テラーノベル
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「うわっ、シャンデリア高!」
「いや~今日は本当にありがとうございます!」
今日は早めに会社を退社し
伊藤さんと二人
会社から程近い五つ星ホテル内にある
とある高級レストランに来ている
「全然いいの」
「伊藤さんには迷惑掛けっぱなしだったし……」
「私不束者だから、伊藤さんには本当に助けられたんだ」
「それに約束したでしょ?落ち着いたらご馳走するって」
「律儀に覚えててくれたんですね!」
「じゃあ……遠慮なくご馳走になります!」
私は
上司の桐谷部長に退職願を提出した
何の前触れもなく
あまりに突然のことだった為
驚きを以て遺留をされたが
一身上の都合を盾に揺らぐことはなく
根負けした桐谷部長は
最終的には退職願を受理してくれた
一方のリュカはというと
取締役会やら登記やらで
息つく暇も無いほど多忙な日々をこなしている
つまりリュカもまた
辞任届を提出した
会社を買収後新CEOに就任
一年も経たない内にその敏腕社長の突然の退任
株主や社員へも相応の説明を要した
社内は社長退任の話題で持ち切り
その衝撃の影に隠れ
私の退職はさほど話題に上らなかった
結局のところ
概算で見積もった通りには行かず
二人が全てを整理し片付けるのには
二ヶ月は時間を要しそうだ
それでも
私の未来は明るい
一点の曇りもなく
希望しかなかった
「お飲み物は何になされますか?」
こんな折だからと
シャンパンのメニューに目をやるも
その驚愕の値段にたじろぎ躊躇する
「こんな機会ですからシャンパンにしましょうか~?」
容赦のない伊藤さんの
屈託のない笑顔に否定もできず
私たちはシャンパンを注文した
即座に注文の品を運んできたソムリエが
シャンパンの詳細な説明の後
グラスへと丁寧に注ぎ入れる
「これ、退職までまだ時間ありますが……」
そう言うと
伊藤さんは用意していた花束をくれた
「うわぁ!綺麗!」
「本当に何から何までありがとう伊藤さん!」
その瞬間
勤めた会社での出来事が
走馬灯のようにフラッシュバックした
良い事ばかりではなかった
良い事などほとんどなかった
それでも
終わり良ければ何とやらで
朗らかな気持ちで思い出を振り返ることができた
程なくして運ばれてくる前菜
待つことなく
テンポ良く運ばれてくるコース料理
値段を裏切らぬその味に
伊藤さんと二人舌鼓を打ちながら
短かったが楽しかった
伊藤さんとの思い出を
あれこれを振り返り楽しんだ
「でも本当に良かったです……」
「辞める理由を尋問するつもりはないですが、水川さんの表情からその内情は伺えます」
「きっと水川さんにとって良い退社なんですよね」
伊藤さんは
終始笑顔で
私の門出を快く祝ってくれた
***
「——で、本当のところ何があったんですか?」
酔いも回り
情報屋の本領を発揮し始めた伊藤さんを
闘牛士のようにいなす
追加で注文したワインボトルが空くまで
私たちは特別な料理を
私は特別な門出を
心行くまで満喫した——
***
「では、ここにサインをお願いします」
「……はい、では承りました」
「搬入は二日後の朝九時からになります」
「ありがとうございました、宜しくお願いします」
バタンッ!
「いや~終わったあ……」
「この二ヶ月間怒涛だったな……」
私たちは
退職までの間
多忙な合間を縫って
移住先の選定と引っ越しの準備を進めて来た
それに付随する役所の手続きなど
やるべき事は山の様にあった
それが
今日
結実し
新たな未来に向けた全ての準備が整った
「本当にご苦労様!」
「これからはしばらく思う存分休めるね」
「いや、まだあと一つ残ってる」
私とリュカは
銀行へ向かった
入口付近に並ぶATMを抜け
奥の窓口へと足を運ぶ
大口顧客のリュカは
別階の応接室へと通された
金魚のフンのように
つられて私も後を追う
そこでリュカは
私の母親に
約束の4,000万円を振り込んだ——
誓約書まで取り交わしたからか
はたまた
その対価の大きさからか
母親もまた
騒ぐことも
暴れることもなく
大人しくこの時を待った
「うん……うん……わかった」
「うん……それじゃあねお母さん」
「体に気を付けて元気でね」
振り込んだ旨を伝える一報を入れると
母は冷静にその報を受け
何ら騒ぎ立てることもなく
私を送り出してくれた
結局は
全てはリュカの掌の上
全てリュカの目論見通りに事が進んだ格好となった
臣桜
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BrownSugar
2,386
#オフィスラブ
猫塚ルイ

1,050
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コメント
1件
おお、ついに第106話……ここで一つの区切りが来たんですね。水川さんが退職し、リュカも会社を去って、二人で新たな生活に向かう――まさに「掌の上」というタイトル通り、リュカの計画がすべて計算通りに進んだ感じがします。 特に母親への4,000万円の振り込み、あれがこの物語の根っこだったんだなと。誓約書まで交わして、母親も大人しく受け入れた……リュカの手腕が光るシーンで、思わず「やっぱりこの男、只者じゃない」と感じました。 伊藤さんとのレストランの描写も温かくて、退職後の門出を祝う空気感が良いですね。シャンパンの値段にたじろぎつつも、結局は楽しむ――人間味があって好きです。 あとは……引っ越しや銀行手続きの細かい描写が「現実味」を帯びていて、ファンタジーだけど地に足がついた世界観を感じました。これからの展開が楽しみです!