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俺はライルに合図を送った。
合図を確認したライルは、俺に向かって全力疾走してきた。
飛び込んできたライルの足の裏を、指を組んだ両手で受け止めて・・・
「うおりゃあ!」
身体強化全開で、上にぶん投げた。
シュタッ
シュルシュル・・
城壁の上に見事着地したライルはロープを降ろしてきた。
俺はそれを使い、城壁を越えた。
「やっぱり反対側の方に向かったんだろうな」
城壁を無事に越えた俺達は、闇夜に乗じてこの都市最大の建造物へと向かう。
「あれだけの音と閃光だからな。状況確認も兼ねて騒ぎになってるだろうよ」
「警戒度は上がったけど、都民も夜なのに気になって外へ出て来ているみたいだから良かったかもな」
木を隠すには森。人を隠すには人混み。
怪我の功名か…なんか微妙に違うけど。
俺達は都民の間を縫うように移動して、貴族街の壁まで来た。
その壁も身体能力任せで突破し、城を視界に収めた。
「じゃあ、侵入するぞ」
城の中へ入ると、作戦を遂行する為の準備を始めた。
中と言っても建物ではなく、外堀と城壁の中という意味だが。
流石黒尽くめ。見張りもいるが見つからない。
もちろん魔力波で鉢合わせしないようにルートもしっかりとっているし、偶々だが魔力波を使う為に併用している魔力視で変な魔力を見つけた。
それはどうやら、防犯の魔導具から出ていた魔力だったようだ。攻撃的な魔力の動きではないので、恐らく警報装置のようなモノなのだろう。
それを魔力視で見つけて、避けるように移動している。
そのお陰で見張りが少ないのかも。
作戦である、最後の一つを仕掛け終わった俺達は、来た時と同じように城から離れた。
「さあ。見せてもらおうか」
ライルはウキウキしているが、俺はハラハラしている。
「ふぅー。じゃあ行くぞ!」
深く息を吐いた俺は、覚悟を決めて、手元の機械を操作した。
カチッ・・・
ドガーーーンッ
無線機を起爆装置に繋いだ爆弾が破裂した。
狙いは城の裏手だ。
この爆弾は、攻撃力に乏しかった聖奈さんがダンジョンで魔物用の罠として使う為に仕入れていたものだ。
結局使う場面も無く、魔法の鞄に死蔵していたが、遂にお披露目された。
まぁこれが無ければ怪我を覚悟の上で、合成魔法を使うしかなかったけど……
しかも威力が高すぎて、無辜の民まで数多く犠牲になってしまう。
有るのなら、適した物を使わせてもらおう。
城で働いている平民には悪いが、運がなかったと諦めてもらうしかないな。
非情かもしれないけど、エンガード民やナターリア民を俺は取る。
ここで手をこまねいている今も、戦場では兵士が死んでいるかもしれないから時間はかけられない。
恨むなら自国の皇帝を恨めよ。と、俺は言い訳しながらも、再び手元の機械を操作した。
カチッ
ドガーーーン
カチッ
ドガーーーン
次々と設置した爆弾を起爆させていく。
爆発の影響でいくつかの尖塔も崩れていっているのが、ここからでも確認出来た。
「どうだ?」
ライルが尋ねてきているのは、逃げ出してくる人がいるのか、だ。
「大勢が入り口に殺到してきているぞ」
少し前ならこんな人が多いところでは『魔力視魔力波』は使えなかったけど、方向を絞れる今ではどこでも使える。
「やっぱりないんじゃないのか?」
「わからん。聖奈の勘みたいなものだからな」
もしくは既に死んでしまったか……
だが、この帝都を見た時に、俺は確信に近いレベルでそれはあると踏んだけどな。
「動いたぞ!それもこれは…台地の中だ!」
どうやら本当にあったようだな。
「すげーな。隠し通路で脱出なんて、なんでわかるんだよ?」
「さあな」
恐らく漫画とかでよく見るからかな?
まぁ実際、地球にある城でも多々見つけられているみたいだから…使うかどうかは別にして、あるのがデフォなのかも。
「行くぞ」
ライルを伴い、気配のある方へと向かう。
どうやら街中に出るものではなく、この台地の下に出るものみたいだ。
俺達も台地の下に降りて更に追っていくと・・・
「どこに出るんだ?」
「まだ地面の下だな…もしかしたら相当遠いのかもな」
確かに脱出が必要な時に、近くに出ても意味は薄いもんな。
さらに進むと森が見えた。
「どうやらあそこらしいぞ」
「強い奴もいるよな?」
「そりゃあ、皇帝や皇族の護衛が弱いわけないだろうな」
反応を追う前に、城からある程度人が出たところで、全ての爆弾を起爆させたから後続の敵は少ないはずだ。
護衛の実力がどの程度かはわからないけど…ここで負けるわけにはいかないからな。
森の中にポッカリと穴が空いたように、木がない部分がある。
そこが出口のようだ。
反応はその真下で止まっている。
草が生えている地面の下にでも扉があるのだろう。
「敵がどの程度かわからんから、奇襲で行くぞ」
「おう」
転移で武器をリゴルドーに取りに行った後、俺達は別々に森へと姿を隠した。
5分程すると地上で物音がしなかったせいか、地下で動きがあった。
登ってくる……
こちらを見ているであろうライルに手で合図を送った。
すると……
ガコンッ
音とともに地面に穴が空いた。
そこから人が顔を出したかと思うと、すぐに上がってきた。
反応は20人程。
10人程出てきたところで、漸く皇帝が現れた。
もちろん俺は見たことはないが、護衛の意識の向け方や周りの人の対応の仕方、何より服装が……
逃げてるのに、あんなに目立っちゃダメだろ……
急な事とはいえ、もう少しマシな服はなかったのか?
皇帝と思われる人物は、金ピカのバスローブのような物を着ていた。
まぁターゲットがわかりやすいからいいか……
俺は転移で取って来た対物ライフルを構えた。
ライルには射線上へ来ないように伝えたけど、少し怖いな。
俺は一番強そうな見た目の騎士(?)に照準を合わせ、引き金を引いた。
パァァンッ
「な、なんだ!?」
銃声を聞いて全員が慌てる。
さらにターゲットだった騎士がゆっくりと倒れて、そこに視線が集まると・・・
パァンッパァンッパァンッパァァンッ
剣を持っている者を優先して狙い、引き金を引き続けた。
流石に全弾撃ち切ると音のした方向がバレたが、もう充分だろう。
残りは半分だが、剣を持っている者すらいない。恐らく皇族や高位文官などのお荷物だろう。
ライルには皇帝が逃げた時だけを頼んであるので、俺が出ることに。
対物ライフルはその場に置いておき、代わりに愛剣を握りしめると、俺は隠れていた木陰から姿を現し前へと進み出る。
ザッ。
わざと足音をたてて注目を集めた。
「だ、誰だ!?」
「名乗るほどのモノじゃない」
よし!一度は言いたいランキングだ!二回目だけど……
「ぶ、無礼者が!こちらの方を何方と心得る!」
知ってはいたが、水戸◯門で聞いたセリフで確信が持てた。
馬鹿を臣下に持つと大変だね?
「無礼?無礼ついでに悪いが、次に勝手に口を開いたら殺す。
いいな?」
俺に問答をするつもりはないからな。
大剣を鞘から抜けば、先程まで威勢の良かったおっさんは首を縦に振りまくっていた。
返事は一度でいいよ。
「お前が皇帝だな?」
「貴様!皇国の回し者だな!?」
ガッ
「ぐあっ!?」
俺は高速で近づき、鞘の方で皇帝の腕を殴った。
もちろん手加減はしたけど…腕が変な方向に曲がってる…痛そ……
「ひぃぃい」
「次に聞かれたこと以外を喋ったら、反対の腕も同じことになる。
他の者達もだ」
皇帝以外はみんな激しく頷いた。
「よし。まずはお前達に聞く。皇族は一歩前に出ろ」
痛みで暴れている皇帝以外の皇族が前へと出る。
10人中4人いた。皇帝を除くと皇族は3人だ。
「他の者達はこの3人をコイツで縛れ」
「は、はいっ!」
俺がロープをいくつか地面に投げると、最初に食って掛かってきたおっさんが率先して動いてくれた。
皇帝の威光が効かないとみるや、高速の手の平返しだ。
俺じゃなきゃ見逃してるぜ……
皇族も1番の権力者がやられた為か、大人しく縛られていく。
縛り終えたので、声を掛ける。
「良くやった。抵抗しないのであれば、命は助けてやる」
ここではね。後の事は知らないよ?
「も、もちろんにございます!」
「ライル!」
良い返事を聞けたのでライルを呼んだ。
「やっぱりそいつはずるいな」
やってきたライルは開口一番、銃にダメ出し(?)をしてきた。
仕方ないだろ!もし剣豪とか本物の剣聖とかが相手だったらどうすんだよ!
命大事に。
「皇帝を縛っておいてくれ。それと、そいつらの見張りも」
「あいよ」
ライルにロープを渡してから、聞き分けのいいおっさんに話を聞く。
「コイツら以外に生き残りの皇族は?」
「わ、わかりません…ほ、ホントです!神に誓います!」
嘘かどうかわからんな。
「じゃあ、皇族の人数は?」
「えっ…ま、待ってください!今!今数えます!」
両手を使って一生懸命数えていることから、嘘ではなさそうだな。
それよりも、高位の人間が自国の皇族の数を把握していないなんて……
「15人です!!間違いありません!」
「お前は?」
俺はもう一人に確認したところ、すぐに合っていると返事がきた。
聞く奴間違えたな……
「みんなあの城にいたのか?」
「は、はい!お世継ぎが十分におられたので、他の皇族は皆粛清されました!
ですので、今は城にいる皇帝陛下の御子息のみになります!」
妃は?まぁ皇帝が死ねばただの人か。
元々皇族ではないのだし。
粛清とかのきな臭い話も出たけど、今は関係ないな。
聖奈さん曰く、皇族を残すといつまで経っても平和は訪れないから、一人も逃さないでとのことだったし、城に戻るか……
生きてるとは思えないけど……
ライルにここの見張りを任せて、俺はおっさんと共に城へと転移した。
「こ、ここは!?」
「転移魔法だ。さっきも言ったが下手な真似をしたら首を刎ねる。
こんな魔法は知らないだろ?
他にも沢山あるから変な真似はすぐにバレると思え」
「っ!?も、もちろんにございます!」
うん。やっぱり人選は間違えていなかったな。
こういう時は、賢い奴よりも素直な奴に限る。
「それで?皇族の住居はどの辺りだ?」
今は瓦礫と化した城を指差し、震える男に問いかけた。