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藍Side
嘘?
関係を持ったというのは、嘘?
智さんの言葉で、頭の中がパニックに陥る。
「嘘‥なわけないやん‥何で今更嘘つくん?」
「嘘じゃない‥」
「嘘に決まってる!じゃなきゃ、その身体にある跡は何なん!?」
さっき見せつけられるように示された場所を指さす。智さんの鎖骨下には確かに跡があった‥。見間違えるはずがない。
「これは‥確かに祐希がつけた跡だよ‥」
「ほらっ!やっぱり‥ 」
間違いじゃなかった。先程チラッと見えた跡。しかも、1つや2つじゃなかった気がする‥。
祐希さんに愛された跡なんだと考えるだけで、不覚にも泣き出してしまいそうになる。だが、グッと我慢する。泣いてたまるかと‥。
「‥昨夜、酔った祐希にキスした時、もう祐希はブラックアウトになってて‥」
「‥ブラックアウト‥?」
聞き慣れない言葉。
「酔いすぎて記憶がなくなる状態のこと。それを見て、チャンスだと思ったんだ。今なら、俺でも受け入れてくれるんじゃないかって。卑怯だと思われても構わないと思った。だから、もう一度キスしたんだ、そしたら‥」
言葉を区切り、こちらを見つめる。潤む瞳で。
「祐希からも、 キスしてくれたんだ。俺、嬉しくてそのまま身を委ねようと思った。でも‥祐希がずっと呼ぶんだ。”藍“って‥」
「‥‥‥‥」
「最初は藍じゃないって言ってたけど‥もういいやって。藍と間違えられてもいいやって。それで祐希が抱いてくれるならって‥」
「‥‥‥‥‥」
「だから、途中から藍のフリをした‥。藍って呼ばれたら応えたし。そうしたらさ、祐希が嬉しそうなんだよ。嬉しそうに身体中にキスしてくれて‥」
「‥‥‥‥」
「何にも言わないね?‥いや、もうこの際全部話すけど‥構わない?」
返す言葉がなく、ただ頷いた。今はそれが精一杯だったから‥
「‥祐希が俺の身体に跡をつけてくれるから、愛されてるって気がしたんだ。このまま最後までしようとも思った。でも、段々と辛くなってきて‥だって、ずっと口にするのは”藍“ ”愛してる“だったもん‥決して俺じゃなかった‥俺の名前なんて呼ぶはずがなかったんだ‥」
わかっていたのに‥そう言いながら、また智さんは涙を零した。
「藍と間違えられてもいいから‥愛されたいと思ったのに。構わないとまで決めたのに。最後の最後に‥やっぱり思ったんだよ‥俺だって認識されて愛して欲しいって‥
だから、途中でやめた。そのまま寝たよ。
嘘じゃない‥」
「智‥さん‥」
「藍、俺はお前が羨ましかった。無条件で愛して貰えるお前に、なりたかったのに。最後の最後に、なれなかった。俺はお前にはなれなかった‥」
「な‥んで、俺になりたいん?‥智さんは智さんやろ?今の智さんは、祐希さんしか見えてないん?本当に?‥あんなに優しかった小川さんの事を‥忘れてしまったん?」
「‥愛されたいと思ったんだよ‥」
「小川さんからあんなに愛されてるのに‥なんで気付かんの?失ってもいいって智さんは言うけど‥それは嘘やと思う。失ってからじゃ、遅いんよ。一度失ったものはもう戻らないんやから‥」
そう‥。
それに、例え失った後に取り戻せたとしても、それはまた別物になっている可能性があるということ。同じままでいる保証など、どこにもない。
だからこそ、大切にしないといけない。
失くしちゃいけない、
後で後悔しないためにも‥。
「‥もう遅いよ、小川はきっと俺に失望したと思う‥」
「それを決めるんは智さんやないやろ?どういう結果になるか、分からんけど‥話をするべきやと思う」
「話か‥、そうだな‥俺、全然話してない。大事な事なのに‥。小川と話‥するよ、ちゃんと向き合う」
涙を手で拭いながらそう呟き、俺を見つめる瞳は少しだけ、昔の面影を見せてくれた。
「藍‥色々、ごめん。でも、ほんと、俺‥祐希が好きだったよ‥最後に言うべきじゃないって分かってるけど。好きだった‥お前を裏切ってでも欲しかったんだ‥お前の事も大事な仲間だって思ってたのに‥」
傷つけてごめん‥。
最後に告げられた言葉は謝罪だった。
そして、祐希さんへの決別の意味も込められているのだろう‥
俺はただ、頷く事しかできなかった。
太志Side
「なぁ?長くね?大丈夫かな‥まさか殴り合いとかしてないよな?」
藍と智君が2人で話し合う為、俺と祐希は別の部屋にいるが‥時々言い争う声が聞こえる。気が気じゃない。
「まさか‥智君は殴らないよ、藍だって‥」
「色恋沙汰の時は分かんねぇぞ。あっ、お前は殴られても仕方ないとは思うけどな!」
「殴られた方がマシかもな‥」
「ちょっ!嘘だって!お前を殴ったら藍が悲しむから、やるわけないじゃん!」
「‥太志は本当に藍を大事にしてるんだな‥」
「当たり前だろ!お前はもっと大事にしろ!俺なんかよりもめちゃくちゃ藍に惚れてるくせに‥もっと愛されたいなんて、欲張るからこんな事態になるんだぞ。まぁ、これで懲りたろ?お前も‥」
「うん、もうしない。それは約束する」
「よしっ!それならもう大丈夫だな、」
「‥藍はまた俺の所に戻ってくれるかな‥」
「それは知らね!」
弱音のような言葉に、無骨に返事をしケラケラと笑うと、つられて祐希も微かに苦笑した。
それを見て少しホッとする。
来た時から、顔色が優れなかったから。
今回の元凶は祐希の行動によるものだが、やはり元気のない姿を見るのはどうも‥。
‥と、そんな会話をしていたら別の部屋で話し合っていた藍と智君がやってきた‥
戻ってきた二人は実に対照的だった。
智君は泣き面。藍は唇を固く結び真一文字になっている。表情だけでは、その心理は読み取れそうもない。
「藍!?」
そんな二人を見て、すかさず藍のもとに駆け寄る祐希。いつもの光景だが、それを寂しそうに見つめる智君の心情を察すると複雑ではある‥。
それでも、ここは智君を連れて帰らなければ行けない‥どうしたものかと思案していたら、
「祐希‥俺‥帰るよ‥」
智君がそう伝える。辿々しい喋り方には少しばかり、未練が含まれているような‥
「智‥君‥ごめん‥約束‥」
「いいよ、元々俺が無理矢理交わしてた事だから‥それに、小川との事もあるし‥」
「そか‥うん、わかった‥」
そんな会話の後、俺は智君と一緒に帰宅する事にした。
後は藍と祐希で解決するだろうと思って。
帰り際に藍が、子供のように俺の裾を掴むが‥
「大丈夫」
と念を押して、祐希に託してきた。
我ながら完全に保護者だな‥
そう思うが、まぁいいさ。
あの二人だ‥
きっと大丈夫だろう。
根拠はないが、
俺はそう確信している。
きっと‥‥‥‥。
コメント
7件
大志さん好きですね、ハァイ もう読んでるこっちまで感情がごちゃごちゃになります🥲
大志さん優しい♡ ともあれ、未遂であったことが唯一の救い💦 でもゆうきさん。無罪ではないよ〜٩(๑`^´๑)۶ さて藍くんどうする??
智さんちょっと悲しい〜 あそこから祐藍に戻ったの凄い!