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#シングルファザー
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彰に腰を掴まれたままエレベーターに乗り、統括室へ。
部屋に入ってもなかなか離してもらえず、沙紀は困惑した。
「アキ、ジョージ様のミーティングが始まりますよ?」
早く沙紀さんを離してくださいと言われた彰は、渋々沙紀を解放した。
ミーティングは英語ではなく、何を言っているのか全く聞きとれなかった。
わかるのは彰様がスゴイということだけ。
住む世界が違いすぎる。
沙紀は溜息をつきながら、パソコンを開こうとした。
「……あれ?」
「どうしました?」
「あの、ログインできませんって表示されて……」
パソコンにログインすらさせてもらえないのはなぜ?
朝パスワードを変えて、それから触っていないのに?
「あぁ、彼が5回間違えたのですね」
その様子だと開けなかったみたいですねと冬木は笑った。
……本当に大輝が私のアカウントでログインしていたんだ。
パスワードを変えたから入れなくなって5回も試したってこと?
「証拠も十分揃いましたし、あとは現行犯逮捕するだけですね」
ニッコリ微笑む冬木の言葉が怖いんですけど?
現行犯逮捕って、まるで警察みたいだ。
ピコンと鳴る冬木のスマホに気づいた彰はパリの取引先ジョージとのミーティングを終わらせる。
冬木が運転する車に乗り、なぜか東京ビックサイトへ。
車を駐車場へ置きに行く冬木を見送った沙紀は、彰に連れられ施設へと歩いた。
「彰様、ここで打ち合わせですか?」
「いや、打ち合わせをしている奴らの話をぶっ潰しに行く」
なんでそんな物騒な話に?
どうみてもイベント開催中のここで?
会場の中は所狭しと企業ブースが並び、商談会が実施されている。
彰はまるで目的があるかのように、会場内を迷わず進んだ。
「あ~っ、沙紀ちゃ~ん。はじめまして~」
人懐っこそうな犬のような笑顔を向ける茶髪の男性に手をブンブンと振られた沙紀は、一瞬自分ではないと思い、思わず彰を見上げた。
「……あいつはハルだ。もう一人の統括室メンバー」
イヤそうに教えてくれる彰に驚きながら、沙紀はハルに小さく会釈する。
「そんな畏まらなくていいって~。ね、アキ~!」
「沙紀に馴れ馴れしくするな」
「いやん、そんな冷たいこと言うと働かないよぉ~」
ハルはニヤッと笑うと、今までの軽い雰囲気とは全く別人のような顔つきに変わった。
「綾小路商事のブースに入ってから4分経過してます。はじめの2分は綾小路の商品を見ながら会話を、そのあと奥の商談スペースに移動し、先ほどパソコンを広げました」
あそこですとハルが指を差した先にいる人物に沙紀は驚いた。
あの後ろ姿は見慣れた大輝の姿に間違いない。
相手はスーツを着ているけれど、あの美人さんだ。
「どうしてここに大輝が……?」
「誰にも疑われることなく、接触できるからだろ」
こんな場所で堂々と情報を売っていたとはと彰は眉間にシワを寄せた。
「あ、麗香お嬢様がスマホで写真撮ってるね」
ハルはスマホで大輝のパソコン画面を撮影していそうな麗香の姿をカシャッと撮る。
証拠、証拠~! と嬉しそうなハルを沙紀は思わず眺めてしまった。
「乗り込むぞ」
「はいはーい」
先ほどの一瞬の真面目な感じが嘘のようにまた軽いノリに戻ってしまったハルは、目が合った沙紀にニコッと笑った。
彰は会場を進み、綾小路商事のブースに。
近づいてきたアテンダントを無視し、彰は奥の商談ブースに勝手に入った。
「は? え? 西園寺CEO! なんでここに沙紀も?」
大輝は慌ててノートパソコンと閉じ、麗香はスマホをサッとポケットに。
「業務時間中のはずだが、加賀大輝、おまえはココで何を?」
サボりか? と聞かれた大輝は違いますと手を横に振った。
「今日は、ここに市場調査に。今、こちらの方に商品を説明してもらっていて」
「……ではなぜ、うちの会社のパソコンを開いていた?」
「あ、これはその、アドバイスをもらおうかと、類似商品を開発されているので、苦労されているところが一緒かもしれないと思って、それで」
だいぶ苦しい言い訳に聞こえるのは私だけだろうか?
ここは誰でも来ることができる参加無料の商談イベント。
ブースの商品を見て詳しい話を聞く場所だ。
そこにこっちの商品を持って行って、アドバイスをくれなんて明らかにおかしい。
「彰は私に会いに?」
立ち上がり彰に抱きつこうとする麗香を鼻で笑うと、彰は沙紀をグイッと引き寄せた。
「……その女、」
ジロッと睨む麗香の視線と、驚いた大輝の視線が怖すぎる。
沙紀の指輪に気づいた麗香はギリッと奥歯を鳴らした。
「あ、あの。俺、他のブースで約束があるので……」
「営業部長は今日の午後、あなたがここに行くという話を聞いていないと言っていますが?」
時計を見ながら後ずさりする大輝の後ろに現れたのは車を駐車場に置き終わった冬木。
営業部長と電話をしながら「報連相は大切ですよ」と優しく微笑む。
「ここで何をしていたか話してもらおうか」
前方には猛獣、後方には隙のない男。
逃げ道がなくなった大輝は、青白い顔でその場に立ち尽くした。