テラーノベル
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「もういっその事、全部かなぐり捨てて誰も知らない所で暮らしたい」
「ゆったりとした時の流れの中で、のどかで静かな環境で子育てに集中したい」
そんな逃げのぼやきしか漏れない程に
私は疲弊し切っていた
リュカと共に過ごせるようになった今も
先の見えない路頭に迷い込もうとしている
「んー……じゃあいっそのこと会社辞めちゃえば?」
リュカと一緒にいたい
だからこそ
そんな考えには至れない
「リュカの仕事もあるし、そんな簡単にはいかないよ」
「なんで?それが問題なのなら俺も会社辞めるよ」
「……」
この人は
平然と涼しい顔で
何てことを言うのだろう
嘘なのか本当なのかも判別つかぬほど
突拍子もない事を口にする
「いやいやいや、現実的な話……」
「現実的な話だよ」
「……」
週末の昼下がり
二人並んでソファにもたれ掛かり
ダラダラと寝そべりながら
窓の外の傾きかけた陽を眺めていた
ダラダラと愚痴をこぼす私
それを
ダラダラと聞いていたリュカ
二人ダラダラしながら
今
リュカは
現実がひっくり返るほどの
とんでもないことを口にしている
私が口にしたのは
愚痴の延長線上にある
単なる叶わぬ願望だった
さほど真剣でもなく
さほど現実的な話とも捉えていなかった
それを
真剣に捉え
現実的だと言い切り
とんでもないことを口にしている
「瑠奈はどのくらい本気でそうしたい?」
「……」
「まあ……そりゃ出来ることなら……」
「じゃあ辞めるわ」
即断即決だった
それでも尚
それが本当なのか冗談なのか
その真偽に疑問が消えず
全く以て確信が持てない
「ねえ、待って」
「それってさ……本気で言ってるの?」
「うん、瑠奈は違うの?」
「現実的に無理でしょ?」
「何で?会社辞めるのが無理なわけないでしょ」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「そういう意味だよ」
「そんなの人生における現時点での選択でしかない」
「働きたくなったらまた働けば良いじゃん」
「瑠奈の願いは今しかできないよ」
「普通とか常識のバイアスで優先順位曇ってない?」
「……」
リュカの基準は
人生というスケールの大きな大枠で捉えている
もしかしたら
ある意味
世間体や一般常識に縛られた私よりも
現実的な意見なのかもしれない
私は
自分の中の
普通や常識といった概念そのものが
溶解するのを感じていた
「……」
「あのさ……もしもだよ?」
「もしも私の言った事が本心だったとして……」
「それ、本当にいいの?リュカ的に」
「いいよ」
「……」
しつこく繰り返し聞き直しても
返ってくる答えは同じ
私は
その事実を受け止めきれないでいた
でも……
もしも本当に
そんな事が
そんな夢のような気迷い事が
本当に叶うのなら
本当に現実にできるのなら
私は……
——どうする?
嘘のつもりでも
冗談のつもりでもなかった
ただの願望
どうせ叶うはずのない
気迷い事だったものが
突如として
現実味を帯びて
色彩を彩り始めた
「もしさ……本当にそうなったら……どうするの?」
「どこに住むの?リュカは何するの?」
「私は何をすればいいの?」
「好きなようにするんだよ」
「良い環境で子育てに集中したいんだろ?」
「それで良いじゃん」
「どこに住むのか考えるのも楽しいでしょ」
リュカは
本気だ
本気で
人生におけるただの選択肢の一つと捉え
実現可能な未来と捉えている
「ただ、辞任届出して……その他諸々……」
「早くても一ヶ月以上はかかるかな」
「瑠奈もそれくらいじゃない?退職願出してから」
「瑠奈の妊娠の経過を考えると早いに越したことないよな」
未だに半信半疑な私を残し
現実的にプロセスを具現化するリュカ
私は……
本当にいいのだろうか?
私のせいで
私の願望で
私の一存で
社長のリュカを
辞めさせていいのだろうか?
自らの愚行により解雇になった純也とは
その意味合いは全く異なる
リュカを犠牲にしてしまう
その罪悪感から
その決断に至ることに
心が鍵を掛け
踏み出すことを躊躇する
——私は
臣桜
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BrownSugar
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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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コメント
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おお、第105話…ついに瑠奈とリュカが「全部捨ててどこかへ」って話を現実レベルで真剣に考え始めた回か。リュカの「会社辞めれば?」を涼しい顔で言い切るところ、マジで彼のスケール感やばいな。瑠奈の「自分のせいでリュカを犠牲にしてないか」って罪悪感、めっちゃわかるわ…。理想と現実の狭間で揺れる心情描写がリアルで刺さった。続きが気になる🔥