テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
・:.。.・:.。.
「おっどろき~!このフェラーリあなたの車なの?さすがスターね!マジウケる!」
真由美はサラ・ベーカリーの前に停車している真っ赤な『フェラーリ488スパイダーコンバーチブル』をマジマジと見つめて目を丸くしていた
車の車種なんかにこだわりがない力がマネージャーのジフンに日本での移動手段を用意してくれと言ったら、空港にこの車が待っていた
車体が低くく、流線型のシルエットを強調した真っ赤なオープンカーのフェラーリは、ただ静かにそこに佇み、力の成功と過去の選択を象徴するかのように輝いていた
キャー、キャー言って真由美がスマートフォン片手に騒がしく動画撮影をしている
それもそのはず、今やルビー色に輝いているフェラーリが完全にルーフをオープンにしているので、皮とウッドで出来た内装のゴージャスさが丸見えになり、圧倒的な存在感を放っていた
真由美の声は弾むように明るく、どこか面白がっている風にも思えた
力はサラ・ベーカリーの店先の階段の二段目に腰を降ろし、膝を抱えたままうなだれていた
力の背後には沙羅が経営するベーカリーのガラス扉、そこには門前払いをされた沙羅の店のドアに「close」と手書き風のフォントで書かれた看板が虚しくかかっているだけだった
一通り撮影して満足した真由美の視線は、後ろで店の階段に座り、うなだている力に移った
乱れた髪、汗ばんだ額、そして今にも泣きだしそうな表情へと移っていく、力が階段に座る姿はまるで少年のようだった、動画やステージで見る自信に満ちたロックスターの面影はそこにはなく
ただ、みぞおちに沙羅のアッパーカットを食らって撃沈した男が、情けなく縮こまっているだけだ
ゲホッ・・・
「ごめん・・・吐いちゃった・・」
力は、咳き込みながら口元を袖で拭う、顔は真っ青で、額には冷や汗が滲んでいる
階段の端にわずかに吐瀉物が飛び散った跡が残り、力はそれを気まずそうにチラリと見やった
「キャー!うっそでしょ!店先でなんてやめてよ!力!」
真由美が甲高い声を上げ、思わず体を引く、だが彼女の顔には茶化すような笑みが浮かんでいる。彼女はどこかこのスーパースターの帰郷と狼狽ぶりを楽しんでいるようだった
ゴホ・・・
「そ・・・掃除するよ・・・」
力がヨロヨロと立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出そうとするが、手が震えてうまく掴めない
くしゃくしゃのハンカチを引っ張り出すと同時にガムがポロリと階段に落ち、コロコロと転がって木の隙間に挟まる、力はさらに気まずそうにそれを拾おうとしゃがみ込みコケそうになる
「あ~!いいって、いいって、後で私がやっておくわ!沙羅のパンチ効くでしょ!ダイエットのため暫くボクシング・エクササイズやってたから、あの子!」
真由美が手を振って制止する、彼女の声には呆れながらも優しさが混在していた
真由美の瞳がキラキラと輝く、彼女は明らかにこの状況を面白がっている、力をからかいつつも、どこか沙羅の強さを誇らしげに語る口調には、親友への深い信頼が滲んでいた
ゴホッ・・・
「すまない・・・」
力は弱々しく呟いて階段に再び腰を下ろす、彼の視線は電気が消えたガラス扉の向こうの店内を、チラチラ見ていた、力は考えが足りなかったと反省していた
沙羅に会いたい一心でこの街に戻ってきた
何も考えず、ただ彼女の顔を見たくて、彼女の声を聞きたくて、衝動的にここまでやってきた、しかし、沙羅はあの八年間を力の知らない時間として生きてきた、このベーカリーを築き、街の人々に愛され、笑顔を届けてきた
今更、彼女の人生に土足で踏み込む資格など、自分にはないのだ、そう思うと改めて自分のした事を心から後悔した
階段に座りながら、自分の存在が彼女の人生に再び波紋を投じることに深い迷いを覚えていた
それでもどうしても確かめなければならない事があった
どんなに怒られても、憎まれても
真由美は、力の沈んだ表情を横からじっと見つめていた、彼女はそっと力の隣に座り、階段の木の表面を指でなぞりながら口を開いた
「・・・本当に突然帰ってきて、沙羅に殴られてもしかたがないわね!でもあなた、確か来月からツアーじゃないの?」
真由美の声にはどこか探るような響きがあった、驚いた力が真由美を見ると彼女は軽い笑みを浮かべていた
「良く知ってるね・・・真由美ちゃん・・・」
膝を抱えたまま力は真由美に言った
「あら!あたし、ブラックロックのファンクラブに入ってるもの、沙羅には内緒だけどね!誤解しないで、あたしのお目当ては拓哉よ!あなたじゃなくてね!」
真由美がウインクしながらいたずらっぽく笑う、真由美は、力をからかいながらも、どこか彼を応援したい気持ちを隠しきれていない、今は彼女の明るさが、力の重い心を少しだけ軽くするようだった
「それとあなたの歌のファンでもあるの、あなたの歌!凄く好きよ!良い歌を作るわ、ねぇ・・・ずっと思ってたんだけど三枚目のアルバムの『flour』って曲・・・あれ、沙羅のことを歌ってるんじゃない?」
真由美の声が急に柔らかくなる、彼女は力をじっと見つめ、まるで心の奥を見透かすような視線を投げかけた
グスッ・・・「当然だよ・・・僕が作るラブソングは全部沙羅のものだよ・・・今までも、これからも・・・ずっと・・・」
力は膝を抱えたまま鼻を啜って答えた、目元に滲んだ涙を隠すように額を膝に押し付ける、階段の木の感触が冷たい、真由美はそんな力の姿を見て、胸の奥に熱いものがこみ上げるのを感じた
「やっだぁ~!今のはグサッと心に刺さったわ!力ったらぁ~!」
真由美は照れ隠しに、力の背中をバシバシと叩く、力が「いてっ!いてっ!」と小さく叫び、思わず体を揺らす
その様子に、真由美は声を上げて笑った、彼女の笑い声が、階段の周りに響き、店の前の静かな空気を揺らした
「あなたの歌を聞いてて、いつかこういう日が来るんじゃないかな〜ってずっと思ってたけどぉ〜・しょうがないわね~!ほらっ!立って!」
「え?」
真由美は立ち上がり、力を引っ張るようにして手を差し出す、本当にこの二人は学生時代から世話がやける
真由美は笑いながら力の手を引っ張って、彼を立ち上がらせて言った
「沙羅の所に連れて行ってあげる!家の入り口はこっちよ!」
・:.。.・:.。.
沙羅は二階のキッチンで思わず両手で口を覆った・・・
しかし漏れる嗚咽を抑えられない、沙羅はグスンッと鼻を啜った、眩暈がし、花の水を変えようと握りしめていた花瓶がガシャンと床に落ちた
靴下とジーンズが水浸しになる、割れたガラスと散らばった花を片付けようと破片を持つと、人差し指の先を切ってしまった、指先に赤い球のような血液が丸く溜まる
「ああっ!もう!!」
まだ全身震えている、涙がとめどなく溢れる、一目力を見てから肌に彼を感じる・・・
蘇るあの感覚・・・
八年も経っているのに、彼が去ってから一度も消えなかった感覚
何度も夢に見た光景
力が私を見つめている・・・この店で!
帰って来た!!
信じられない!
この町に暫くいるつもりなのだろうか?
どうしよう!
力が再び私の人生に現れた、強くならなきゃ、私が主導権を握るんだ
力の肩はあんなに逞しかった?でも彼らが出演している韓国の動画番組で力が筋トレをしているのを見たことがあった
でも相変わらず、あの絹糸の様なサラサラの髪は同じだ!カラスの羽のような黒髪は店の蛍光灯に天使の輪を作っていた
そして髪と同じ色の瞳が不敵に輝き・・・
あの頃と同じ・・・
彼が優しく微笑んでくれると、私は唇も・・・心も・・・魂さえも差し出した
私が怒って無言で彼に近づいた時・・・力はゴクリと喉を鳴らした、沙羅はその脈打つ喉仏を思い出した
あの場所に唇で触れ、軽く舐め上げて、甘いキスを浴びせかけた記憶が脳裏に鮮やかに蘇る
軽く歯を立てると、力は低い声をあげ、小さく息をはずませて・・・
やめなさい!!
八年かけて必死に忘れたのに!!
沙羅はブンブンと首を振った
思い出しただけで反応する体を呪いたくなる
これまでずっと心に固く鍵をかけてきたのは、そうしないと前に進めなかったから
ぼろぼろの心を縫い合わせ、二度と引き裂かれない様に注意している事を、誰にも悟られたくなかった
立ち直ったフリも、平気なフリも得意になった
努力のかいはあって、やがて傷は癒され、心の平安はとり戻せたと思っていたのに
今は力をひと目見た途端、形ばかりの平安は吹き飛んでしまっていた
力の存在にどれほど動揺しているか認めるのが怖かった
学生時代が昨日の事のように思い出させる、沙羅にとって力はかけがえのない人だった、二人は一心同体のように、黙っていてもぴったり気が合った
相手の考えは手が触れるか、温かな目を見るか、唇を重ねればわかった・・・
彼の力強い体によって一緒に官能の高みへと舞い上がる感覚は、動画やアニメなんかの刺激よりも遥かにエロティックで特別なめくるめく体験だった
あれほど幸せな日々はなく、沙羅は心も体も魂も生きている実感に満ちていた、このまま二人は生涯を共にするのだと、当時は信じて疑わなかった
なのにあの忌まわしい結婚式の後・・・
力は書き置き一つ残さず消えた、何度も留守番電話の冷たい機械音が繰り返されるメッセージに怒りと恨みの言葉をぶつけた・・・
そして三か月後に妊娠が発覚し、沙羅はパニックに陥った
あれから八年・・・
力が突然消えたこと以外、私は何も知らない・・・
あの頃は何か月も「なぜ?」と自問し続け、悩んだ、電話でもいい、メールでもいい、どんな方法でもいいから連絡がほしかった、彼が姿を消した理由を聞かせて欲しかった
そしてその1年後、ものすごくお金がかかっているであろう映画の様な彼のミュージックビデオを動画サイトのトップページで見つけた時のショックは計り知れなかった
力は私の事や故郷をすべて捨てて、スターへの道を歩み始めていた・・・
その頃には沙羅は少しずつ人生を立て直し始めていた、心は凍り付き、二度と男性を愛さないと誓いながら・・・
沙羅はガチャガチャと掃除機を出してブツブツ言いながら割れた花瓶を必死で片付けた
・:.。.・:.。.
「・・・話ぐらいは聞いてあげたら?」
真由美がリビングの入り口のドアにもたれて両手を前に腕を組んでいる、その後ろになんと力が立っている
―真由美のうらぎりもの!力を家に入れたのね!―
「何しに来たの?」
声がかすれる・・・
叫び続けた後のような弱々しい声で沙羅は恥ずかしさを感じた、この8年間、鏡の前で何千回も練習した力との再会・・・毎回私のセリフは変わる・・
でも今は想像していたような威厳のある声ではなかった
「沙羅・・・本当にごめん・・・でも僕・・・話がしたくて」
「それ以上一歩も近づかないで!!」
沙羅は手を上げ、これ以上近づくなとキッパリ拒絶の姿勢を示す
彼は肩を落とし、シュンとしてポケットに手を突っ込んで床を見つめた、彼の顔に深い痛みが広がり、彼を傷つけたことに沙羅は一瞬の満足を感じた
本当に本当に、力だ・・・
力が目の前にいる!
私の家のリビングに・・・
その時、フワッと彼のコロンの香りが沙羅を包んだ!この香りは覚えがある!あり過ぎるぐらいだ!心臓が数倍速く打った、沙羅はこの8年間、力がバーバリーのコロンを変えたのかずっと思っていた
20歳の誕生日に沙羅が良い匂いだからと言って貯金を崩して、力にプレゼントしたバーバリーのコロン・・・
そして力も沙羅同様このコロンが大のお気に入りになった、それから二人は特別な日にはいつもそのコロンの香りを身にまとっていた
今その香りが彼からそよ風に乗ってかすかに香って来た
―変わってないの?―
8年経っても・・・沙羅は力に触れたい衝動と戦い、ぎゅっと拳を握りしめた、そして顔を見つめていると思い出す
愛してる、沙羅
・:.。.・:.。.
耳元で囁く彼の声・・・
流れるような動き、欲望、彼の初めての女性は正真正銘自分だ
首筋に顔を埋める彼の肌、彼の匂い、どれほど魅力的でセクシーで、沙羅の体は彼の愛撫で歌い、力だけがそのメロディを知っている・・・
怒涛の様に二人愛し合った日々が沙羅の脳裏に駆け巡る
自分は何度も彼に体を開き、力を体の奥深く導いた
そして彼の口からこぼれる言葉
「ああ・・・これがなかったら生きていけない・・・」
なのに彼は自分を裏切った、力を見たくないのに目が離せない、彼はどこか変わった?でも、沙羅を見る目は昔と同じような気がする、
でもでも・・・それは気のせいかもしれない、彼はまた去って行くに違いない、あの頃すべてだと思っていたものはもう二人の間には無い!
もう二度と騙されない!
沙羅は声を低くして冷たい視線を力に投げて言った
「8年間・・・電話も手紙もなく消えるなんて、私も舐められたものね」
沙羅はほつれた髪を耳にかけた、こんなことは何でもないと言う風に
100年でも彼に会わずに平気だという風に、涙を抑える、この男のために流した涙は一生分で十分!
もう流さない!
「ロック・スターやってるんでしょ?有名な笹山力さん!有名人の気まぐれ凱旋かしら?それとも何かの番組撮影?よくあるじゃない?それなら町のライブハウスにでも行った方が撮れ高は上がるでしょうね、あいにくだけどここには何も珍しいものは無いわ、あなたのファンが興味を持つものはね、だって私はあなたのただの同級生だもの」
沙羅は腕を広げでおどけて見せた、手に力が入らない、足はゼリーみたいにプルプルしている
「安心して、あなたの事なんてすっかり忘れていたから!ここにあなたの居場所はないわ!帰って!」
真由美が冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して言う
「ちょっと、沙羅・・・気持ちは分かるけど、もう少し穏やかにできないの?」
「沙羅!本当に!本当に・・・でも!ごめん・・・僕・・・」
力が1歩前に出たのを沙羅が手を出して静止させた
「言い訳をする必要もないし、私に何も負い目を感じる必要は無いわ、あなたはただ、故郷と私を捨てただけ!もう8年前の出来事よ!私とあなたは何の関係も無いわ!」
力を見ないよう沙羅が背を向けた
しっかりしなさい!沙羅!
強く、冷静でいなきゃダメ!
私には守るものがある!早く!
早く彼を追い出さなきゃ!!
「出て行って!私の家から出て行ってよ!顔も見たくないっっ!」
バター――ン
「ただいまぁ~~~~」
「ただいまぁ~~~~」
その時1階の玄関のドアが勢いよく開き、小さな足音が階段を駆け上がる音がした
ハッと沙羅が一時停止したようにその場に立ち尽くした
「ヤバ・・・もうこんな時間?」
ボソッと真由美が口を押えて呟いた
その時、勢いよくリビングのドアが開いた、沙羅、真由美、力はハッとドアの方に視線をやった
小学生低学年の小さな男の子と女の子が弾ける様にリビングに飛び込んで来た
「ママ!喉乾いたぁ~~~!」
真由美の息子、「浩紀」が真由美のお腹に抱き着いた
「え?ああ・・ハイハイ・・・おかえり・・・オレンジジュース飲む?」
真由美があわててオレンジジュースの入ったグラスを我が子に与える
「ママ、ママ!見てみて!ハンコ貰ったよ!クロール出来るようになった!クラスの中で一番だよ」
小さな可愛らしい女の子が沙羅に首から下げているスイミングカードを見せる
ふぅ~~!
「遅くなってごめんなさ~い!うちの子達とマクドナルド寄ってたの、この子達もうお腹いっぱいだから、晩御飯は食べさせなくていいわよ!沙羅」
沙羅の学生時代のもう一人の親友、陽子が二人のプールバッグを肩にかけてリビングに入って来た
「あ・・・お迎えありがとう陽子・・・ごめんね、いつもいつも」
真由美が慌てて陽子の目の前に立ちふさがる
アッハッハッハ
「いいわよぉ~!どうせうちの子をお迎えに行くついでだもの、あなた達はお店があるでしょ、ねぇ店の前のエグいフェラーリ、誰のか知ってる?迷惑駐車かしら?あんなの映画でしか見た事無いわ!動画撮っちゃった!」
その時自分の前で目をキョロキョロさせている真由美を見て、陽子が張り詰めたリビングの空気に気が付いた、そしてリビングの真ん中に立っている
力を見てハッとした
「え?・・・もしかして・・・力?あれ力?うっそぉ~~!!」
「シッ・・・今立て込んでるのよ!」
真由美がトンッと陽子の脇を肘でつつく
「ママ!タオルどこー?」
その時、バスルームから女の子の声が響いた、沙羅が振り返る前に力は衝動的に動いていた
彼はリビングをサッと横切り、女の子のいるバスルームに直行した、女の子はタオルを取りたいらしく、つま先立ちで洗面台の棚の上のタオルを探していた
力は女の子の頭の上の棚を開けてタオルを手に取り、膝をついて目線を合わし・・・その子にタオルを渡した
「ありがとう!」
女の子はニッコリ力に微笑んでタオルを受け取った、力は心臓が止まりそうになった
その子の顔は力にまるで時を遡ったような衝撃を与えた・・・
大きな目は、顔の半分を占めるほどで、まるで夜空に輝く星の様にキラキラしていた
長いまつ毛がその目の周りを縁取り、瞬きするたびに白目に反射する光が揺れる・・・
鼻は小さく、愛らしい丸みを帯び、口元は桜の花びらのように繊細で、笑うと小さな白い歯が覗く・・・
肌は透き通るように白く、ほのかに赤みが差していた
濡れた髪は黒く艶やかで、お団子に結わえたシュシュが揺れるたび、彼女の活発さが伝わってくる、その顔立ちは写真で見た小さな頃の沙羅の面影をなんとなく落としているが・・・
いや・・・
力はゴクリと喉を鳴らした、むしろこの子の面影は自分と言ってもいい
沙羅の髪は染めなくても天然で茶色い、そして瞳の色もアーモンド色だ
しかし・・・この子の瞳は夜空の様に真っ黒だ、そして髪の色も質も・・・力自身の面影を色濃く宿している様に見えた
この子の瞳は僕と同じだ!
力は心の中で叫んだ、手が震える
「やぁ・・・こんにちは、お嬢ちゃん・・・お名前は?」
女の子は大きな目をキラキラさせながら答えた
「鈴木音々!8歳よ!」
―8歳!!―
力の頭の中で計算が瞬時に弾き出される、あの結婚式の日からちょうど8年・・・
あの日、沙羅を残して韓国に飛んだ日から・・・
力の視界が滲んだ
力の喉は震え、涙が浮かんでくる、これが調査書を読んだ力を韓国からここまで飛んでこさせた理由だった
間違いない!この子は僕の娘だ!
僕の・・・血を分けた子だ!
音々の顔を見つめながら、力の心は喜びと後悔、驚きと愛で溢れていた
そんな力の顔をじっと音々はマジマジと観察していた
やがて音々がキラキラする瞳で言った
「あなたを知ってるわ!(ブラック・ロック)の『Riki』でしょ?ママのクローゼットにあなたのCDが沢山あるわ!ママは時々夜、あなたの歌を聞いて泣いてるわ」
その瞬間、力は言葉を失い、その場から動けなくなった
沙羅は洗面所のドアの傍に立ち、ただ青ざめてその光景を見ていた
・:.。.・:.。.