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沙織は学園へ向かう馬車の中で、鞄からノートを取り出した。
そして、スチルを思い出しつつ、書き出したノートを確認する。
◇
乙女ゲーム ヒロイン攻略対象(お菓子を食べたかの有無)
①アレクサンドル・ベネディクト王太子(有)
②ガブリエル・アーレンハイム公爵 (無)
③ミシェル・アーレンハイム公爵令息 (無)
④デーヴィド 優しい教師風(?)
⑤セオドア 眼鏡インテリ風(?)
⑥オリヴァー マッチョ騎士風(?)
現時点 攻略対象外
⑦ステファン 魔導師 (無)
⑧シュヴァリエ 影 (無)
その他の登場人物
悪役令嬢…カリーヌ・アーレンハイム公爵令嬢
元ヒロイン…スフィア・ガルニエ男爵令嬢
光の乙女…私
◇
攻略対象の残りの人物――デーヴィド、セオドア、オリヴァーの風貌とファーストネームは何となく思い出せたが。ラストネームや親の爵位は分からなかった。
(うーん。まあ、会えば挨拶するだろうし……カリーヌ様に教えてもらおう)
馬車の中には、沙織の他にステラが乗っている。
ガブリエルは、昨日のアレクサンドルとのやり取りで、色々と王宮でやらなければならない仕事が山積みだった。
そのため、学園へ付き添うことが難しくなったのだ。義父として付き添いたかったみたいだが、こればかりは仕方ない。
(取り敢えず、手続きは済んでいるから問題ないし)
学園には寮があり、生徒は全員そこに入らなければならない。
高貴な身分の生徒は、侍女や従者を連れて行くことが可能だ。ちゃんと、側仕え用の部屋も用意されているのだとか。
沙織にはベテラン侍女のステラがついて来てくれているので、寮生活も然程心配はしていない。
車窓から、大きな門と立派な建物が見えてきた。
「あれが、学園……」
「はい、王都フォンテーヌ魔法学園でございます」
「……フォンテーヌ魔法学園?」
(いかにもなネーミングセンス……。さすがファンタジーな世界だわ)
沙織の通っていた高校とは全く違う。真っ白で西洋のお城のような外観と、魔法学園という名前がピッタリだった。
門番に入園許可書を見せ、馬車は門の中へと入っていく。
少し緊張しつつ、ガブリエルに言われた内容を思い出し、頭の中で復唱する。
(私は、友好国へ嫁いだガブリエルの妹の娘)
つまり、ガブリエルの姪の設定だ。
勿論、許可は取ってある。カリーヌ大好き叔母様は、二つ返事で設定を了承してくれた。
その嫁ぎ先の友好国は、この国では忌避感がある黒髪も多いらしく、沙織のような見た目も珍しくないそうだ。
友好国の内情を訊かれても、「条約に引っかかるので話してはいけないと言われている」と答えるよう言われた。全く知らない国のことなんて、沙織が答えられる訳がないからだ。
そして、ステータスプレートは決して他人には見せてはいけないと、何度も念押しされた。
学園や役所で調べて見られる部分は、名前、性別、年齢、属性まで。全てを見るには、プレートに本人の魔力を流さないとダメらしい。犯罪者に限り、全て開示させる手段があるらしいが。
大きな寮の玄関に着くと、ようやく馬車は止まる。外には、見覚えのある人物が。
カリーヌと同じ色の美しいブロンドに紺碧の瞳。カリーヌのウェーブヘアと違って、こちらはストレートのボブスタイル。顔立ちはガブリエルによく似ている。ガブリエルの青味がかったプラチナの髪は、どちらも似なかったみたいだ。
馬車の到着を、沙織の義弟になったミシェルが待っていた。馬車の扉が開くと、ミシェルはエスコートしてくれる。こういう所がスマートなあたり、やはり公爵令息だ。
「サオリ姉様、お待ちしておりました」
ニコリと笑みを浮かべるミシェルに、気が引き締まる。ミシェルは、この学園でカリーヌを守る唯一の味方だ。見事なシスコンも、却って安心感を与えてくれる。
「ミシェル、ありがとう存じます」
ミシェルの義姉らしく、品良く微笑み、しっかり習った優雅な立ち振る舞いと言葉使いをする。
一瞬、ミシェルは驚いたのか眉を上げたが、すぐに表情はもどる。
(よし……! 及第点は取れたみたいだわ)
先ずは、ミシェルに連れられ学園長室へ向かい、プレート提示の最終的な本人確認が行われるそうだ。今回、付き添うミシェルは、ガブリエルの代理も兼ねている。
二人で長い廊下を歩いていると、チラチラと視線を感じた。今は休み時間のようで、学園の制服を着ている生徒がたくさん居た。
ただでさえ私服の沙織は、髪や眼の色もあり相当目立つ。耳を澄ますと、ミシェルが連れているのがカリーヌ以外の女性ということも、令嬢達の興味を引いたようだ。
そんな中、二人の女生徒がこちらに向かってやって来る。リボンの色が、ミシェルのタイと同じ色だ。
(ミシェルの同級生かしら?)
「ご機嫌よう、ミシェル様」
「……やあ、ディアーヌ嬢にジュリア嬢」
こちらからしか見えない角度で、ミシェルは明らかに面倒そうな顔をした。
ディアーヌと呼ばれた女生徒は何だか大人しそうで、勝気そうなジュリアの後ろにくっついている感じだ。ディアーヌは、チラチラとミシェルと沙織を交互に見ていた。
反対に、ジュリアは沙織をガン見する。黒髪黒眼が気になるのだろう。
「ミシェル様、こちらの方をご紹介いただけますか?」
(ああ、この二人はミシェルが好きなんだ……。そりゃ、気になるよねぇ)
「なぜ、紹介しなければならないのかな?」
「「…えっ?」」
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。ディアーヌは青く、ジュリアはカッと赤くなる。
ミシェルは、本当にカリーヌにしか興味が無さそうだ。この二人が、何だか可哀想になってきた。
「ミシェル、私もこちらのお嬢様方を紹介してほしいわ」
沙織は二人に優しく微笑んだ。
(女の子に意地悪してないで、さっさと済ませてよ)
そうミシェルを見ると、意図を察したらい。
「(はぁ……)こちらは、僕の同級生のディアーヌ伯爵令嬢と、ジュリア子爵令嬢です」
「私は、ミシェルの義姉のサオリと申します。本日より、この学園に編入いたします。学年は違いますが、ディアーヌ様、ジュリア様、仲良くしてくださいませ」
そして、これでもかってくらいのお嬢様スマイルを二人に向ける。なぜか、ポッと二人は赤くなった。
(……ポッ?)
「「よろしくお願いいたしますっ!!」」
勢いよく返事して、二人は去っていった。
「ねえ、……これで、良かったのよね?」
「まあ……(僕的に)問題ありません」
ミシェルの含みの有る言葉は気になったが、そのまま学園長室に向かった。
学園長は、中肉中背の普通のおじさんだった。本人確認も、難無く終わり手続きが終了した。
――そして、担任がやって来た。