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「第二幕 第四章 紅き婚約」
正午、王宮の大広間は群衆と香の匂いで満ちていた。
黄金の柱、天井に吊るされた水晶灯、音楽隊の奏でる旋律。
まるで祝福そのものが形を取ったような華やかさ――だが、その美しさの奥に、何か冷たい影が潜んでいる。
あなたとセレスティアは人混みの中、ラシードと共に壇上を見つめていた。
やがて、絹のベールをまとった一人の女性が姿を現す。
その瞳は琥珀色、唇は薄く結ばれている。
ラシードが息を呑んだ。
「……間違いない。アミーナだ」
隣に立つのは、漆黒の軍服に身を包んだ男――胸には赤い月の紋章。
その男が群衆へ向けて、低く響く声で告げた。
「この婚約をもって、サラ=ジャハルはルナの庇護下に入る」
群衆の一部がざわめき、別の一部は歓声を上げる。
だが次の瞬間、大広間の扉が閉ざされ、外から重々しい閂が下ろされた音が響いた。
天井の水晶灯が赤く染まり、空気がひりつく。
壁際の装飾が崩れ落ち、その中から全身を黒布で覆った兵士たちが現れる。
そして、軍服の男が冷笑を浮かべた。
「お集まりの皆様……これは婚約ではない。これは、選別だ」
兵士たちが剣を抜き、逃げ惑う民を囲い込む。
アミーナ王女は何も言わず、ただラシードを見つめていた。
その瞳には、助けを求める色と――何かを諦めた影が同時に揺れていた。
「おい……この野郎」
ラシードの声は低く、震えていた。
その背からは、かつての護衛隊長としての殺気が溢れ出す。
セレスティアがあなたに囁く。
「これ……戦うしかない。でも、王女は無事に救わなきゃ」
次の瞬間、軍服の男が手を振ると、兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
婚約発表の場は、一瞬で血と刃の舞台に変わった――。