テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……今なんて?」
⸻
エリオットが聞き返した。
⸻
無線機の向こうから、か細い少女の声が聞こえる。
⸻
ノイズ混じり。
⸻
途切れ途切れ。
⸻
だが。
⸻
確かに聞き覚えがあった。
⸻
⸻
『だから!』
⸻
『チーズ増量!』
⸻
『オリーブ抜き!』
⸻
『ベーコン二倍!』
⸻
⸻
エリオットが固まる。
⸻
⸻
「嘘だろ」
⸻
⸻
隣でピザガイも眉をひそめる。
⸻
⸻
『聞いてる!?』
⸻
⸻
「シャーロット?」
⸻
⸻
無線の向こうが静かになる。
⸻
⸻
数秒後。
⸻
⸻
『……エリオット?』
⸻
⸻
その声を聞いた瞬間。
⸻
二人は顔を見合わせた。
⸻
⸻
生きている。
⸻
⸻
間違いない。
⸻
⸻
シャーロットだった。
⸻
⸻
Builder Brother’s Pizzaの常連客。
⸻
⸻
世界が終わる前。
⸻
毎週金曜日になると必ずやって来る少女。
⸻
⸻
「オリーブ抜いてって言ったよね?」
⸻
⸻
「ベーコン少ない」
⸻
⸻
「チーズ増やして」
⸻
⸻
店長を困らせ。
⸻
エリオットを振り回し。
⸻
ピザガイに無茶な注文を押し付けていた。
⸻
⸻
十二歳。
⸻
生意気。
⸻
口が達者。
⸻
そして。
⸻
妙に憎めない。
⸻
⸻
「お前生きてたのか」
⸻
⸻
『そっちこそ』
⸻
⸻
即答だった。
⸻
⸻
『死んだと思ってた』
⸻
⸻
「ひどいなぁ」
⸻
⸻
『事実でしょ』
⸻
⸻
全然変わっていない。
⸻
⸻
エリオットは少し笑った。
⸻
⸻
だが。
⸻
次の言葉で顔色が変わる。
⸻
⸻
『助けて』
⸻
⸻
小さな声だった。
⸻
⸻
『お願い』
⸻
⸻
その瞬間。
⸻
ピザガイはもう装備を手に取っていた。
⸻
⸻
「場所は」
⸻
⸻
『ショッピングモール』
⸻
⸻
嫌な予感がした。
⸻
⸻
『地下のゲームセンター』
⸻
⸻
さらに嫌な予感がした。
⸻
⸻
『外にいっぱい居る』
⸻
⸻
最悪だった。
⸻
⸻
そのショッピングモールは有名だった。
⸻
⸻
ルナティックの巣。
⸻
⸻
生存者ですら近付かない。
⸻
⸻
そんな場所に。
⸻
少女が一人。
⸻
⸻
エリオットは無線を握り締める。
⸻
⸻
「待ってろ」
⸻
⸻
『遅いと怒るから』
⸻
⸻
「注文は?」
⸻
⸻
一瞬の沈黙。
⸻
⸻
そして。
⸻
⸻
『チーズ増量』
⸻
⸻
エリオットが吹き出した。
⸻
⸻
『オリーブ抜き』
⸻
⸻
「了解」
⸻
⸻
『ベーコン二倍』
⸻
⸻
「了解」
⸻
⸻
『あと』
⸻
⸻
少女は少しだけ笑った。
⸻
⸻
『銃弾もいっぱい』
⸻
⸻
ピザガイがショットガンを担ぐ。
⸻
⸻
「それは任せろ」
⸻
⸻
⸻
二時間後。
⸻
ショッピングモール。
⸻
⸻
地獄だった。
⸻
⸻
ルナティック。
⸻
ゾンビ。
⸻
崩落した天井。
⸻
血の臭い。
⸻
⸻
「右!」
⸻
⸻
アサルトライフルが火を吹く。
⸻
⸻
「左だ!」
⸻
⸻
ショットガンが轟く。
⸻
⸻
怪物が倒れる。
⸻
⸻
進む。
⸻
⸻
また進む。
⸻
⸻
まるで。
⸻
配達みたいに。
⸻
⸻
昔と同じだった。
⸻
⸻
違うのは。
⸻
配達先までの道が怪物だらけなことくらい。
⸻
⸻
「Builder Brother’s Pizza!」
⸻
⸻
エリオットが叫ぶ。
⸻
⸻
「ご注文の品をお届けです!」
⸻
⸻
「声がでかい!」
⸻
⸻
ピザガイが怒鳴る。
⸻
⸻
その直後。
⸻
また一体吹き飛ばした。
⸻
⸻
地下へ続く階段。
⸻
⸻
ゲームセンター。
⸻
⸻
そして。
⸻
⸻
「遅い!!」
⸻
⸻
少女がいた。
⸻
⸻
バリケードの向こう。
⸻
⸻
ボロボロになりながら。
⸻
⸻
それでも立っていた。
⸻
⸻
シャーロットだった。
⸻
⸻
「お前なぁ!」
⸻
⸻
エリオットが笑う。
⸻
⸻
「注文うるさいんだよ!」
⸻
⸻
「客だから!」
⸻
⸻
「終末世界だぞ!」
⸻
⸻
「だから何!」
⸻
⸻
全く変わっていない。
⸻
⸻
シャーロットは鼻を鳴らす。
⸻
⸻
だが。
⸻
次の瞬間。
⸻
⸻
涙が零れた。
⸻
⸻
「……ばか」
⸻
⸻
小さな声。
⸻
⸻
「本当に来るやつがある?」
⸻
⸻
エリオットは答えない。
⸻
⸻
代わりに。
⸻
保存容器を差し出した。
⸻
⸻
中には。
⸻
出発前に焼いたピザ。
⸻
⸻
チーズ増量。
⸻
オリーブ抜き。
⸻
ベーコン二倍。
⸻
⸻
昔と同じ。
⸻
⸻
シャーロットはしばらく見つめる。
⸻
⸻
そして。
⸻
泣きながら笑った。
⸻
⸻
「冷めてる」
⸻
⸻
「文句言うな」
⸻
⸻
「ベーコンもっと欲しい」
⸻
⸻
「帰るぞ」
⸻
⸻
「無視!?」
⸻
⸻
そのやり取りを見ながら。
⸻
ピザガイは少しだけ口元を緩めた。
⸻
⸻
世界は終わった。
⸻
店もなくなった。
⸻
客もいなくなった。
⸻
⸻
それでも。
⸻
Builder Brother’s Pizzaの営業 は終わっていなかった。
⸻
⸻
少なくとも。
⸻
その日だけは。
⸻
常連客の元へ。
⸻
ちゃんと届けられたのだから。
ゆゆゆゆ
16
ゆゆゆゆ
76
29