もう遅い/桃赤
フィクションです。
創作だと思って読んでください
コト、と静かにマグカップを置く。
目の前のスマホを見ていた彼へ視線を向ければ、こちらを見て安心した様に笑う。
ふ、と気が抜けたようなやわらかな笑い声が耳を抜ける。
「…しあわせ、だなぁ、」
ぽかぽかとした気持ちのまま、脳内に浮かんだ単語をそのまま吐くと、また君は笑う。
「それは良かった。」
だって幸せにしたかったから、なんてクサイセリフを放って目を伏せた。
幸せにしたかった
それは、そういう意味なのだろうか。
「…今までが、いちばん幸せだったよ。」
なんて怒りを混じえたような声で伝えると、ケラケラと笑って流されてしまう。
誰が、辛いと言ったのだろうか。
酷く甘い彼お手製のいちごミルクを一気に流し込み、彼を視界から遮断するように外を眺めた。
‘莉犬’という人生を捨てた。
捨てた、というのは失礼だろうか。
正しくは、’莉犬は死んでしまった’ というべきか。
まあどちらにせよ、自分が’莉犬’ではなくなったのは事実であり、そんな事実が酷くにがく口に残っているのだった。
苺解散と共に、ST/PR自体も解散させた。
暗譜や騎士たちは、そのままグループで事務所を立ち上げているところもあれば、解散してソロ活動に専念している者たちもいた。
歳も歳だし。なんて笑った。
みんなして笑った。
笑えていたのかは、解らないけど。
乾いた笑みがリスナーさんにバレていないかなんて、解らないけど。
俺は、嘘でも笑えなかったけど。
そんな現実をみないようにして笑っていた彼らも気が付けば、もう居なかった。
まぁ表上、ST/PR解散や苺解散理由は 活動を続ける上での疲労や精神的な苦痛等と伝えたが、それだけではなかった。
俺らはキラキラとしたアイドルだった。
少なからず、俺はアイドルだった。
新しい時代をつくった俺たちだったから。
まあ黒い悩みも出てくるわけで。
特に体制が変わった約2年が大きく俺らを左右していた。
内容も内容であり、あまり大きな声で言えることではないけれど。
ソロ活動もこの機会に1度休止してみよう。
あとは引越しもしようかなぁ、実家に戻ってみようかなぁ、なんてぼんやりと今後について考えていると、ケロッと彼は言う。
「一緒に暮らさない?」
お得じゃん?なんて言うが、きっとチャンスだなんて考えているのだろうか。
と言っても特に断る理由など無い訳で、素直に首を縦に振った。
それからというもの、引越しや金銭的問題やらなんやらすべて彼が決め、事は簡単に進んでいった。
無害というか、ペット扱いだな、なんて考えている間に自分は炬燵に入っていて。
自身からペットになろうとしている自分に若干引いていた。
ペット達つーコタぎんもシェルちゃんらと一緒に暮らすことになるわけで、随分と賑やかな家庭になった。
ほんとうに特に何かをするわけでもなく、部屋の雰囲気もすべて彼の好みなので なんだか新鮮だった。
で、まあこうなるわけで。
彼が俺に好意を抱いてくれていること自体何となく察していた。
好意、なのだろうか。
都合のいい奴っぽいけどな、なんて思いながら、ゆっくりできるのならば特にいいか。
ってまて。丸め込まれているじゃないか。
華麗に泥沼にハマってしまっている自分に苦笑しながらも、「ああ、もう死ぬのか、」なんて客観的に見ている自分がいた。
怒りも苦しみも、
悲しみも感動も。
すべて、笑って流してしまう彼だから
だからこんなにも苦しいのかなぁ、なんて。
「……泣かないで。」
「……」
「………ごめん、」
気が付けば、蒼く光る空を見ていた眼からは涙が零れていて、困惑したように涙を拭いてくれるのはやっぱり彼で。
彼しか、居なくて。
「…..み、んなは、..何処にいったの、…?」
「………。」
‘みんな’が果たして誰のことを指しているのかなんて、君なら直ぐに理解しているよね。
ねえ、なんで
そんな顔、するの
なんで、ドアには外鍵が付いているの
なんで、外に出てはいけないの
なんて。
恐くて聞けなかった。
コメント
5件
1個1個の言葉が好きすぎて僕の名前が上がっててびっくり嬉しいです 素敵な作品だなんて嬉しすぎます…でも犬さんの作品大好きなので僕からもおすすめしますさせてください👊🏻 こんなシチュいつか書きたいなって思いました🫣 桃赤のちょい不穏なオーラが最高に刺さりました 長くなったしぐちゃぐちゃのコメントになっちゃってすいません🥲 ブクマ失礼します!!
律さんの作品を読んでいてぼんやりと浮かんだ内容を無理やり文字に起こしてみただけですので、読むなら律さんの作品たちを読んだ方がいいです。素敵な作品が並んでいますので是非読んでください〜〜📕