祐希Side
 太志達が帰路についてから、ある程度の時間が経過した。
とりあえずと‥珈琲を淹れたが、藍は飲むこともなくただ静止している。
気まずい沈黙が流れる。
 怒っているだろうかと何度も顔色を伺うが、無表情に徹した顔からは読み取ることは出来ず。
 ただ時間だけが過ぎていく。
 
 
 
しかし‥
 
 「‥祐希さん‥1つ‥聞いても‥ええ?」
 沈黙を破ったのは藍からだった。
 「えっ‥あっ、うん、いいよ、なに?」
 「‥俺の事‥どう思ってるん?」
 「、!!‥好きだよ、好きに決まってる!」
 「そう‥それなら、なんで智さんに協力してなんて頼んだん?それからやろ?智さんが祐希さんの事好きになったんは‥。」
 「それは‥ごめん。欲が出た‥藍からもっと愛されたいって思ってしまったから‥」
 執着し過ぎてしまった。今更後悔しても遅いのだが‥。
 
 「俺が‥ほんまに好きなら‥もうあんな思いはさせんで欲しい。昨夜は辛かった。憎くて殴りたいぐらいに‥」
 ギュッと拳を握り締める。太志はああ言っていたが、きっと今も殴りたい気持ちがあるんだろう。
 咄嗟に抱き締める。抱き締めるまで気付かなかったが、藍の身体は少し震えていた。
 「殴っていいよ、俺なら大丈夫だから、」
 「な‥ぐれるわけ‥ないやん‥祐希さんの‥アホ‥」
 絞り出すように発した後‥不意に藍に見つめられる。
真顔に近い表情は消え‥涙がぼろぼろと零れ落ちる。まるで幼子のように泣く藍をただ、ひたすら抱き締めた。
 ごめん‥そう呟きながら、頬を伝う涙を拭うが‥とめどなく零れ落ちてしまう。
 何度も頬を拭い、目元に触れると‥少し腫れている事に気付く。
昨夜も泣いていたのだろうか‥そう思うと、居た堪れない。
 俺のせいだ‥
 ごめん、藍‥。
 
 居てもたってもいられなくなり思わず、ぐしゃぐしゃな顔をして泣く藍の顔に両手を当て‥キスをした。
当然、ビクッと強張る素振りを見せるが‥
額、目元、頬、そして、唇に‥順にキスを送ると次第に身を委ねるようになる。力が抜けていくのを感じる。
 「藍‥本当にごめん。もう二度としない、こんなことはこれっきりだから。信じて欲しい。だから‥もう泣くなよ、お前に泣かれるのが一番辛い‥」
 「智さんとこにも行かへん?」
 「いかない、誰のところにもいかない。」
 「俺だけ、好きでいてくれる?」
 「ああ‥誓う。藍だけだよ‥愛してる‥」
 本当の気持だから‥。
そう伝えると‥
 
 藍が不意にふっと笑った。
 涙でぐしゃぐしゃの顔だったが、
 綺麗だと‥思わず見惚れてしまう。
 
 そうして‥
 もう一度俺達はキスを交わした。
 それは、
誓いのキス。
 
 決して忘れないようにと‥。
 
 
 
 
時刻は20時。
妙にソワソワとしながら時計を見つめる。
 
 ちなみに藍は、すっかり落ち着いた様子で携帯を触っている‥きっと塁に連絡をしているんだろう。
 
 今夜は俺の意向で泊まってくれる事になったのだ が、一向に藍が動く気配がなく‥次第に俺の中に焦りが出始める。
 「あっ、あのさ、藍?」
 「‥ん?どうしたん?」
 「いや、今夜は泊まるだろ?」
 「うん、さっき言いましたよね?」
 「いや、それならさ‥入らないの?」
 「入る?何に?」
 ‥わざとなのだろうか。しかし、キョトンと不思議そうに見つめる瞳は‥本気で忘れているのかもしれない。
 「‥シャワー、入るだろ?///‥いつも入ってるから‥///」
 
 俺の台詞を聞いて‥途端に顔を真っ赤にする。
いつも‥と付け加えた事で思い出したのかもしれない。
 
 「入るけど‥///祐希さんこそ早く入った方がええよ、誰かさんの痕跡がある身体なんて俺、嫌やから‥」
 
 「痕跡‥‥?あっ‥‥」
 すっかり忘れていた‥。朝シャワーを浴びているが、昨夜、智君と‥。
記憶がないとは言え、藍を裏切ったんだ。そんな俺が、藍を求めてもいいんだろうか‥
 「祐希さん?‥」
 「‥そう‥だよね‥智君と寝た俺となんて‥嫌だよな‥虫が良すぎるよね‥」
 考えなくても分かることじゃないか。藍が許してくれたからといって‥求めていい理由にはならない。
 
 「智君と‥寝た?‥なに言ってるん?寝てないんやろ?」
 暗く沈み込む俺の顔を覗き込みながら、藍が不思議そうに問う。
 「いや‥寝たよ、俺‥」
 「覚えてるん? 」
 「ううん‥覚えてない。でも、智君がそう言ってたから‥」
 「祐希さんってほんま、アホっすよね!」
 「うん‥って、えっ、ア、アホ?」
 
 予期せぬ言葉に思わず顔を上げる。そんな俺を見ながら藍がクスクスと笑っていた。
 「智さん、言うとったよ。祐希さんとは最後までしてないって。」
 「えっ!?智君が!?ほんとに?」
 「うん‥ほんまはしようと思ったけど、やめたって‥ほんまに覚えてないん?記憶なくなるまで呑んだらアカンやん‥祐希さんはアホや‥」
 
 その後は言葉にならなかった。勢いよく俺が抱き締めたせいで。
苦しい‥と腕の中で藻掻く藍をそれでも、ありったけの力で抱きしめてしまう。
 一線を越えてはいなかった。安堵の気持ちが広がる。
 「もう呑んだらアカンよ!」
 「うん、もう呑まない、約束する」
 
 呆れながらそう忠告する藍に、何度も約束を交わしながら再度キスをした。
 
 愛しい恋人に、
 
 何度も‥。
 
 
 
 
 その後は急ピッチで、浴室へと藍を急かすように連れて行く。すると‥上がってきた藍は、ご丁寧にもきちっと洋服を着用して出てきたので‥そのまま捕まえ、ベッドに誘導する前に脱がしてしまう。
 あまりの忙しなさに‥藍のポカンとした顔が不覚にもツボに入ってしまう。
 「なっ、なんで笑うん!?///」
 
 「いや‥ごめん、笑。藍が可愛いからつい‥」
 笑う俺を見て‥子供みたいに頬を膨らませる藍を引き寄せる。
そして、軽いバードキスを施す。ゆっくりと唇を滑らせると、その度に身体が反応するようにビクつき‥
 「祐希‥さん、電気‥消し‥てよ‥」
 
 そのままベッドに転がすと、顔を真っ赤にした藍が恥じらうように告げる。
 
 「藍の身体見たいし、 勿体ないじゃん」
 
 「‥俺ばっかり裸やし///」
 
 ふむ。それもそうかと‥急いで服を脱ぎ捨てる。
すると、チラッと見ていた藍が‥
 
 「‥祐希さん‥にも跡、ついてるやん!!」
 「えっ?」
 急な大声に思わず飛び退くと、不機嫌そうな藍が俺を指差していた。
 「首にあるやん、見たないよ、そんなもの‥」
 首?‥あっ‥、そこでハッと思いだす。智君がつけていったキスマがあるんだった‥。
 ごめん‥と慌てて謝ろうとする俺よりも先に‥キスマがあったであろう場所に、藍が近付き唇を寄せる。
 チクッとする痛み。
 そうして、満足したのか唇を離し、手でなぞりながら藍が呟く。
 「上書きしたんやから、大事につけてて‥」
 悪戯っ子のように微笑む。
 
 可愛い藍‥
 
 愛おしい‥。
 
 そう何度も呟きながら、
 
 俺達は身体を重ねた。
 夜は静かに更けていく‥。
 
コメント
6件

よかっまぁ好き
一人で拳握りしめました笑 良かった😭藍くんの上書きが最高すぎて口角どっかいきました^^ 小川くんと智さんはどうなる事やら、
やっぱりこの2人がお似合いですね!祐希さんには欲張らずに藍くんの側に居てあげてほしいですね😄次回も楽しみにしてます!