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つまり、近年は帝国のヤンチャを近隣3カ国で抑えてたけれど、皇国で魔物被害が起こってバランスが崩れたので、帝国が戦争を始めたってことか。
「セイ達には、本当はこちら側で戦ってくれないかと打診するつもりであったが、状況が変わった。
セイの魔法で戦況を報告してほしい。
どうだ?」
「その答えを出す前に、私達はここに急いでやってきました。まずは仲間の意思を確認したく思いますがいいでしょうか?」
「構わん」
いや…アンタがいたらやりづらいんだが?
まぁいいか。
「俺は店やミランとエリーの家族のことを除いたとしても、助けたいと考えている。
特にリゴルドーには思い入れがあるしな。
この戦争に負けたらカイザー様の言う通り、エンガード王国もナターリア王国にも未来はないと思う。
みんなはどうだ?」
「セイくん。ここに来ているんだからみんな気持ちは同じだよ。セイくんの力があれば知り合いは助けることが出来ると思うけど、なんか違うんだよね。
みんな帝国にムカついているんだと思う」
「俺の先輩達の生活を脅かしたんだ。ただでは済まさねぇよ」
ライル、先輩って…まさかあの子達のこと?
「私はセイさんが行くところには必ず一緒に行きます」
「私の名前を轟かせるチャンスです!」
「セイさん達は恩人です。そのセイさん達の恩人は、私の恩人でもあります」
一人おかしい奴がいるけど、いつものことなのでスルーだ。
「どうやら力になってくれる様だな?」
「はい。ですが転移魔法で、ではありません。戦争を終わらせて来ます」
うん。聖奈さんにカッコいいセリフを奪われたけど、俺はリーダーだからどっしり構えていればいいのさ……
「戦争を終わらせる?
いくらセイ達が強くとも、敵は100万を超えるのだぞ?」
「私達には可能です。ですが、一つ条件があります」
うん。どっしり構えてるだけ……
俺は何も知らない、何も聞いてない、やめてやめてやめて・・・
その後、聖奈さんはとんでもない条件を突き付けた。
「情報通りだな」
崖の上からライルが呟く。
「情報だと、帝国は3方向から皇都を目指している。ここは主力部隊50万の進軍経路で間違いないな?」
「数なんかわかるかよ。数え切れねぇってことは確かだ」
帝国軍は50万25万25万に分けて、三箇所から進軍して来ている。
俺達は今、帝国と皇国を結ぶ道で、一番広い戦場になりそうな場所に通じるルートが見下ろせる、 帝国側の崖に二人で来ている。
「セーナ達に報告に行くか?」
「そうだな。予定通りにしよう」
ここで俺が魔法やライフルで攻撃してもいいけど、焼け石に水だからな。
『テレポート』
その場から姿を消した。
「そう。予定通りだね。流石に進軍速度はしれてるね」
今いるのは、エンガード王国軍の天幕内だ。
あの後、皇国と王国の国境に転移した俺達は、まだ王国軍がそこを通っていないと知り、そこから王都方面に移動して、王国軍との合流を果たした。
初めは不審者扱いを受けたが、Aランクの冒険者カードと共にシュバルツさんの手紙を見せたところ、ようやく彼等に会うことが出来た。
「やはり何度見ても、急に現れると驚きを隠せんな」
アンダーソン王子が告げる。
ここは王子の天幕で、俺たちの事は周りの騎士や貴族には国王が遣わせた冒険者であると説明してある。
「予定通りってことは、このまま作戦に移るのか?」
地図を睨みながら聖奈さんが頷いた。
地図と言っても地球のように正確なモノではない。
その為、制作者の異なる地図をたくさん並べて、整合性の取れている箇所以外は信用しないようにしている。
俺とライルが調査していた場所は整合性が取れていなかったので、調査していたのだ。
もちろん聖奈総督の指示である。皆の者従え!
「こっちの進軍速度と向こうの進軍速度を考えると、決戦の場はここになるはず。
私達が当たるのは帝国軍北軍25万ね。
セイくんが調査した帝国軍本隊50万は皇国軍と当たる。
やっぱりどう計算しても開戦には間に合わないね…」
「聖奈。全力を尽くすのはわかるが、一人で背負う必要はない」
「そうだ。セーナが気に病むことではない。
私が不甲斐ないばかりに、其方に負担を強いてしまった。
済まない」
出来る王族は違うな…これが帝王学を生まれた時から学ばされている人達か。
あの呑んだくれのカイザー様も人が変わったようだったし……
出来が悪い仲間だと思ってたのにぃ!!
「大丈夫だよ。ただ、ゲームだと完全勝利を目指すタイプだから、現実とのギャップに戸惑っていたんだよ」
「セイ。セーナは何を言っているのだ?」
王子が小声で聞いてきたが『さあ?』とだけ答えておいた。
「セイくんとライルくんは予定通りお願いね!私達は万が一にも殿下に敵の凶刃が届かない様に帯同するね」
「わかった。王子には悪いが、仲間の命を最優先に行動してくれ」
王子は目の前にいるが、これは初めから伝えていたことだ。
「もう!どれだけ私の事が好きなのよ!」
「セーナさん違うです!セイさんは私の事が好きなのです!」
「セイさんも命を大切に行動してくださいね?」
うん。この三人の中なら、どう考えてもミランを選ぶぞ。
見てみろ。二人は自分のことばかりなのに、ミランは俺の心配をしてくれているんだ。
「セイさんはみんなの事が心配なのよ。必ず生きて、また会いましょう?」
マリンは大人だな。自分の事になると何言っているかわからんことが多いけど……
俺とライルは鞄に受け取るものを受け取って、その場から転移した。
「こいつには初めて乗るな!」
ライルと俺の前にはいつぞや乗ったオフロードバイクがある。
ちなみに車の話をした時に、やはり興味を持ったマリンとライルを乗せたことはある。
「車とは違い安定性に欠けるが、ライルとなら問題ないだろう」
今いる場所は、先程の崖から帝国軍を越えてさらに帝国内に入った場所だ。
ここに来る為には、帝国軍に見つからずに来なくてはならなかった。
その為、崖の眼下に広がる森の中を、魔物を無視して二人で走り抜けてきた。
「よし行くぞ!」
ドルルルルルゥ
まさか異世界に来て男とタンデムすることになるとは…世の中予想できないことばかりだな。
道中、バイクの後ろに乗るライルが話しかけてきた。
「明らかに監視がいたけど、いいのか?」
「軍が通る道なんだから監視ぐらいいるだろうな。
でも、バレたところで俺達の素性も、バイクの事も理解できないだろうし、報告される前に俺たちの方が先に帝都に着くだろうよ」
通信の魔導具とか持ってたら少し面倒臭い事になりそうだけど、そこまで問題でもない。
俺たちはこの世界では信じられない速さで東進して、帝都の近くまで辿り着くのだった。
「ここからは徒歩で進もう」
バイクから降りた後、ライルに告げた。
もちろん徒歩と言っても走るんだけど……
バイクを転移で持ち帰った後、走って帝都に向かった。
帝都を視界に入れた時、ついつい言葉が漏れた。
「めんどくせぇ…」
帝都はこの世界では珍しく、攻めづらさに極振りした街だった。
今まで見てきた街は生活のし易さや、輸送・通行の便利さを取り入れた街造りがしてある所ばかりだった。
「まぁやる事に変わりはねぇよ」
「そうだけど…」
この世界の街づくりは、普通は人が生きていくために重要な水を第一に考えるはずだ。
その次に人が行き交いしやすい場所で、守りはあくまでも城壁などに頼っていた。
しかし、帝都は切り立った崖の上にあった。
見える要塞は城ではなさそうだ。恐らく要塞の更に奥に城があるのだろう。
あんなに高い所に街を造って、水などはどうやって工面しているのだろう?
高台の台地にある帝都だが、台地の下はエトランゼのように何もない。
つまり、俺達が侵入しようとしても、すぐにバレるって訳だ。
「作戦では、侵入してから作戦を遂行する予定だったけど、バレずに侵入は無理だな」
「じゃあ無理矢理突破するしかねーな」
そうだな…気は進まないけど、プランBに変更だ。
バシュッ
『フレアボム』
ドゴーン
遠くに見える城壁が、赤く染まる。
深夜。俺たちは黒い服に身を包み、夜の闇に紛れて城壁から数百メートルの位置まで近寄り、RPG-7と魔法により、高台(50mくらいの高さ)の上の城壁へ向けて攻撃をした。
RPGはあまり狙いをつけれないが、今回は着弾してくれたらどこでもよかった。
『テレポート』
間髪容れず転移魔法を使い、攻撃した壁から見て、帝都の反対の位置に転移した。
「よし、行くぞ!」
「おうっ!」
先程の爆発の騒ぎに乗じて、反対側の壁から侵入するために転移したんだ。
今の格好は黒の目出し帽に黒の上下、黒の靴と、某人気アニメの黒尽くめの人達より黒い。
しかも今日は曇りで、星あかりも月明かりも乏しい為、俺達を視界に捉える事はかなり困難だと思われる。
無事に高台の下に取り付けた俺達は、ロッククライミングを始める。
もちろんプロでもなんでもないが、秘密兵器を用意してきた。
ガッガッガッ
「これならかなりの速さで登れるな」
「急拵えにしては上出来だぜ」
両手には鉤爪付きの籠手が嵌められており、靴には装着型の爪先スパイク(長め)が付いている。
帝都の城壁が高すぎた場合には登らなくてはならない為、この様な装備も準備してきていた。
順調に崖を登り切り、台地の上へと辿り着いた俺達の障害は、10mほどの城壁を残すのみとなった。