく思っていたし、俺はまだその頃、
11歳だったから本当の優しさが
分からなくて今よりもピリピリしていた。
俺は罪悪感で押し付けられ、ポケットに
入っていたスマホを取りだし、班の
LINEグループに材料を変えることを
知らせた。
「何してるの」
「ん、班のやつらに材料変えるって
送った。」
「え、でも変えれないんじゃないの、?」
「この夜でもどこかしらスーパーは
やってるだろ。材料は豆腐とわかめだな。」
「…………兄さん」
「なんだよ」
「ありがとう」
「…べつに。気が変わっただけだ」
「そう言って、僕の言うこと聞いてくれた
じゃん」
「うるさい」
この現代で俺は何があっても弟を 守ると
決めた俺は、今日も無一郎を甘やかしてしまった。
俺は俗に言う、兄バカなのだ。