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#料理男子
「うう……。不安しかない。おばあちゃんのお野菜も送ってくれるのは嬉しいけど、数を減らしてもらわなくちゃ」
宮殿のようなこの家のキッチンに、段ボールに入った土のついた野菜の違和感に泣きそう。
「それは駄目だ」
急に彼の声が焦りを滲ませているので、見上げる。ハッとした様子の彼が眼鏡をかけ直して少し視線を逸らした。
「一矢からも聞いてるよ。大切なおばあさまの野菜は、断ったりしたら失礼だ。俺が全部食べるよ」
「いっつもサラダぐらいしか作ってないですけど、じゃあ食べてもらおうかな」
ふふっと笑うと、少しだけ切ない顔をされたのでどう反応していいか悩む。
それは、やはり祖母の野菜が嫌って顔?
あ……私の料理が嫌?
「料理、頑張ります。その、確かに野菜が来るから適当な料理しか作ったことないんだけど、素材は美味しいので」
「違う違う。俺は何も不満はないよ。ただ、ね」
言いにくそうな彼は、少し考えてから眼鏡の縁を触って唸った。
どうしたんだろう。
深刻そうな顔。
「いや、結婚前にちゃんと話しておかなければいけない。俺はこれが原因で恋愛が続いたことがないから」
「やっぱり!」
「やっぱり?」
怪訝そうな顔をされたので、口を押えて視線を逸らした。
もしかして他に女性がいる、とか。
実はお母様のご飯以外は食べない!?
恋愛が続いたことがないって、こんな完璧な人に?
「キッチンに来てほしいんだ」
「はい」
一階へ降りて、キッチンへ向かう。
オール電化のキッチンは、オーブンも食器洗い乾燥機も、そして大きな冷蔵庫もある。
彼は引き出しを開けると、見たこともないような沢山の種類の包丁が並んでいるのを指さした。
「実は、……料理が好きなんだ」
「はあ」
「君のおばあさまが送ってくださる野菜を、一矢が俺に押し付けてくれるのが本当に嬉しかった」
「はあ……?」
料理が好き?
キッチンを見渡すと、見たこともない香辛料やスパイスが並べられているし、まな板も使用感がある。
「俺の料理を食べると大体の女性は、不機嫌になるか、私の料理は不味いから食べたくないのかと泣き出す。それが億劫というか面倒というか、煩わしいというか」
はあ、と深く嘆息する。その深さに、喬一さんの今までの苦労がうかがえた。
「えっと……つまり、喬一さんの方がお仕事は忙しいと思うんですが、料理は任せた方がいいんですか?」
「俺がいる時は任せてほしいかな。あと、面倒くさいんだが俺が作ってるときは手伝いはいらない」
そういって、包丁を取り出し、磨かれた包丁に顔を映して微笑んだ。
外科医だから、手先が器用なのかなって言いそうになって飲み込んだ。
「私、あまり得意じゃないから、作ってくれるのは大変うれしいです」
が、自分より忙しい夫に作らせるなんて罪悪感が無くはない。
「良かった。座って待っててくれ。簡単に作るから」
いそいそとスーツのジャケットをハンガーにかけて、黒いエプロンを腰に巻きだす。
そして、冷蔵庫からさっそくトレイに入れていた食材を取り出す。
どうやら事前に仕込みは終わっていたらしい。
「見るのは大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと恥ずかしいけど、いいよ」
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