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「久しぶりですね」
「……?」
顔を上げる。そこには青年がいた。年はアラカより少し上程度に見える青年、灰色の髪を揺らし、全てに疲れ切ったような瞳を携え————右腕と左足が義手がついている。
そしてその中性的な男はアラカの知り合いでもあった。
「……!」
どうにか震えるままに、身体を起き上がらせようとする。
それは今までアラカが見せたことがないほどに強靭な意志であった。
「無理に跪かずとも構いません、傷に障ります」
「……」(ふるふる)
跪く。それだけの行いはアラカにとって他に替えようのない価値を宿していた。
「……そうですか」
それを理解しているがゆえ、傷が開くのを承知の上で実行させる。
力無い身体に鞭を打って、それでもしたいから、とアラカが激痛に蝕まれながらも膝をつく。
「ひさし、ぶり…です。
コードレス、さん」
————何を泣いている。
————そうだ、もっと俺を殺そうとしにこい。その痛み、全て受け止めてやる。
————嗚呼、まだだ。そうだ、もっと殺しにこいッ!!
「すみま、せ、ん……あなたから受けた全てに、報いることが叶いません…でし、た」
自分の私物を全て捨てられ、家から追い出された日にアラカを拾った元敵軍幹部————番外個体だった。
男だった頃、まともな生活が出来たのはこの男の影響が大きいため、アラカにも認識出来たのだ。
「まけて、しまい、ました……」
そしてそれだけではない。
アラカはこのコードレスに、強烈な尊敬を覚えていた。
まるで人生の師を崇めるような、神の教えをこうような心地でコードレスを見た。
人生に欠損を与えたレベルの過去の事件さえ、自分を置いて謝罪をしだすレベルで、だ。
「構いません、今の君を痛めつける趣味はありません。
以前と教えたはずですよ、この場合は如何にするのですか」
泰然自若に、覇王然としたオーラすら纏いながら問いかける姿。
それをみてアラカは一瞬「とおとい…」と呟くも即座に顔を引き締めた。
「敗北を、価値ある敗北に」
「はい。まずは一人でやってみなさい、いつものように」
「はい…っ」
覚悟に染まった、確かな瞳を上げる。
僅か数言で瞳に光を宿させる。それは過去、数ヶ月で誰もなし得なかった行動であった。
「大変でしたね」
「……っ」
そんなコードレスの言葉にうるっ、と目尻に涙が浮かぶ。
だが即座に涙を堪えて、毅然とした態度を装いながら言葉を紡いだ。
「いいえ、些事、です」
「それは頼もしいですね」
そう言われてビクッ、となるもすぐに犬耳をしおらしく萎ませて返答する。
「………こーどれす、さん。その、義足と…義手。は?」
「…………趣味です」
「(初めて聞いた……)」
阿保そうな笑顔を浮かべるコードレス、その馬鹿そうな陽気さに久しく楽しい、という感情がアラカは思い出した。
「……」
そしてコードレスはアラカの状況を見た。
身体の包帯に血が滲み、見るからにいたいけな少女が目尻に涙を浮かべて自分のことを〝嬉しそうに〟見ているのだ。
結論から言おう————コードレスは無言で萌えた。
「…………食事でも行きませんか、何か食べたいものがあればそこへ」
場の空気を察してか、それとも萌えを紛らわすためかは不明だが。
結果としてコードレスはアラカを別の場所に移動させるいう最適解を得ていた。
「ハンバーグ…!」
子供のようにハンバーグ食べたいと言ってから、初めて自分の言ったことを自覚して。
「ぁ……」
顔が真っ赤になる。
「…………いえ、すみません。
はしたない、真似を」
「いいや、構いません」
そこで初めてコードレスは愉快そうに笑った。素直にハンバーグを食べたい!と言ったアラカを可愛らしいと思ったのだろう。
愉快そうに笑い、それを恥ずかしそうに悶えるアラカ。
「正直で結構。では行きましょう」
「ふぁっ」
そういうとコードレスはアラカを抱き上げて……所謂、お姫様抱っこの形でその場から立ちあがった。
「ああ、この汚れ。どうするか」
「あ、そ、その……こちら、で、掃除して、おきます」
「そうですか。ならお願いします」