テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ひのめこがね
182
#現代
ぽたお
198
猫塚ルイ

9,478
それから俺は学校に行かなくなった。行く意味がない。価値がない。俺自身が何なのかも分からない。
死んでもいいと思ってた。いや、死んだほうが楽かもしれない。
だから毎晩、深夜に外へ出た。わざと人気のない道を歩いた。わざと暗い場所を選んだ。
襲って欲しかった。
ニュースで見た“連続殺人鬼”。あれは俺を救ってくれる存在に思えた。
タケルが羨ましい。あいつは“救われた”。
俺も救ってくれよ。俺を終わらせてくれよ。
俺はどうしたらいい?
今までの俺は?
どうやって生きてた?
何を考えてた?
どうやって笑ってた?
全部忘れた。体も心も、もう分からない。
俺は完璧だったはずなのに。完璧じゃない俺なんて、価値がない。
ピーンポーン。
……なんだ?
心臓が跳ねた。こんな時間に誰だ。
でも、聞こえた声で全てが変わった。
栞里の声だ。
嘘だろ……。栞里が来た? 俺の家に?
やっぱり俺のこと心配だったんだ。
嬉しい。
報われた。
俺の努力は正しかったんだ。
俺はベッドから飛び起きて、カーテンを少しだけ開けた。
栞里の顔を見たかった。俺を心配して来てくれた顔を。
でも──その隣に翔太がいた。
なんでだよ。なんであいつがいるんだよ。
あいつはいらない。邪魔だ。俺の世界に必要ない。
俺は睨んだ。呪いをかけるみたいに睨んだ。
でも翔太は──俺を見て笑って、手を振ってきた。
なんで笑うんだよ。
なんで手を振るんだよ。
何も考えてない。睨んでも意味がない。だってあいつには感情がないんだから。
俺の中でまた何かが壊れた。
俺はその夜も外に出た。歩いた。なるべく遠くまで。犯人に出会いやすくなるように。
きっと今日も誰かを救っているんだろう。
タケルみたいに。羨ましいよ。俺も救ってくれよ。
俺を選んでくれ。お願いします。
自分で自分を殺すのは辛い。だからお願いだ。
俺を終わらせてくれ。
「おーい! 俺はここだ! 頼む! 来てください!」
昔の俺なら、こんなこと絶対言わなかった。
でも今の俺は、もうどうでもいい。
……でも何も来ない。俺は犯人にも見られてない。
世界にすら無視されてる。
笑うしかなかった。
そっか。俺は世界に見捨てられたんだ。
自然に涙が出た。心が自分から離れていく感覚がした。
しばらくして、また家のチャイムが鳴った。
ピーンポーン。
栞里ならいいな──なんてもう思わない。
今は犯人ならいい。それだけ。
でも聞こえた声は翔太だった。
ママが楽しそうに笑ってる。嬉しそうに話してる。
笑わないでくれ。きっと俺をバカにしてるんだ。それしか考えられない。
俺は決めた。翔太に伝えることがある。
俺は部屋を出て、ゆっくり階段を降りた。この階段は、俺が“俺を辞める”階段。
「……ごめん。心配かけて。少し翔太と外に出て話したい」
ママも翔太も嬉しそう。多分俺をバカにしてるんだ。
「翔太、公園で話すか」
公園までの道のりは、やけに遠かった。
公園に着くと、翔太は授業のノートを渡してきた。こんなの必要ない。
「話したいことって?」
俺は空を見上げた。そして全部話すことにした。
「あぁ、それだな。……実は俺は栞里のことが好きなんだ」
翔太の反応はいつも通りズレてる。
俺は翔太が嫌いだ。でも今の俺には、このズレが少しだけ救いだった。
「あぁ……そうか。でも多分無理だろうな。振られたしな」
答えなんて求めてない。
ただ聞いて欲しかった。
「もう一度チャレンジだ! 僕に何かできることある!? 何でもする!」
「……何でもだな?」
「うん!」
試してみよう。
「じゃあ……翔太……お前、頼むから消えてくれ」
「え? どこに?」
またズレてる。
「お前がいると、俺はいつまでも栞里とくっつけないんだよ。だから……お前がいなくなれば、栞里は俺のものなの」
「普通友達にそんなこと言うかな〜」
「ああ、普通は言わないな。でも――お前は俺の友達じゃない」
「俺がお前に近づいたのは、栞里がいつもお前と一緒にいるからだ。……何でお前なんだよ?」
全部だ。全部話す。
「何考えてるか分からない……気持ち悪いお前なんかに……」
「え、僕……そんなこと言われたの初めてだよ」
違うよ。お前はいつも悪口を言われてた。
気づいてないだけ。
そうだ。神様に賭けてみよう。
「なぁもうさ。いっそのこと……あの連続殺人鬼にでも二人で会いに行って、どっちがやられるかゲームでもするか?」
「良くないでしょう! 分からないよ。それなら何でずっと部屋にこもってたの? ねぇ、何で? 教えて? タケル君のこと? 一年生の山田君のこと?」
「……タケルの訃報を聞いた時、栞里は俺じゃなくお前を心配そうな目で見てた」
その瞬間、翔太が俺の頭を撫でようとした。
俺は咄嗟に手を弾いた。
「やめろ」
触るな。慰めなんていらない。全部お前のせいなんだから。
俺が下に見えるのか?
そして翔太は、俺の逆鱗に触れた。
「マサシ! 分かった。僕が直接栞里に言ってみるよ!」
あっ、ダメだ。全部ダメだよ。
気づいたら、俺の手が出ていた。翔太を殴っていた。
気持ちよかった。
「何やってるの!?」
栞里の声だ。なんか……すごく嬉しかった。
「はぁあ! 栞里……来てくれたんだ……」
こっちに走ってくる。見てる。俺を見てる。
その瞬間、俺は弾き飛ばされた。
地面に転がったけど、俺は笑っていた。
「はぁ! 栞里に触られた……やっと俺のことを見てくれる」
「大丈夫!?」
心配までしてくれてる。
「ああ! 大丈夫だ!」
「あなたじゃない。大丈夫? 翔太」
……あっ。やっぱり翔太だ。
「僕は大丈夫。あっ、マサシがね、栞里のこと……」
余計なことを言うな。
言うな。
言うな。
俺は咄嗟に近くの石を掴んで投げつけた。
「これ以上言ったら……てめぇの舌、引きちぎるぞ!」
石が地面に転がる音がした。
その音よりも、栞里の顔が変わっていく音のほうが聞こえた気がした。
ゆっくりと、怒りに染まっていく。
「……あんた、本当にクズ。もういい。私はあんたなんか好きにならない。一年生の時も言ったよね? “私たちに近づかないで”って」
そして──
栞里の手が俺の頬を叩いた。
パァン。
世界が一瞬止まった。
「あああ……そっか。そうなんだ」
全部理解した。全部終わった。
もういいや。全部、壊れちゃったから。
マサシはもういないよ。ちゃんと死んだ。
「じゃあ……いいや。壊してやる」
その瞬間から、栞里は俺を“連続殺人鬼”だと推理し始めた。
もうどうでもいい。俺が犯人になるよ。俺が悪でいいよ。
だって、俺はもう“俺”じゃないんだから。
コメント
1件
ああ……読んでて胸がぎゅっとなりました。主人公の「終わりたい」って気持ちがひたすら痛くて、でも栞里の「クズ」の一言で全部が崩れた瞬間、もう戻れないんだなって感じました。翔太のズレた優しさが逆に残酷で……。最後の「俺が犯人になるよ」の諦めが、すごく重くて苦しいです。続きが気になります。