テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
「私は関係ないからもう行っていいかしら」
冬木の横を通り過ぎようとする麗香のポケットから、ハルはスッとスマホを抜く。
「なにするのよ!」
急いで奪おうとする麗香を無視し、ハルは隣のおじさんにどうぞとスマホを手渡した。
「不正競争防止法違反、ならびに不正アクセス禁止法違反に該当します。秘密保持義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)と、秘密保持義務違反によって会社の利益減少(財産権の侵害)や外部的信用失墜(名誉権の侵害)も生じますので、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)も可能ですが、いかがいたしましょうか。西園寺CEO」
先ほどまでの軽いノリではないハルの難しい言葉に沙紀は戸惑う。
民法?
守秘義務?
ハルさんって、もしかして企業内弁護士?
「冬木、営業部の加賀大輝は本日付けで懲戒解雇。ハル、裁判の手続きを開始」
「懲戒解雇の書類はこちらです。あとはCEOのサインのみになっております」
冬木さん優秀すぎるでしょ。
「告訴状はこちらに」
準備万端であとは出すだけと笑うハルさんも怖い。
「では、続きは警察署で。このスマホは証拠品として押収します。そちらのパソコンも」
警察手帳を見せたあと、麗香のスマホをファスナー付きのプラスチックバッグへ入れるおじさんに麗香も大輝も、そして沙紀も目を見開く。
「……警察?」
麗香が現状を確認するよりも早く、周りにいた私服警官が麗香と大輝の腕を掴み、パソコンもいつの間にか準備された段ボールへと入れられた。
「……は? なんで懲戒解雇?」
「沙紀のアカウントを不正利用し、会社の機密情報をライバル社に提供したからだ」
当然だろうと言う彰に大輝は目を見開いた。
「アカウントを利用なんてしていない! 俺は何もしていない!」
こんな状況でも往生際が悪い大輝に沙紀は呆れる。
「私は何も関係ないわ。アカウントなんてそっちの問題でしょう? 言いがかりはやめてほしいわ」
早く離しなさいと抵抗する麗香の大きな声で、辺りに集まっていた野次馬はさらに多くなった。
人気のブースと勘違いし、さらに人が集まってくる。
異様な雰囲気に圧倒された沙紀の身体が小さく震えた。
「アカウントの不正利用の証拠はここに」
彰はポケットからUSBメモリを取り出し、警察へ。
「ついでに彼女に対するストーカー行為の写真も入れてあります」
「……は? ストーカー?」
「会社のロビーで無理やり腕を掴んだり、マンションの前で帰宅するまで待ち伏せしたりされていましたね」
にっこり微笑んでいる冬木さんの笑顔が怖い。
「誤解だ! 俺はただ沙紀とやり直したかっただけで」
「沙紀は俺の女だ」
腰をガッチリと抱きながら彰が大輝を睨むと、大輝はウッと怯み目を逸らした。
「婚約者は私でしょう?」
「キッパリ断ったはずだ」
「どうして? 私の方が美人で金持ちだわ。スタイルだってそんな女より」
あー、すみません。そのとおりです。
あなたの方が美人でスタイルも良くて、着ている物も綺麗な服で、いい匂いで、お金持ちです。
野次馬のみなさんだって、見てすぐわかるだろう。
なんだか私の方が公開処刑されているような気分だ。
「俺が欲しいのは『ごほうび時間』だ」
「はぁ? 意味がわからない」
「おまえには一生わからないだろうな」
悔しそうな顔をする麗香を横目に、彰は沙紀の頬をそっと撫でた。
「……彰様?」
「入社試験の面接の質問を覚えているか?」
「え? 入社試験?」
入社試験は5年前。
記憶は曖昧だけれど……。
『あなたはこの会社でどんなことがしたいですか?』
『私はみんなに「ごほうび時間」を提供できるような商品を開発したいです』
『誰向けですか?』
『みんなにです。老若男女問わず、誰からも必要とされる商品にしたいです。頑張っていない人なんていないはずですから、みんなに「ごほうび」は必要です』
……今思えば、あの時の面接官の中に彰様がいたような気がする。
緊張して、しかも入社前で面接官が誰なんて気にしていなかったけれど。
「子供の頃からずっと『できて当たり前』と言われて、何か成果を残しても『当然』だと言われてきた俺でも『ごほうび』をもらっていいのだと、頑張っていない人なんていないと言われたことで心が救われた気がした」
できて当たり前……?
もしかして御曹司だから?
お金もいっぱいあって好きなことができて、良い所に住んで良い物を食べて、頭も当然良くて語学も堪能で、何度も海外旅行に行って、望めばすべてが叶うのが庶民から見た御曹司のイメージだ。
でも実際には寝る間も惜しんで会社のために働いていて……。
「沙紀、俺にごほうびをくれ」
「ごほうび……ですか? 私があげられるものなんて……」
何でも持っている彰様に何を?
「沙紀がほしい。俺に沙紀をくれ」
「えっ? 私?」
どういうこと?
セレブの冗談?
これはどう解釈すればいいの?
「えっと、そのままの意味です」
困惑している沙紀に冬木が彰の言葉を通訳してくれるが、そのままの意味って?
「アキ~、日本語わかりにくいよ。いくら海外が長かったからってさ~。もっとストレートに」
ハルの助言に彰は悩む。
「……結婚してくれ」
「ぶっ飛びすぎ~!」
言われた本人よりも先に反応するハルのおかげで、ありえない言葉がスッと胸に落ちた気がした。
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