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「!あ!まちなよ!」
フランスが慌てて会議室の扉を押し開けた時には、もうイギリスの小さな背中は廊下の向こうへ進んでいた。
声をかけられたイギリスは、ビクッと肩を震わせたものの、立ち止まるどころかさらに足早になる。
「ッ、知りません! 知りません……!」
振り返りもせず、頑なに拒絶の言葉を叫びながら、イギリスはついに走り出した。155センチの小柄な体で、黒いタキシードの裾を翻し、一目散に逃げていく。
「ちょっ……走るなって、危ないだろ!」
フランスも慌ててそのあとを追いかけ、廊下に二人の足音が激しく響き渡る。
普段のイギリスなら、廊下を走るなんて不作法な真似は絶対にしない。指示が上手く、いつも冷静に全体を見ている彼が、ここまで取り乱して全力疾走していること自体が、心身ともに限界を迎えている証拠だった。
(あいつ、ただでさえ近視でモノクル(片眼鏡)してるのに、あんなに焦って走ったら足元がおぼつかないって……!)
フランスの予想は的中していた。
走るイギリスの視界は、極度の疲労と焦りで激しくブレていた。右目のモノクルの薔薇と長方形の飾りが鎖と共にジャラジャラと揺れ、ただでさえ悪い視界をさらに遮る。
「はぁ、はぁ、……っ」
息が上がるのが早すぎる。胸が苦しい。
本当は、今すぐどこか物陰に隠れてしまいたかった。アメリカたちの前であんな無様な姿(音ゲーのミス)を見せ、フランスに「疲れてる」と見抜かれたことが、今のイギリスにとっては耐え難い屈辱であり、同時に強い不安を呼び起こしていた。
植民地たちの親として、いつも完璧で、強くあろうとしてきた。
けれど、こうして弱っている時は、どうしても自分に自信が持てなくなる。
(追いつかれたくない……。今の私を見られたくない……!)
「イギリス、止まりなよ!!」
後ろから迫るフランスの声。
必死に走るイギリスだったが、曲がり角に差し掛かったその時、疲労で完全に鈍っていた足が、自分のタキシードの裾にわずかに引っかかった。
「あっ――」
視界がぐらりと傾く。
普段なら難なく立て直せるはずの段差で、イギリスの体が大きくバランスを崩した。
コメント
1件
第3話、読ませていただきました…! ああもう、イギリスの走って逃げる姿が切なすぎます…。普段あんなにクールで完璧主義な彼が、モノクル跳ねさせて廊下全力疾走してるの、胸がギュッてなった。植民地たちの“親”としてのプライドと弱みを見せられないもどかしさ、めちゃくちゃ伝わってきました。フランスが追いかけるのも分かる…だって倒れるって分かってたもんね。次、どうなるのか気になる…!