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#料理男子
キッチンのカウンターに、バーみたいな椅子が並んでいるので、そこで座って彼の料理を見る。
仕込んでいたのは、トマトとズッキーニのカルパッチョ。
出来上がったのは、サーモンと春菊ときのこのたらこクリームパスタ。
そして桜エビのチーズステッキをお洒落なワイングラスに入れて真ん中に置いた。
「すごい。こんな短時間でご飯ができた」
「まあ。一人暮らしが長かったからな。そっち座って」
テーブルの上に並べられた食事と、テーブルの向こうから私を見る彼の目が怖い。
感想を求めてうずうずしていると期待している目だ。
「食べていいでしょうか」
「もちろん。口に合うかな」
どこか誇らしげな言い方が、ちょっと可愛いと思ってしまった。
まずはパスタを一口、フォークに巻いて食べてみた。
「え……!」
料理リポーター並みの語彙力が欲しい。しっかり塩味がついたサーモンと春菊、そしてエリンギの香りが絶妙で、美味しい。
「これは! 土下座してお嫁さんになってほしいぐらい美味しいですっ」
「そう。良かった」
「えーっ トマトとズッキーニってあうんですね。これも美味しい。チーズステッキはワインが欲しくなる」
「ワインは赤? 白?」
すでにグラスを用意している彼が、目を細めて私に尋ねてくる。
完璧だ。完璧なお嫁さんだ。
「喬一さん……っ」
「なに?」
「お嫁さんになってください!」
結婚したらこんな美味しい料理が毎日食べられるんだ。
お肉を茹でて野菜と食べたり、レトルトのルーに油で揚げた茄子を付け足しただけのパスタとか、私の適当な料理とは比べ物にならない。
「あっ でも毎日こんなに食べてたら、太りそう。普段、きゅうりとかかじってるしなあ」
「うちの冷蔵庫は足で閉めるなよ」
「閉めませんっ」
美味しい。気づいたらパスタはもう半分も平らげてしまった。
「じゃあ、結婚相手として面倒じゃないってことかな」
「もちろんですよ。逆に私の方が面倒じゃないですか」
この歳でゲーム画面の相手に夢中になるぐらいしか趣味のない女だ。
料理もこの通り、喬一さんの方が一流なんだから。
「私が良かったのは、料理ができないから、自分で作れるって思ったからですか?」
私が食べているのを、蕩けんばかりの笑顔で見ていた喬一さんが急に真面目な顔になった。
「ちょっと待ってて」
立ち上がって、ソファに置きっぱなしになっていたカバンから何かを取り出してくる。
その顔はどこか気まずそうだ。私を打算で選んだと言ってくれていたのだから、料理のこと以外もきっとあるはずだ。
「君はこれを覚えている?」
コトンと音を立ててテーブルに置かれたものは、紫の水玉模様のお弁当箱だ。
さっき日色先生が言っていた、年季の入ったお弁当箱。
確かに、喬一さんが自ら買ったようには見えない。
女性もののファンシーな小物屋にありそうな、平凡なお弁当箱。
「このお弁当箱、君がくれたんだけど」
「え!」
「その反応は、まあ、そうだろうと思ったけど」
苦笑しつつも、彼は席に座って自分の分のご飯を食べだした。
パスタをフォークに巻いて口に運ぶ姿さえも見とれてしまいそうで、頭を振る。
「いつですか! 全く覚えてないんですが……っ」
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