子カンガルー、マーラは一部始終を見ていた。目の前で父王、バミル王が殺されていくのも_
だが、何もそれだけではなかった。カンガルーたちは寂しげにその場をゆっくり、去っていった。なぜなら。もう、狩りは終わった。だからもう、自分たちには構わないだろう。そう思った。
しかし、彼らは執拗に飢えていた。ものすごい勢いで食べ尽くすと、ちろっとこちらを見つめ、音もなく、何匹かに分かれた。
マーラは今の今までとても怖がった。必死で、逃げ、仲間が立ち止まったから自分も立ち止まった。そうしたら、ディンゴに囲まれた父王、バミル王を見つけた。そしてその最後も。「マーラ。もう大丈夫よ。あれはディンゴ。犬の仲間。体力もあるし、すっごいしつこくて執念深いから、気をつけるのよ。もう今は腹を満たしていると思うからきっと大丈夫」ロワナがそのようになぐさめ、歩き出して、すぐのこと。群れが慌てた様子で全速力で駆け出した。土ぼこりがもくもくと湧き上がり、その中を突っ切るようにしてマーラも駆け出した。
あのディンゴたちがやってきたのだ。恐ろしい速さでバミルを捕食し、まだ足らずとまた追いかけてきたようだ。ディンゴの足音が直ぐ側まで迫ってきた。そこでマーラは初めて気づいた。ディンゴたちの次の狙いは、自分なのだと。父、バミルが殺されていく様子を思い出し、身震いし、ぐわんと走り出した。絶対死なない。それだけを考え、振り切るためにあちこちを走り回った。
マーラを執念深く追い詰めるリーダーはディンゴのミガルー。群れのトップで、マーラと同い年の息子、ミロもいる。
追いかけてくるのはディンゴだけではなかった。セキレイだ。カンガルーの味方で、カンガルーが食べた草から驚いて逃げ出した虫を食べたりもする。その群れの中で特にやんちゃで頭のよく、素早いのが、ウィリーだ。ずっと鳴いて、「逃げろ!」「急げ!」と警告してくれる。その声を頼りにマーラはディンゴと疲れと戦い続けた。やがて、ウィリーの鋭い警戒音は聞こえなくなった。ミガルーたちの気配、匂いもだ。恐る恐る振り返ると、遠い草原に、茶色い豆粒のような小さい影があるだけだった。そう。マーラはディンゴから逃げることができたのだ。最強の父を破ったディンゴを自分が負かせてしまったのだ。喜びと同時に、それまで溜まった疲れがどっと押し寄せてきた。マーラはその場にへたりこんだ。母と仲間たちがいるから大丈夫。そう思ってすや〜っと眠ろうとまぶたを閉じかけた。しかし、ひょんっと跳ね起きた。そう。先程、周りを見ても茶色い豆粒のような影しかなかった。カンガルーたちはいなかった。もちろん、ロワナも…
コメント
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作品作るの上手いね!!