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セミが鳴いてた。・・・学校も夏休みや。
セミの声に交じって「二拍子」が聞こえてくる・・・
阿波踊りが始まってる。村全体がザワついてた。
祖父ちゃんは村の寄り合いに出かけてた。・・・・色々やることがあるらしい。
母さんも、弟を連れて行っていた。・・・・婦人会も忙しい。
ボクは、一人残ってプラモデルを作っていた。
プラモデルが好きや。・・・何よりもプラモデルが好きや。
ちっちゃい頃から、お菓子より何よりプラモデルが好きやった。
母屋には祖父ちゃんがひとりで住んでいて、廊下でつながった別棟がボクたちの寝る場所や。
・・・・その廊下の入り口に大きな「飾り棚」があった。
そこには、大きな戦艦のプラモデルがいっぱい並んでた。・・・・父さんが作ったやつや。
・・・・鍵がかかってて・・・・ガラス戸で・・・かっこよくて・・・・ボクがプラモデルを作るようになった理由がこれや。
ボクは毎日、毎日、眺めてた・・・・・棚の中には作りかけのプラモデルもあって・・・・今、父さんが作っているのは「飛龍」や。・・・・それが、少しづつ、少しづつ出来上がっていくのを見てるのも楽しかった。
父さんが作っている大型のプラモデルは、内部の構造まで細かく作られていて、それを見ていると、戦艦の構造がよくわかった。
休みの日。父さんがプラモデルを作っていた。
飾り棚には、大きな戦艦大和があって・・・その隣に、少し小さな戦艦がある。
「これは、長門や・・・日本海軍の旗艦やった戦艦や・・・・」
「旗艦・・・・?」
「一番偉い戦艦や・・・・」
・・・・でも、隣で並んでる大和のほうが大きいやん・・・・
「大和が旗艦になるんは、その後や・・・・真珠湾攻撃の時は長門が旗艦やったんや・・・・」
父さんは戦艦にまつわる歴史の話を教えてくれた。・・・・それが、とても面白かった。楽しかった。
ふたりが休みの日には、ボクも父さんと並んでプラモデルを作った。
父さんがボクに選んでくれたのは「1/700」という、父さんが作っているプラモデルの半分の大きさのやつやった。
父さんが作っている「1/350」は、部品の数も多い、作るのも難しい。・・・小学生のボクには、まだ早いって言われた。
ボクは、作りかけのプラモデルを、「飾り棚」の上に置いていた。
・・・・ある時、ボクの作りかけのプラモデルが直されていた・・・・ボクが間違えて設計図と左右逆に部品を取り付けていた・・・・それが直されてた。
・・・・父さんは、ボクのプラモデルを見てくれてたんやな・・・・
父さんは、ボクが寝ている間に仕事に行って、寝ている間に帰ってきていた。・・・昼間でも、学校に行ってる間とかに仕事に行ってしまう。
・・・・だから、父さんと会えなかったりするときもある・・・・
・・・・それでも、父さんのプラモデルが進んでいたり・・・ボクのプラモデルが直されていたりで、父さんが帰ってきたのが分かった。
・・・いつの間にか、「飾り棚」が、ボクと父さんの男同士の会話の場所になっていた。
お昼は、ひとりで母さんが用意してくれた「押しずし」を食べた。
お盆・・・祭りの時にはこればっかりや。
みんなのとこに行けば、焼きソバだとかもある・・・・・それは後で食べよう・・・・
テレビを見て、少年ジャンプを見て・・・・また、プラモデルを作る・・・・
戦艦のプラモデルは、部品の数が多いし小さい・・・・右と左に機銃が・・・・前と後ろに大砲がついてる・・・それぞれ同じやない。間違えないように真剣に、何度も設計図を見ながら作っていく・・・・ワイヤーケーブルなんかは、キットには入っていない。「糸」で作ったりするんや。
艦橋ができた・・・大砲も組み立てた・・・・あとは船体に組つけていく・・・・その前に接着剤が乾くのを待つ。
カルピスを作って飲んだ。
少年ジャンプを読む。
・・・・少年ジャンプは、最初、父さんが買ってきてた。それをボクも読むようになって、そのうちに発売日にボクが買いに行くようになった。・・・・父さんが、その分のお金をくれた。
カルピスを2杯飲んだ・・・・母さんがおったら2杯は飲めなかった。・・・・しかも、母さんが作るのは、メッチャ薄かった・・・
・・・コップを片付けて、また、プラモデルを作り始めた。
玄関が開く音がした!!
立ち上がって、玄関に走った!
父さんがいた。
「オウ」と片手を上げて父さんが立っていた。
やっと帰ってきた。
待ってた。・・・・・父さんと祭りに行くために、ひとりで待ってたんや!
セミの声が降りそそぐ。
日が暮れていく・・・・・
「二拍子」が鳴っている。
人混みの中。
父さんに手を引かれて「連」を見た。
隣で弟が母さんに抱かれていた。
家族そろって、揃いの・・・村のハッピを着ていた。
目の前を、地を這うように、踊りながら「連」が進んでいく。
一糸乱れず、ひとつの生き物のように「連」が進んでいく。
かっこいいと思った。美しいと思った。
人間が舞う。
二拍子が鳴る。・・・・お腹に響く二拍子が鳴る。
ボクたちのお祭りや。