テラーノベル
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俺は昔から何でもできた。勉強も運動も、やろうと思えば全部一番。
周りは勝手に寄って持ち上げてくれる。気持ちいい。
挫折?
そんなもん、弱い奴が勝手に言ってるだけ。
俺は違う。強いんだ。
俺は“選ばれる側”じゃなくて“選ぶ側”。
世界は俺中心で回ってる。
高校に入って、ひとりの女が目に入った。栞里。顔も良い、雰囲気も良い、頭も良さそう。
俺の隣に立つ資格があるのは、ああいうタイプだけだ。俺が選んだんだから、当然うまくいく。
ただ──
隣にいる“変な顔のやつ”が気に入らない。あいつ、なんだ? 空気読めないタイプか? キモイ奴。
まぁいい。俺が動けば全部うまくいく。
俺は息をするように告白した。だって、俺が告白すれば誰だって喜ぶ。
「やぁ! 俺マサシ。よく“何でもできるハイスペ男子”って言われて困ってるんだよね」
「そう。」
反応が薄い。でもこれは“照れてる”ってやつだ。俺の前じゃ緊張するのも無理はない。
俺は続ける。俺が話せば、相手は落ちる。いつもそうだった。
「でさ? このハイスペの俺に似合うのは君しかいないと思うんだ。俺と付き合えば、君ももっと上にいけるよ」
「ごめん。私、好きな人いるから付き合えません」
え? なんて? 俺を試してるのか?
「はぁ? え、俺が振られた? おかしいって。
まさかあのバカの翔太だっけ? あいつといつも一緒にいるけど、好きとか?」
「……そうだったら何?」
まじかよ。俺はムカついた。俺を振ったこの女、あのバカよりも俺が劣っているとでも?
「はは! あり得ないわ。あんなゴミと? なに? 弱み握られてんの? じゃないと社会のゴミなんかとつるまないでしょ?」
栞里の顔。機嫌悪そう。でも関係ない。お前が悪いからしょうがないよな。
栞里が去ったあと、俺はしばらくその場に立ち尽くした。
俺が選んだら、相手は喜ぶ。それが当たり前だった。
だからこれは── “間違い”だ。
俺が間違ってるんじゃない。栞里が間違ってる。
ムカつく。でも、同時に“面白い”とも思った。
栞里は俺を選ばなかった。じゃあ、どうすれば選ぶ?
簡単だ。俺の価値をもっと見せればいい。
俺は何でもできる。勉強も運動も、顔も、性格も。全部トップクラス。
俺の良さに。俺の価値に。俺の隣に立つべき理由に。
気づかせればいい。
だから
翔太と“友達”になればいい。あいつの近くにいれば、自然と栞里の近くにもいられる。
しかも、翔太はバカだから簡単に懐くだろ。
俺がちょっと優しくすれば、すぐに信じる。
全部うまくいく。
栞里がいない時を見計らって、俺は翔太に声をかけた。
「なぁ、翔太? だよな。」
「そうだよ! どうしたの?」
「俺さ、お前見ててスッゲェ面白くて仲良くなりたいと思ってさ」
「えー! 本当に!? 嬉しい!あのマサシ君が僕の……。」
はい、第一ステップクリア。本当にバカでありがとうな。
「じゃあマサシ君は僕の友達第二号!」
変わってる。でも利用価値はある。
「お、おう。なぁ、お前はいつもなんで栞里と一緒にいるんだ?」
「うーんとね、栞里は僕の友達第一号だから。なんでも教えてくれるの」
「そうかー! じゃあ俺もお前と友達だから栞里とも仲良くなれるよな?」
「そうだね!」
よし。栞里に近づくための“橋”は手に入れた。
栞里と付き合えれば、こいつはもういらない。
それから友達ごっこを続け、二年生になった。
まだ栞里は俺を見ない。こんなに近くにいるのに。
俺はずっと“正しい努力”をしてきた。翔太と仲良くして、栞里の近くにいて、話すきっかけも作って、完璧に振る舞ってきた。
なのに──栞里の視線は、いつも翔太に向いている。
なんでだよ。
テレビでニュースが流れた。連続殺人鬼。
正直、俺には関係ない。俺の知らないところで勝手に襲って、勝手に死んでくれ。俺に害がなければそれでいいから。
そう思っていた。
でも、タケルの訃報を聞いた瞬間、教室の空気が変わった。
同じクラスの人間が襲われた。近くに殺人鬼がいる。
俺は咄嗟に考えた。
ここで一番に声をあげれば、俺は“友達思いのいい奴”に見える。周りは俺を見る。栞里も俺を見る。
だから俺は叫んだ。
「はぁあ!? タケルが……」
タケルなんてどうでもいい。俺以外の人間は俺を引き立たせるための駒だから。
俺が見たいのは──栞里の反応。
しかし栞里は俺を見ていなかった。
栞里は翔太を心配そうに見ていた。
俺じゃない。俺じゃないんだ。
俺は連続殺人鬼に襲われても心配されない。でも翔太は心配される。
なんでだよ。なんで俺じゃない。
胸の奥で、一本の線がプツンと切れるような音がした。
ああ、そうか。分かった。
俺が“完璧”だからじゃない。俺が“強い”からじゃない。俺が“選ぶ側”だからじゃない。
──栞里は俺をそもそも必要としていない。
その事実が、俺の中の何かを静かに壊した。
授業が終わり部活の時間。
どうでもいい。帰りたい。寝たい。疲れた。
俺が足早に教室を出ようとした時ゴミが話しかけて来た。
「マサシ、今日はサッカー部の活動あるよね? 部長っていつでも休んでいいの?」
こいつ。
「今日は気分が乗らねぇ。帰ってやりたいこともあるしな。」
帰ってやりたいことなんてない。こいつを黙らせるには理由を話してやらないと理解できないからだ。
俺が教室を出ると栞里が翔太に話しかけてるのが聞こえた。
「翔太。皆んな悲しいの。だからサボりたくて休んでるわけじゃないのよ」
ああ……。悲しいよ。悲しい。お前が俺を見てくれないから。一年間そばにいても冷たい。翔太には目を輝かせて……。
やっぱり、翔太。俺が元気なくても話しかけない。ずっと翔太。翔太。俺は見えない空気。ずっとずっと見えない。見えないならもう学校へは行きたくない。なんだよ。惨めじゃん。
翔太……。全部お前のせいだ。
コメント
1件
うわあ、マサシの内側から描かれると、また全然違う物語になるんですね……。彼が「選ぶ側」に固執すればするほど、実は自分が選ばれていない現実が浮き彫りになっていく。栞里の視線が一度も自分に向かない一年間の辛さとか、最後の「見えない空気」って気づき、めちゃくちゃ刺さりました。翔太に拗らせていくのも怖い。続きが気になります。
#現代
ぽたお
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猫塚ルイ

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