コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ただいま〜…」
家に帰ると、疲れが一気に出て来た。カバンを投げ出し、床に敷いてある布団に倒れ込む。このまま眠ってしまいたい。さっきから耳鳴りがする。今日なにか疲れることをしたわけでもないのに。…外でカラスが鳴いている。
「ごはん、何にしよう…レトルトカレーあった気がする…」
立たずに四つん這いになってキッチンに向かう。子供用の小さい甘口カレー。ご飯を電子レンジで温めて、カレーを湯煎する。制服を脱ぎ捨て、部屋着に着替える。
カレーが温まるまでの間、部屋の隅に置いてあるマイクに目をやる。最近、忙しくて全く歌っていなかった。今日の学校の出来事を思い出しながら、軽音部に入るのが楽しみになってきた。
「ピッ、ピッ、ピッ、ピー。」
電子レンジの音がカレーの温めが終わったことを知らせる。カレーを取り出し、ご飯にかけて簡単な夕食の準備が整った。食卓に座り、カレーを一口食べる。温かい食事が体にしみわたるようだった。
「はぁ…」
ため息をつきながら、カレーを食べ終えると、食器を洗い流して再び布団に倒れ込む。明日も新しい友達と一緒に過ごす日が待っている。そのことを考えると、少しだけ元気が出てくる気がした。電気を消して、サメの抱き枕をギュッと抱きしめる。天井を見上げると、月明かりに照らされて天井が水色に染まっていた。部屋にはサメや魚、雨や雫をモチーフにしたものがたくさんあった。マイクにもサメのステッカーが貼ってあるし、パソコンには水色のステッカーをたくさん貼っている。スマホには丸っこい小さなサメのキーホルダーがついている。
「こさめ、サメ好きだなぁ…」
そうつぶやいた自分の声は、思ったより掠れていた。自分の周りに集めたサメたちが、少しだけ心を落ち着けてくれる気がする。
ふいに、心の中に「歌いたい」という欲が湧いてきた。電気をつけ、マイクを取り出す。暗がりの中でぼんやりとした水色の部屋が明るくなる。こさめは急いでマイクを取り出し、机の前に座った。サメのステッカーが貼られたマイクが、光を浴びて輝いている。
「うん、ちょっとだけ歌ってみようかな…」
こさめは深呼吸をして、マイクの前に立った。目の前にあるパソコンを立ち上げ、音楽プレイヤーを開く。リストの中から、いつも練習している曲を選ぶ。「雨音メモリー」。心の奥底から湧き上がる「歌いたい」という気持ちを込めて、歌詞を見つめる。
曲が流れ始め、こさめはマイクに向かって声を出した。最初は少し緊張していたけれど、次第に心の中の想いが歌に乗せられていく。サメの抱き枕が優しく見守る中、こさめは自分の声に耳を傾けながら、リズムに乗って歌い続けた。
しとしと降る雨の中
君と歩いたあの道
記憶の中で輝く滴は
今も心に静かに宿る
窓を打つ雨の音が
かすかに語る遠い日々
そのひとしずくひとしずくが
僕たちの時間を刻んでいた
傘の下で交わした言葉
雨に紛れて流れた笑顔
すべてがまるで幻のようで
だけど、確かにそこにあった
青い空に変わるその時まで
雨音は忘れられないメロディ
過ぎ去る日々の中で
心に残るのは、ただ君の影
雨が止んだら、また歩こう
あの道を、あの場所を
記憶の中でしっかりと
君と一緒に刻んだメモリー